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第104話 助っ人

「いけない、作業しないと……」


 穂香に抱き付いて満足したのか、クリスはそう言ってパソコンの前に座ると、イラストレーターの仕事に戻ろうとする。


「待て待て、まだ治ってないだろ」

「でも、進めておきたい」

「ちなみに締め切りはいつなんだ?」

「……一ヵ月後」


 一ヵ月……。

 正直、こういう仕事にどれぐらい時間を要するのかとかはよく分からない。

 それでも、今日こんな状態で無理して作業するほど、まだ切羽詰まってはいないように思う。

 何故なら、言っているクリス本人の顔にそう書いてあるからだ。

 ただ性格上、作業は前倒しで進捗させたいのだろう。

 ……配信はしないけど。


「こりゃ大変だ」


 すると穂香は、そう言ってパソコンと向き合おうとするクリスを後ろから抱きしめる。


「じゃあさ、クリス。割り切ってやってこっか」

「割り切る……?」

「そう、今日のところは一日徹底的に休む。それで明日改めて様子をみよう。それで治ってれば万々歳、まだ体調悪ければロスタイムに突入」

「ロスタイム……でも、作業が……」

「クリスだって、こんな状態のままずっと作業なんてしたくないでしょ?」

「それは……そう」

「じゃあまずは、ちゃんと休んで治さないとね」


 穂香のその言葉に、黙ってこくりと頷くクリス。


「よし、えらいえらい。じゃあ、もう一回横になろっか」

「うん……」


 頭をよしよしと撫でながら、クリスを褒める穂香。

 こうして、慣れた様子ですっかりクリスをコントロールする穂香は、再びクリスを休ませるため寝室へと連れて行ったのであった。

 何て言うか、やっぱり俺一人じゃ今みたいに上手く誘導はできなかっただろうから、穂香が来てくれて本当に良かったと思う。


 おかげで散らかっていた部屋も片付いたし、この調子ならクリスも大丈夫そうだ。

 何だかもう俺は必要ないかなと思うけれど、一応クリスにいてやると言った手前、せめて近くにいてやろうとは思うけれど。


 そしてクリスを寝かしつけてきた穂香が、再びリビングへ戻ってきた。


「ふぅ、クリスも相変わらずだね」

「さんきゅ、助かったよ」

「全然良いんだけどさ、彰は今日どうするつもりなの?」

「傍にいてやるって言っちゃったし、一応居ようかなとは思ってるけど」

「そう、まぁそれがいいだろうね。――それじゃわたしも、一緒にいよっかな」

「え、穂香も!?」

「何よ、駄目なの?」


 ジト目で睨んでくる穂香。

 別に嫌だから驚いたわけではない俺は、慌てて首を横に振る。


「いや、残ってくれるんだなって思って」

「当たり前じゃない、仲間なんだもん。――それに、彰だけ残してったら何するか分からないしね」

「おいおい、信用ないな……。というか、それなら逆に俺は要らないんじゃ……」

「それは駄目。わたし一人じゃ、暇になるじゃない」


 疑いつつも、残れという穂香。

 まぁたしかに、俺も一人でどうしようと思っていたぐらいだからお互い様だった。


 こうして今日のところは、二人でクリスの看病することに決まったのであった。


「とりあえず、晩御飯よね」

「ああ、もう良い時間だもんな」

「キッチンを借りてもいいけど――まぁ買ってこよっか」

「そうだな」


 中々人の家の調理器具を勝手に使うのもアレだし、今日のところは適当に買ってくることにした。

 というわけで、俺は穂香と一緒に家を出ると、最寄りのコンビニへと向かうのであった。



 ◇



 すっかり日の落ちた夜道を、穂香と並んで一緒に歩く。

 今日は何も予定がなかった俺だけれど、急遽クリスに呼ばれ看病をし、そして今は穂香と一緒にコンビニへ向かって歩いている。


 クリスは大変な状態ではあるものの、こうして二人に会えていることで充実感みたいなものを抱いている自分がいるのであった。


「ちなみにこの先、コンビニは二つあるんだよね」

「へぇ、そうなんだ」

「でもわたしは、既に行きたいコンビニは決まってるの」


 そう言って穂香は、コンビニ名AとBの二つを挙げ、どちらが行きたいコンビニでしょうと質問してくる。

 そんなどうでもいい質問だが、ここは俺も真剣に考えて答える。


「そうだな……Bだな」

「ほう? その心は?」

「だって穂香、チョコ好きだろ? あのコンビニのチョコレートケーキ、前に食べてただろ」


 ふと思う出した、前に穂香がコンビニのチョコレートケーキを美味しそうに食べている姿。

 まぁその記憶だけを頼りに、俺はBのコンビニだと答える。

 すると穂香は、一瞬驚いたような表情を見せ、それから嬉しそうに微笑む。


「ふーん、よく見てるね。その通り、答えはBでしたー」

「よっしゃ、当たった。なんか景品とかあるの?」

「あるよ」


 結果は、どうやら正解だったようだ。

 だから俺も、その場のノリで正解した景品を求めてみる。

 すると穂香は、一切悩む素振りを見せずにあるよと即答する。


 そんな予想外の回答に、一体何をと思っていると、穂香はそのまま俺の腕に抱き付いてくるのであった。


「え、ちょ!?」

「景品は、あのコンビニまでこの超絶美女のわたしが、彰の疑似彼女を演じてあげる権利でしたー!」

「なんだよそれ」


 思わぬ景品に、俺はつい笑ってしまう。

 超絶美女って自分で言うかぁとも思ったが、否定はできない自分がいた。

 穂香に限らず、うちのメンバーの女性陣はみんな本当に美人だと思うから。


 そんなわけで、俺はそのコンビニへつくまでの残り百メートル少々。

 ノリを合わせて、穂香の彼氏気分を楽しませてもらったのであった。


 最も、俺よりも穂香の方が、心なしか楽しそうにしているような気がするのだけれど。




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