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短編

書籍化を果たした俺のマイページに親がコメント書いてきた

作者: kayako

 

 俺は小説家、鷹峰(たかみね)・オーウェン・結美永(ゆみなが)。30代独身、一人暮らし。

 Web小説サイト『小説家であろう』に自作を投稿し始めて幾年月。

 ようやく実力が認められて賞を取り、ついに夢の書籍化を果たした!

 今日も近況報告には祝福のメッセージが溢れている。


『鷹峰さん、さすがです! 実力が認められましたね!』

『骨太でハードボイルドな作風が流行り始めたのも、鷹峰さんの作品がきっかけですしね。

 これから『あろう』も変わっていくはずです!』

『ずっと『あろう』は異世界転生チート追放ざまぁ悪役令嬢だらけのニセファンタジーばっかりだったけど、やっと本格派が認められる時代になりましたね!』


 それに対し、俺はいつもこんな感じで答えていた。


『皆の者、感謝感激である!

 儂が受賞、そして書籍化まで行けたのは、ひとえに皆の熱烈な声援のおかげ! 実にアンビリーバボーじゃ!

 慢心することなく、これからも皆と共に、日々精進して行こうぞ!

 しかし今宵はひとつ、とっときのワインでもたらふく呑んで気持ちよくひと眠りしたいものじゃのう!!』


 ……とまぁ要するに俺は、テンションがよく分からない爺さんキャラをやっているわけだ。

 このキャラが妙に受けているところもあってか、俺の近況報告はいつも盛況だった。

 俺自身、酒は医者に止められてるんだけどな。



『あろう』で小説を書いていたことは、田舎の親にはずっと黙っていた。

 元々、就職に失敗してニートだったところを、小説家になると言って無理矢理家出してきたようなものだ。必要最低限以外の連絡は殆どしていない。

 でも、見事俺は夢をかなえ、自分の作品を本にしてみせた。

 ここらでしばらくぶりに、親に連絡してみるのもいいだろう――



 そう思って久々に実家に電話し、親と話した。

 ちなみにうちの両親は二人とも、一応スマホは持っているがろくに使えない。連絡手段はずっと電話ばかりだ。

 あいにくお袋は買い物中らしく、出たのは親父だったが、それでも素直に喜んでくれた。

 開口一番怒鳴られるかと思ったが、息子の本が出ると分かるとやっぱり嬉しいものらしい。

 もう少ししたら、親孝行がわりに旅行でもプレゼントしてみるのもいいかもな。



 そう思いながら、電話を切った俺だったが――

 数日後、事件は起こった。






 いつもの『小説家であろう』のマイページ。

 今日も近況報告には、お祝いコメントが続々と入っている。

 俺はいつも通り、濃い目のブラックコーヒーを嗜みつつ、コメントを眺めていたが――



 とあるコメントを見て、俺は引っくり返った。



『ママです。シロちゃんの小説を読みました』



 nGYAAAAAAAAAAAAAA!!!???



 まさかの事態に、口にしたコーヒーも全て画面にぶちまけられる。

 そのありえないコメントは、こう続いていた。


『小学校の時からたくさんのご本を読んで、どんな時でもご本が大好きだったシロちゃん。

 大学卒業しても就職出来ず、小説で一発当てると言い出した時はどうなるかと思いましたけど。

 ようやく夢をかなえられたんですね。ママも嬉しい!』


 や、やめろ、やめてくれ。

 しかも俺の本名まで漏らしかけてるじゃねぇか!!



 さらにそのコメントはこう続けられていた。



『パパにこのサイトを教えてもらって、シロちゃんの他の作品も読んでみました。

 とても感動したけれど、ひとつだけ。

 タイトルはちょっと何とかならないかしらねぇ? ご近所さんにも宣伝したいけど、タイトルを言うのがちょっと恥ずかしくて』



 あぁそうさ。何を隠そう、俺の本のタイトルは


『ロリっ娘聖女が変態触手紳士に囚われてあんなことも! こんなことも!?』


 略して『しょくあん』だよ!

 好きでこんなタイトルにしたわけじゃねぇ! 分かりやすいタイトルにしなきゃ売れないって散々周囲に言われた結果だチクショー!!

 タイトルはこんなんでも、中身はちゃんと健全だからな。エロなんてほぼないも同然だし、一人の少女の立派な成長譚だからな!!

 だけどなぁ! そりゃあ誤解されるよなぁ!! チクショーめ!!



