勧誘
「千里眼だぁ?」
ますますきな臭くなってきた。詐欺師か。宗教家か。わたしの貧弱な人生経験からして、こういうタイプと関わると録なことにならない。
「睨まないでくれ。ほら、入校許可証も着けているだろう?」
首から下げた名札を掲げて見せる。確かにこの学校が発行したもの。九州大学人文社会科学院、修士2年長瀬郁香――へぇ、頭良いんだ。
「信用してもらえたかな」
「天下の九大が何しに来たの?」
「調査だ」
何のだよ。
「学校から依頼を受けている。九大公認ではないが。この肩書きは色々と便利なのでね」
九大の女がニヤッと笑う。目的不明。身分はまともそうだ。イセジョは防犯がしっかりしてるし、過度に警戒しなくてもいいだろうか。けれど本当に危ないやつほど、こっちに警戒心を抱かせないものだ。
「……話があるって言ったけど、何」
「君を助手にしたい」
「はい?」
唐突すぎる提案に、わたしは顔をしかめた。
「助手って、アンタの調査とやらを手伝えってこと?」
「そうだ。スカウトだよ」
「なんで??」
「説明すると長くなる。放課後、多目的室まで来てくれないか」
「そんなこといきなり言われてもさ」
陽キャとオカルトは信じない。それがわたしのモットーだ。けど、学校はこいつを認めてる。話を聞く前から断るのは、性急かもしれない。
しばし悩んで、わたしは頷いた。
「……考えとく」
「それはイエスという意味だね?」
「違う。先生に裏取ってから決めるって意味」
そう答えると、女はパッと顔を輝かせた。
「ありがとう。待っているよ」
やっぱ胡散臭いんだよな……。
※
担任に訊いたら、本当に学校公認だった。しかも校長直々の依頼らしい。教頭や指導主任まで同意してるとか。よほどの何かが裏にあるっぽい。
てなわけで放課後。わたしは多目的室にやって来た。
「ようこそ、前線基地へ。歓迎するよ」
部屋の中心で、長瀬郁香が両手を広げる。
室内は大量の機械と書類でごった返していた。カメラと三脚、電源コードがセットで並んでいて、テレビ番組のスタジオっぽく見える。
近付いてみると、レンズの横にセンサーみたいなのが付いていた。ただのカメラじゃなさそうだ。
「動体検知カメラだ。隣はサーモグラフィー。壊すと高いぞ」
「マジ? どのくらいすんの」
「高校生の小遣いでは払えないだろう」
椅子を持ってきて、わたしに座るよう促す。わたしは鞄を脇に置き、背筋を伸ばして、偉そうに足を組んで座った。こういうのは舐められたら負けだ。
「言われた通り来てやったよ、長瀬さん」
「ユウでいい。いつもそう呼ばれている」
「いきなり呼び捨て? まあいいけどさ」
わたしも遠慮無くタメ口でいこう。そう決めた時、コツコツとノックの音がした。扉のガラス越しに人影が映っている。
「誰か来てるよ」
「放っておきたまえ」
「いや、開けてあげなって」
大事な用かもしんないじゃん。薄情なユウに代わって、わたしは多目的室のドアを開けた。
誰もいなかった。
「え?」
見間違いか? でも、さっきまで確かに人がいて。
「気にするな。こういう活動をしているとね、”寄ってくる”のさ」
慣れた様子でユウが言った。
「……冗談やめて。手品でしょ。どうやったの」
「どうもしていない。疑うなら扉を調べてみてはどうかね?」
心なしか寒気を覚えつつ、入り口に目を向ける。特に仕掛けは見当たらない。訝しんでいると、ユウが肩越しに顔を突き出して、正面の空間に息を吹きかけた。バタバタと遠ざかる足音――足音?
「彼らは招けば入ってくる。覚えておきたまえ」
目を細めてみせる。彼らってなんだよ。気味悪い。
「さて、何から話そうか」
取り敢えずトリックってことにして、座り直したわたしへ、ユウが問い掛けた。
「アンタの素性から。千里眼、ってのはどういう意味?」
「そのままだ。私はいわゆる“超能力者”。精神統一によって物体を透視したり、遠隔地の光景を見たり出来る」
「……くっ、あはは! 嘘くさ!」
真面目に答えたもんだから、堪えきれず吹き出した。ユウが不快そうに眉をひそめる。
「昼間、君を探すために千里眼を使った。私は本気だ!」
「だから余計に笑えるんじゃん。わたしね、霊とか超能力とか、そういう非科学的なものは信じないようにしてんの。ごめんね?」
妄言を鼻で笑いとばすと、ユウは挑戦的な態度で腕を組んだ。




