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第106話 コメント

「やばい、宅飲みだとやっぱり酔うかも……」

「というか、それヤバイやつだろ?」


 顔を赤くした穂香は、額に手を当てながら酔った素振りを見せる。


「どうする? 休むか?」

「ううん、酔ったってだけで、勝負はこれからだから」

「いや、勝負ってなんだよ」


 気を使ってみたものの、そう言って穂香は謎のやる気を漲らせる。

 そしておもむろに立ち上がると、冷蔵庫からもう一本のお酒を手に戻ってくる。


「どっこいしょ」

「いや、どっこいしょってお前……」

「なによ、文句ある?」


 いや、文句っていうか……。

 戻ってきた穂香は、さっきまで座っていた向かい側ではなく、何故か俺の隣に座ってきたのであった。


「ね、一緒に動画観ようよ?」


 戸惑う俺を他所に、そう言って穂香は自分のスマホを取り出すと、動画配信サイトを表示する。

 そして色んなライバーが配信している中、穂香が選んだのは……空色ミリアちゃんの配信だった。


 ミリアちゃんと言えば、中の人はあの有名子役だった鈴原レイア。

 実は物凄く有名人が担当していることには、世間のみんなもまだ気付いてはいないようだった。


 そんなミリアちゃんの今日の配信は、有名レースゲーム。

 リスナー参加型で、ミリアちゃんが五位以上になれたら終了という企画だった。


 しかし、配信開始から一時間経過していることから結果はお察しだった。


『もう! 誰よこんなところにバナナ置いてったの! 引っこ抜くわよ!』

『だぁー! 当たってくるなぁー! 埋めるわよ!』


 怒りながらプレイするミリアちゃん。

 埋めたり引っこ抜いたり、独特な怒り方をしていることにコメント欄は爆笑に包まれていた。

 こういう叩けば響くタイプは、配信者に向いていると言えるだろう。


『コラー! わたしを抜いていくなぁー! 埋めるわよってぇ!!』


 ミリアちゃんの激怒に、『埋めたぁー!』と謎の盛り上がりを見せるコメント欄。

 そして結果は、このレースも十一位とビリから二番目。

 またしても配信を終われないことに、いい加減我慢の限界になるミリアちゃん。


「あはは! この子面白いよねー!」

「そうだな」


 そんなミリアちゃんを観ながら、楽しそうに笑う穂香。

 まさかミリアちゃんも、この配信を俺達に観られているとは思わないだろう。


『は? アユムならもう終わってるだろうなってぇ? あんた、舐めるんじゃないわよ! わたしが最強なんだからねっ!』


 すると、たまたま拾ったコメントに自分の名前が出てきた穂香は、ニヤリと笑みを浮かべる。

 そして穂香は、そのままミリアちゃんの配信にコメントを送るのであった。


『は? アユム先輩がいるってぇ? いやいや、わたしの配信なんかにいるわけがな……いるぅー!?』


 アユムからのコメントに、百点満点のリアクションを見せるミリアちゃん。


『え、なになに!? ――最強なら、今度勝負しよっかって……うぇえええぇええ!?』


 そしてコメントを読み上げたミリアちゃんの反応に、満足そうに笑いだす穂香。

 やはり叩けば響くタイプのようで、やっぱりこの子面白いと爆笑する。


『……ま、まぁ? どうしてもっていうなら、勝負してあげないこともないけど?』

「あら? 言うじゃない、このアユム様に向かって」


 そう言って、面白そうに再びコメント入力する穂香。

 するとミリアちゃんは、すぐにそのコメントを拾った。


『えっと……「じゃあ、負けた方が罰ゲームってことでいいかな」って……いや、そ、そういうのは、ちょっと違うような気がするっていうかぁ……』


 まさかのアユムからのコメントに、一気に弱気になるミリアちゃん。

 すると、コメント欄には『さっきの威勢はどうした?』『逃げてて草』『アユムに百万ペリカ』とミリアちゃんを煽るコメントが流れていく。

 そしてダメ押しの、アユム本人からも『逃げるの?』という煽りコメント。


『は、はぁ!? じゃあいいわ、やってやるわよっ! やればいいんでしょ!? 絶対に埋めてやるんだからぁ!』


 結果、その煽りにまんまと乗らされたミリアちゃん。


「埋めたぁー!!」


 そんなミリアちゃんに、穂香はコメント欄と同じく埋められることに大喜びするのであった。


「次のコラボ、決まっちゃったかなぁー」

「いいじゃん、楽しそう」

「ふふん! 後輩可愛がっておくよ」


 負ける気なんて微塵もないのだろう、ドヤ顔でそう宣言する穂香に俺も笑ってしまうのであった。


「ついでに、彰もコメントしたら?」

「俺? 俺はいいよ、荒れても嫌だし」

「そのぐらいで荒れないって。逆にしない方が、不仲に思われちゃうかもよ?」


 そう言われると、そんな気もしてきてしまう。

 だから俺も、一言だけコメントしてみることにした。

 あんまり他のライバーにコメントはしないから、ちょっと緊張するな……。


「じゃあ……『二人のコラボ、楽しみにしてる』っと」


 よし、送信。

 これぐらいなら、当たり障りないだろう。


 ……しかし結果は、これぐらいでは済まされなかった。


『え? アーサーだ!』

『うぉおおお! コメ欄にアーサー!!』

『これはレア!』


 アユムの時より、盛り上がりをみせるコメント欄。

 それもそのはず、俺は滅多に人の配信にコメントしないからだろう。


『はぁ? いくらなんでも、アーサーさんまでわたしの配信を……って、いるぅうううぇええ!?』


 結果、またしても百点満点の反応をしてくれたミリアちゃん。


 俺からすれば、ミリアちゃんの方こそ圧倒的に有名人。

 だというのに、そんなミリアちゃんがこうも驚いてくれたことに、思わず笑ってしまうのであった。



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