 そして当然、その後のコメント欄はある意味大盛り上がりだった。


『マ……いや、お母さま!? っていうか、シロちゃん?』

『もしかして本当に、鷹峰さまのお母上?』

『荒らし……っぽくはないですね?』

『鷹峰さんが実家暮らしだったら規約的にマズイですよ! 大丈夫ですよね?』

『ママw』


 これ以上読んでいられず、速攻でコメント欄を閉じる俺。

 どどどどどうしてやろうか、この母親。

 小学生の時から、みんなの前で『ママ』だけはやめろやめてくれとどれだけ口酸っぱくして言いまくったか知れないのに! 未だにお袋の中じゃ俺は小学生以下の小坊主なのかよ!!


 俺がうろたえている間にも、近況報告にはどんどんコメントが入ってくる。

 あぁあ、これまで俺が丹精込めて築き上げてきた爺さんキャラが一瞬で大崩壊!!

 駄目だ、これは何とかしなければ。しかしどうする? 実家に電話する? コメントを削除? ブロック? ミュート? 実の親を?

 恐る恐る、再度コメント欄を開いてみると――



 そこにはさらに、驚天動地の書き込みがあった。



城也(しろや)の父です。

 城也、本は読ませてもらった。お前は小離(こばなれ)家の自慢の息子だ!』



 NUuuWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!????



 あのお袋にしてこの親父アリ。

 たった2行で見事に俺の個人情報ぶちまけるんじゃねぇえ!!



 そして親父のコメントはこう続いていた。


『とても良い内容だが……すてーたすおーぷん、とはどういう意味なのだ?

 HPとか、単語の意味もよく分からない。インターネットのホームページの略だろうと思って読み進めたが、どうも違うようだ。

 そもそも何故、トラックに跳ねられたら目の前に聖女がいて、自分が触手になっているのだ?』



 うん。親父には異世界転生のテンプレは、どれだけ説明しても分からんだろうな。

 書籍化された俺の作品は、最初はよくある異世界転生チートのテンプレに沿っているように見せて、実はかなりハードな話だ。

 容赦なく人は死ぬし主人公が辛酸を舐めまくる物語だったりするんだが、そのへんが意外と親父やお袋好みだったりしたんだろうか。いやそんなこたぁどうでもいい!!



 案の定、コメント欄はさらに大盛況。いや、大炎上というべきか。


『城也さんかぁ。正直、鷹峰さんの本名って実はかなりダサイパターンかなと思ってたけど、案外カッコイイ名前ですね!』

『いっそのこと本名で本出しても問題ないのでは?』

『もっと鷹峰さんの、いや、城也さんのお話聞きたいです~!!』

『いやぁ~何だかいい感じのご両親ですね~!』


 何がいい感じなものかぁあ!!

 あぁ、恥ずかしい。穴があったら入りたい……!!



 その後すぐに俺は実家に電話をかけ。

 親父とお袋に、これ以上コメントを書かないよう、書くとしても俺の個人情報は決して出さないよう、クドいほどに念を押した。

 途中で結構な口論になり、何とか納得してくれるまで実に5時間を要した……




 ***


 そして、その20年後。

 色々あったものの、俺は小説家としてそこそこ名を上げた。

 骨太でハードな作風が評価され、『しょくあん』はなんとアニメ化して大ヒット。映画も何本か作られる長期シリーズになっていった。

『小説家であろう』をはじめとするweb小説サイトの傾向は、『しょくあん』をきっかけに大きな転換期を迎えたとまで言われてしまっている。


 おかげで俺は、何とか家族を養える程度は稼げるようになり、今は結婚して一児の父だ。

 ちなみに――

 俺はあれから本名・『小離 城也(こばなれ  しろや)』で活動している。

 色々あったがやっぱり、親から授かった名前だからな。


 俺の娘はもう高校生だが、作家とはまた別の道を目指している。

 親には内緒にしているようだが、仲のいい友人たちとロックバンドを結成しているようだ。

 今度妻と一緒に、こっそり応援に行ってやるつもりだ。娘の名前をでっかく書いた特製うちわとハッピとサイリウムも用意した!

 なんてったって、親は子供の最大のファンだものな!!



 Fin



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[良い点] 初めまして! とてもほっこりする、そしてマジであったら、ド焦りするだろう素敵なお話を読ませていただき有難うございました(*´▽`*)/ シロちゃん、ナイス!
[良い点] 笑わせて頂きました。 大恥はかきましたが夢を叶えた主人公は立派です。 親から子へ伝統(?)は受け継がれていきますね…。 [一言] 「しょくあん」ちょっと読んでみたいですね…。
[一言] 面白かったです! タイトルから直球で攻めてくる作品でしたね! シロちゃんとかマイページに書かれたら噴飯ものでしょう。 主人公の心中は修羅場だったでしょうね。
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