調査開始
ヨシノは幽霊じゃない。
30年前、一人の生徒が桜の木で首を吊った。
この2つはそれぞれ無関係の話だ。だけどいつしか混同され、幽霊じゃないのに自分が幽霊呼ばわりされている。気に入らん! ってのが、ヨシノの事情らしい。
本物の幽霊を連れてくれば、ヨシノはわたしたちに協力するそうだ。
そんなわけで、自殺した少女の霊を探すことになった。
問題はどうやって探すかだ。ユウの透視は死者の魂も見透すらしいけど、なにしろ手掛かりが無い。
どこから当たればいいのやら……。
「はい注目。この『sister』。日本語で『姉妹』ですが、文脈次第で『親しい女性』『同志』という意味になります。日本語でも『やあ兄弟』と言ったりしますよね」
授業も頭に入らない。英語は好きじゃないってのもある。
「聞いていますか神船さん?」
「もちろんです」
適当に返しつつ、わたしは考える。呼び方……そうだ、名前だ。亡くなった娘の名前が分かれば、調査は一気に進展する。
どうやって調べようか。
「神船さん?」
「聞いてます」
※
調査の王道といえばインターネットだ。けれど30年前の出来事は、そもそもネットに載ってない。
となると図書館。これは既にユウが調べに行ってる。
その間、自分に出来ることはなんだろう。
悩みながら、廊下を歩いていた昼休み。わたしはいきなり背後から抱き締められた。
「千鶴はーん!」
「こっとん!? なにすんのさ!」
反射的に手が出るとこだった。危ないな。
「ええやんか。最近千鶴はん成分が足りんくて干からびとったさかい」
千鶴はん成分?
わたしの抗議を軽くいなして、こっとんは親しげに顔を押し付けてくる。確かにここしばらく、忙しくて一緒にいれなかった。
寂しかったのかな。親友の頭を、わたしは軽く手で撫でてやった。
「お昼食べよ。ハンバーグ作ってきたさかい」
「ありがと。最近ハンバーグ多いね?」
「ええやん。美味しいし」
弁当箱を渡してくる。それを持って、わたしたちはいつもの裏庭に向かった。
わたしが猫なら、彼女は犬だと思う。愛情表現がストレートで、裏表が無い。
肩をくっつけてベンチに座る。丁寧に盛り付けられたおかずたちを見て、わたしはふと気になった。
「こっとんさ、何でわたしと友達になったの?」
「どしたんいきなり」
「4月のわたし、刺々しかったでしょ」
「関わるなオーラ全開やったね」
「どうして放っとかなかったのかなって」
「……なんとなくやなぁ」
「軽っ」
思わず吹き出した。こっとんがムッと口を尖らせる。
「しゃあないやん。切っ掛けはハンカチを拾ったことやけど、そっから先は自然にやったし。そもそも」
おもむろに、肩に腕を回して、
「友達なるんに理由がいるん?」
「え……いらないの?」
「いらんやろ。そんなん普通は気にせへんよ!」
当然のように、こっとんが言う。満面の笑みに心が揺れた。ワーってなった。なんて馬鹿な質問をしたんだろう。仲良くするのに理由はいらないんだ。知らなかった。
「……ありがと。好き」
「おおきに! ウチも千鶴はん大好きや。あの女に妬きそう」
「あの女?」
「ナガセユウカやっけ。千里眼か研究者か知らんけど」
バイトの内容はこっとんにも伝えてある。直接話す機会がないからか、彼女の中のユウは最初と同じ、よく分からん怪しい女らしい。
「アイツまだ帰らへんの? 2週間以上おるやん」
「うん。ちょっと面倒なことになっててさ」
迷ったけど、こっとんになら打ち明けても大丈夫だと思った。昨夜の出来事。30年前の自殺者。ヨシノと名乗る女とのやり取り。
わたしの話を、こっとんは目を丸くして聞いていた。
「この前は鏡の世界。今度は幽霊探し。……半信半疑やわ」
「正常な反応だよ」
「千鶴はんやから信じるけどな。で、目処が付いてないんやね」
その通り。30年前ってのが大きい。当時を知る人が残ってない。
「ユウ曰く、姿と名前が分かれば探せるって。写真が一番良いらしいけど」
「やったら過去の卒業アルバムとか?」
「無理だよ。卒業せずに亡くなってるんだから」
「じゃあ新聞」
「ユウが県立図書館まで調べに行ってる」
今のところ連絡なし。多分、成果もないだろう。
「『長老』に聞いてみたらどやろ」
そのとき、ポンと思い付いたように、こっとんが言った。
「長老?」
「千鶴はんは面識なかったっけ」
授業受けてる先生しか覚えてないです。
「ウチ図書委員やん? 顧問の金子先生が、『長老』呼ばれとるベテランでな、昔からイセジョにおるらしいで」
「……当時のこと覚えてるかも!」
私立だから先生の異動が無いんだ。生徒が死ぬってのはよっぽどだし、忘れたりしないだろう。期待出来る。
「こっとん最高! 救世主だよ!」
「おおきに。ウチが紹介したるさかい」
持つべきものは友だ。早速今から、は厳しいか。ユウも一緒の方が良いし、待機だな。
「こっとん、今日の放課後暇?」
「暇やで。いくらでも付き合うたるわ」




