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今日も今日とて朝がやってくる。
目覚めてまず思い出されるのは、昨日の裏庭で振るわれた過激な暴力と観月の冷たい目だった。
朝になれば忘れてるよなんていう誰かが言った励ましなんて、ただの気休めにしかならない。実際は、本当に嫌なことはいつでも自分の頭の中にまとわり付くように巡り、忘れられないのが現実なんだ。
いじめにあってから日に日に増えていく応急処置セットを机の引き出しから出すと、ズキズキと痛む傷に新しくガーゼを貼ったり薬を塗っていく。頬の傷は腫れは引いたが、まだかさぶたにはならなくてガーゼが必要なようだった。でも痛々しく見られて目立つのは億劫なので、絆創膏にとどめる。
親も朝早くから仕事に出かけているため、学校を休むことなど出来るけれど、痛む傷をも差し置いて今日は学校に行かなければならない気がした。
奴らに渡すお金はない。暴力に対抗する力もない。でも昨日の観月の行動が僕の心に引っかかっている。
観月は僕の頬の傷に触れた後、何をするわけでもなくそのまま背を向けて帰っていった。その時は相変わらず何の感情も見せない目に、そして観月が僕に触れたというその事実だけで金縛りにあったように動けず、去っていく背中をただ呆然と見つめるだけだった。
だけどその夜ベットの中で一人、僕は今までに無い後悔を感じた。
どうして僕は何も言わなかったんだろう。去っていく観月の背中に、なぜ僕をいじめるのかってそう一言言わなかったんだろうと。
ろくに話したこともない観月とその取り巻き達を相手に、この状況から抜け出したいのなら尚更あの時に怖くても向き合うべきだったのかもしれない。
僕の頬の傷に触れた観月の真意なんて分からないけれど、一人去っていく観月の背中を思い出す度に、そう思わずにはいられなかった。
制服のジャケットに付くまだ少し残っていた土を払い落とすと、僕は学校へ行くためにドアを開けた。