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”千里眼”長瀬郁香の怪奇現象ファイル  作者: どくだみ
File1:”千里眼”熊本にあらわる
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勧誘

「千里眼だぁ?」


 ますますきな臭くなってきた。詐欺師か。宗教家か。わたしの貧弱な人生経験からして、こういうタイプと関わると録なことにならない。


「睨まないでくれ。ほら、入校許可証も着けているだろう?」


 首から下げた名札を掲げて見せる。確かにこの学校が発行したもの。九州大学人文社会科学院、修士2年長瀬郁香――へぇ、頭良いんだ。


「信用してもらえたかな」

「天下の九大が何しに来たの?」

「調査だ」


 何のだよ。


「学校から依頼を受けている。九大公認ではないが。この肩書きは色々と便利なのでね」


 九大の女がニヤッと笑う。目的不明。身分はまともそうだ。イセジョは防犯がしっかりしてるし、過度に警戒しなくてもいいだろうか。けれど本当に危ないやつほど、こっちに警戒心を抱かせないものだ。


「……話があるって言ったけど、何」

「君を助手にしたい」

「はい?」


 唐突すぎる提案に、わたしは顔をしかめた。


「助手って、アンタの調査とやらを手伝えってこと?」

「そうだ。スカウトだよ」

「なんで??」

「説明すると長くなる。放課後、多目的室まで来てくれないか」

「そんなこといきなり言われてもさ」


 陽キャとオカルトは信じない。それがわたしのモットーだ。けど、学校はこいつを認めてる。話を聞く前から断るのは、性急かもしれない。

 しばし悩んで、わたしは頷いた。


「……考えとく」

「それはイエスという意味だね?」

「違う。先生に裏取ってから決めるって意味」


 そう答えると、女はパッと顔を輝かせた。


「ありがとう。待っているよ」


 やっぱ胡散臭いんだよな……。



 担任に訊いたら、本当に学校公認だった。しかも校長直々の依頼らしい。教頭や指導主任まで同意してるとか。よほどの何かが裏にあるっぽい。

 てなわけで放課後。わたしは多目的室にやって来た。


「ようこそ、前線基地へ。歓迎するよ」


 部屋の中心で、長瀬郁香(ながせゆうか)が両手を広げる。

 室内は大量の機械と書類でごった返していた。カメラと三脚、電源コードがセットで並んでいて、テレビ番組のスタジオっぽく見える。

 近付いてみると、レンズの横にセンサーみたいなのが付いていた。ただのカメラじゃなさそうだ。


「動体検知カメラだ。隣はサーモグラフィー。壊すと高いぞ」

「マジ? どのくらいすんの」

「高校生の小遣いでは払えないだろう」


 椅子を持ってきて、わたしに座るよう促す。わたしは鞄を脇に置き、背筋を伸ばして、偉そうに足を組んで座った。こういうのは舐められたら負けだ。


「言われた通り来てやったよ、長瀬さん」

「ユウでいい。いつもそう呼ばれている」

「いきなり呼び捨て? まあいいけどさ」


 わたしも遠慮無くタメ口でいこう。そう決めた時、コツコツとノックの音がした。扉のガラス越しに人影が映っている。


「誰か来てるよ」

「放っておきたまえ」

「いや、開けてあげなって」


 大事な用かもしんないじゃん。薄情なユウに代わって、わたしは多目的室のドアを開けた。

 誰もいなかった。


「え?」


 見間違いか? でも、さっきまで確かに人がいて。


「気にするな。こういう活動をしているとね、”寄ってくる”のさ」


 慣れた様子でユウが言った。


「……冗談やめて。手品でしょ。どうやったの」

「どうもしていない。疑うなら扉を調べてみてはどうかね?」


 心なしか寒気を覚えつつ、入り口に目を向ける。特に仕掛けは見当たらない。訝しんでいると、ユウが肩越しに顔を突き出して、正面の空間に息を吹きかけた。バタバタと遠ざかる足音――足音?


「彼らは招けば入ってくる。覚えておきたまえ」


 目を細めてみせる。彼らってなんだよ。気味悪い。


「さて、何から話そうか」


 取り敢えずトリックってことにして、座り直したわたしへ、ユウが問い掛けた。


「アンタの素性から。千里眼、ってのはどういう意味?」

「そのままだ。私はいわゆる“超能力者”。精神統一によって物体を透視したり、遠隔地の光景を見たり出来る」

「……くっ、あはは! 嘘くさ!」


 真面目に答えたもんだから、堪えきれず吹き出した。ユウが不快そうに眉をひそめる。


「昼間、君を探すために千里眼を使った。私は本気だ!」

「だから余計に笑えるんじゃん。わたしね、霊とか超能力とか、そういう非科学的なものは信じないようにしてんの。ごめんね?」


 妄言を鼻で笑いとばすと、ユウは挑戦的な態度で腕を組んだ。

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