イセジョ七不思議
怪奇現象、ね。はい。もう驚きませんよ。
「原因不明の事象を総じてそう呼ぶ。学者の井上円了は、怪異を『真怪』『仮怪』『誤怪』『偽怪』の4つに分類したのだが――」
「何それ。違いが分かんない」
「真怪は科学で解明出来ないもの。仮怪は自然現象。誤怪は見間違い、偽怪は創作物だ」
なるほど。後ろ3つは常識の範疇、ってことか。
「具体的には何が起きてんの」
「聞こえる筈のない声。ある筈のない人影。匂い。特定の噂の度を超えた蔓延などだ。トイレの泣き声、家庭科室の影――聞いたことがあるだろう?」
「いいや。わたし友達いないからさ」
微かに劣等感のようなものを覚えながら、わたしは肩を竦める。
こんな性格に育ったのは、母の教育方針が原因だ。
『一人で生きなさい』
それが母の口癖だった。
友達と仲良くしてはダメ。
他人と関わってはダメ。
一人で生きていけるようになりなさい。
それだけのことを、何度も言い聞かされた。
わたしは問うた。
『どうしてダメなの? みんなと遊びたい』
母は答えた。
『誰とも喧嘩せずに済むからよ』
何が母をそこまで言わしめたのか、わたしは知らない。
訊く前に母は死んだ。
わたしがまだ7歳の頃の話だ――。
そんな事情をかいつまんで話すと、ユウは何かを納得したような表情で首を振った。
「もったいないな。素材は良いのに」
「うっさい。友達作る必要を感じないだけ。別に一人でも生きていけるでしょ」
素材が良いとかその顔でよく言うわ。嫌味か。
「アンタが明るすぎるんだよ」
「人と関わるのは楽しいぞ。今だって楽しい」
「……何から何まで正反対だね、わたしたち」
暑苦しいやつだと苦笑を浮かべ、脱線した話を軌道修正する。
「で、怪異がどうしたんだっけ」
「うむ、一から説明しようか。前提として、超常的な体験はどの学校でも発生するものだ。幽霊を見た、呪われた云々。大抵は気のせいだがね」
「だろうね。こっくりさんとか集団心理で説明出来るって聞くし」
「だがそれを踏まえても、この学校における超常現象の発生率は異常なんだ」
異常とな。
「眠っていた怪異が活発化している、とでも言おうか」
「さっきのノックみたいなのが、あちこちで起きてるってこと?」
「そうだ。表沙汰にはしていないらしいから、知らぬ者は知らんだろう」
多目的室の扉をノックしたなにか。後になって段々と怖くなってくる。
「原因を突き止め、排除してほしい。そう頼まれた。私の指導教官が、ここの校長と知り合いだったんだ」
「ユウは、なに? 霊能者として有名なの?」
「怪異の研究者だ。霊能者と称されるのは不服だね」
フンと鼻を鳴らす。大して変わらん気もするけど。彼女なりのこだわりがあるんだろう。
「事前調査として、教員と一部生徒からヒアリングを行った。得られた情報を整理した結果、進行中の怪異はおおむね9つ。文字におこそうか」
ユウが部屋の隅のホワイトボードをたぐり寄せた。新しいことを聞きすぎて、頭がパンクしかけてたので、気遣いがありがたい。
「9つの怪異だが、大きく3つに分類出来る。最大勢力は学校由来の怪異――いわゆる『七不思議』だ」
キュキュッと心地良い音を立て、ホワイトボードに文字を書いていく。何気に綺麗な字だった。
※
1:C校舎の鏡は異世界に繋がっている
C校舎には、1階から2階へ上がる階段の踊り場に鏡がある。
その前で目を閉じて「ソウテベ・スハシナ・ハノコ」と3回唱えると、鏡の世界に行くことが出来る。
深夜二時に鏡を覗くと、いない筈の人間が映る。
昔、鏡の世界に行って、帰って来れなくなった人なのだそうだ。
2:喋る創設者の像
校門前にある銅像に挨拶をすると、たまに返事が帰ってくる。
3:女子トイレの闇子さん
B校舎2階のトイレには、闇子さんがいる。
一番奥の個室のドアを3回ノックし、「闇子さん、遊びましょ」と言うと出て来て、呼び出した人を連れ去ってしまうそうだ。
4:家庭科室の黒い影
家庭科室には何かがいる。
昼間は天井裏に潜み、常に人間を観察している。
暗くなると出て来て、床や壁を這い回るそうだ。
5:図書室のおまじないノート
図書室のどこかにある『おまじないノート』には、たくさんのおまじないが記されている。
どんな願いでも叶えられるらしい。
6:警備員のタナカさん
夜の学校にはタナカさんがいる。
遅くまで残ってる生徒を見付けると追いかけてくる。
絶対に捕まってはいけない。
7:桜の木の下には死体が埋まっている
校庭にある桜の下には、かつて自殺した女の子の死体が埋まっている。
夜になると女の子の霊が現れて、近付いた人を呪おうとする。
霊を慰めるため、木の根元には花が供えられているとか。




