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「どう思ってるって、、立花と俺はクラスは違うけど友達だよ。今日も少し喋ったしね」
観月からの問いに、泉は間をあけることもなく平然とした口調で答えた。
けれど泉の声はいつも僕と話す時の温かさはなく、淡々と紡ぎ出されるそこには 何の感情も乗せていない、とても軽薄なものに聞こえる。
それに気づいてしまった今、泉の口から出る言葉のどれもが僕の中に入ってくるものはなく、ただ虚しく僕の前に落とされていくだけだった。
その時、ガツンと何かが蹴られた音が大きく響いた。息を殺していた僕もその音に思わず声を出しそうになり、慌てて手で口を塞ぐ。ロッカーの小さな穴から恐る恐る覗くと、観月と泉の間にある机が無惨に倒れていた。
「俺はそういうことを聞いてるんじゃねぇ……お前が他意なしにあいつにわざわざ近づく訳がないだろ」
地を這うように低い観月の声。そして倒れた机に観月の足が乗っているのを見ると、どうやら机が倒れたのは観月が蹴ったかららしい。僕に向けられた言葉でも動作でもないのに、思わず逃げ出したくなる程の恐さだった。
「なんだよ、そんなに怒ることないだろ……明こそ、そんなに俺と立花が話すのはおかしい?」
観月の暴力的な怒りに何か思うところがあったのか、泉は反論する姿勢を見せるも、普段の柔らかいトーンのままこれ以上はあまり強くは出ていかない。
「明は色々考え過ぎなんじゃないかな。立花とは普通に友達なだけなんだから。」
「……そういうお前は、一回でも俺に立花へのいじめを辞めろなんて言ったことないよな」
「……」
「光太の言うその友達ってやつは、味方のような顔して近くにいるくせに、そいつが虐められているのをただ傍観するのを言ってるのか?…そうじゃねぇだろ。いい加減どういうつもりで近づいてるのか言え」
「ははっ、…首謀者が何言ってるの」
僕だったら卒倒するほどの観月の淡々とした迫りに、泉は持ち前の爽やかさで受け流すように笑う。ヒヤリとする空気の中、二人の間にある話に僕が関わっているのは信じたくない事実だ。
それに、泉が僕のいじめに気付いていた事も少なからずショックだった。今までずっと優しく僕と話してくれたように思うけれど、観月にいじめられている僕は、はたして泉の目にどう映っていたのだろう。
何故観月がここまで怒りを露わにしているのかは分からないが、どこか冷静になっている自分も、それは泉に聞いてみたい事なのかもしれない。
「分かったよ。そんな睨むなって」
「……」
緩むことのない鋭い眼差しで見据える観月に、泉は困ったような笑みを浮かべると、そのまま降参のポーズのように軽く両手をあげた。
「…全部話すよ。でもその代わり、明が隠していることも教えて」