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第101話 ネクロ宅

「ここ、だよな……?」


 地図アプリを頼りに、ネクロから送られてきた住所の場所へとやってきた。

 俺と同じくマンションで、何ならうちよりちょっと高そうな感じの場所だった。

 俺は少し怖気づきつつも、受付で部屋番号を押す。


「……はい」


 すると、少しの間を空けて聞こえてきたのは、たしかにネクロの声だった。


「ああ、ネクロか、俺だ。アー……じゃなくて、彰だ」

「うん、入って……」


 マンションの扉が開錠される。

 俺は若干の緊張感とともに、そのままマンションの中へと入った。


 それからエレベーターに乗った俺は、一度深呼吸をする。

 こうしていざ現地へやってくると、やっぱり緊張してしまっているのだ。


 でも心なしか、普段より声が控えめだったネクロ。

 いつもマイペースだから分かり辛いが、やっぱりそれだけ締め切りに追い込まれているということだろうか――。


 そんなことを考えていると、ネクロの部屋のある階に到着する。

 ちょっと緊張しながらも、俺はネクロの部屋のチャイムを鳴らした。


 ……しかし、チャイムを鳴らすも、一向にネクロからの応答はなかった。


 ――あれ? 部屋間違えたか?


 そう思い部屋番号を確認するも、ちゃんと番号は合っている。

 まさかチャイムが故障してるとか……とも思ったが、そもそも玄関を貫通して中で音が鳴っているのがちゃんと聞こえてきている。


 だから俺は、もう一度チャイムを鳴らすも、やっぱりネクロは出て来なかった。

 おかしいと思った俺は、玄関のドアノブに手をかける。

 すると扉には鍵はされておらず、そのまま空いてしまった。


 不用心だなと思いつつ、俺はそっと中の様子を確認する。

 万が一これでやっぱり人違いでしたとかあれば、完全に不法侵入になってしまうという恐怖を抱きつつ……。


 だが、その心配はなかった――。

 何故なら、玄関を開けた廊下のところで、うずくまっているネクロの姿があったからだ。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 俺は慌ててネクロに声をかける。


「ア、アーサー……」


 力なく反応したネクロの顔は、赤みを帯びていた。

 息は少し荒く、明らかに体調を悪そうにしているネクロ――。


「と、とりあえず寝室はどこだ?」


 慌ててネクロを抱き抱えると、ネクロは力なく奥の扉を指さす。

 抱き抱えたままその部屋へ向かうと、そこにはたしかに寝室だった。


 物が割と散らかっているが、ベッドの上には何もなかったから、俺はベッドへネクロを横にさせる。


「お前、熱あるんだろ?」

「……へへ、しくじったぁ」


 俺の問いかけに、力なく笑うネクロ。

 こんなに弱々しいネクロを見るのは初めてで、その痛々しい姿に心配が増していく。


「えっと、とりあえず薬は?」

「ない……」

「飯は?」

「昨日から、食べてない……」


 うん、これは思っていたよりも色々と不味そうだな……。

 何となく急いできて良かったと思いながら、俺は一先ずネクロに部屋の鍵を預かる。


「えーっと、じゃあダッシュで薬とか買ってくるから、ここで安静にしといてくれよ」

「分かった……」


 力なく頷くネクロ。


「……あ」

「ん? どうした?」

「……来てくれて、ありがとう」


 弱々しくも、そう言って安心するように微笑むネクロ。

 だから俺は、そんなネクロを安心させるように微笑み返すと、すぐに戻ってくるからと家を飛び出したのであった。



 ◇



 ちょうど近くに、ドラッグストアがあって助かった。

 俺は思い付く限りのものを買い込んでから、またダッシュでネクロの家へと戻ってきた。


 そして再び寝室へ向かうと、ネクロは安心したような顔つきで眠りについていた。

 辛そうではあるものの、大事ではなさそうなのでほっとしつつ、暫くそのまま休ませることにした。


 とは言いつつも、ここは初めてくる女性の部屋。

 とりあえず買ってきたお粥を温めて、薬を飲ませるのは必須だと思った俺はキッチンへと向かう。


 間取りは俺と同じ2LDK。

 寝室、配信部屋、そして普段の居住スペースのLDKといった感じだった。

 部屋はお世辞にも綺麗とは言えず、脱いだままの服とかがその辺に放ってあった。

 まぁ相手はネクロだ、元々綺麗だとは思っていなかった俺は、あとで部屋もちょっと片付けてやることにした。


 そんなわけで、俺はカーテンレールに吊るされた物干しハンガーに、ぶら下がったままになっている色とりどりのアレのことは極力見ないように努めながら、電気ケトルでお湯を沸かす。


 お湯が沸くまでの間、改めてリビングへ目を向ければ、そこには飲みかけのペットボトルやコンビニ弁当の残骸が残されていた。


 そしてテーブルの上には、起動したままのノートPC、液タブ、それから積まれた資料の数々。

 どうやらネクロは、俺が来る前もここで作業をしていたようだ。


 その様子から、締め切りが迫っているというのはどうやら本当っぽかった。

 しかし、そんな時に体調不良になってしまったネクロは、限界を感じて俺を頼ってきたというところだろう。


 ――全く、もっと早く言えばいいのにな。


 普段やる気がないようで、意外と責任感の強いネクロ。

 そんなネクロを放っておけるはずもなく、俺は今日の夜は配信を取りやめて、このまま看病に専念してやることにした。





 体調不良でも仕事を追い込んだ結果、余計に悪化させちゃったネクロちゃん……。

 アーサー、しっかり看病してあげてください……。

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