13
置かれた手を振り払うことも出来ず黙り込む僕を、泉は気遣うような目で見つめてくる。
それでも泉は自分の絶対的な味方じゃないと、僕は自分に言い聞かす。いざとなったら助けると言う泉のことをどこまで信用して良いのか、半信半疑だった。
「やっぱり無理かな?」
「無理っていうか…あの、僕が泉を呼び出して話すなんて正直上手くいく気がしないんだけど…」
「話せる機会なら俺が作るよ。夏休み、少しなら空いてるだろ?」
「まさか学校外でわざわざ会って話すの?」
「絶好のチャンスでしょ。あいつ学校じゃ基本寝るだけで話しかけづらいけど、学校外だし時間もあるし。タイミング計りやすと思うよ」
顔色を悪くする僕と、何の問題もありませんとさっぱりとした口調で話す泉。
あと1ヶ月もしないうちに、長い夏休みが始まる。世間では私立の名門と言われる僕が通う高校は、夏休みの時期は短期留学をする生徒もいる。素行は決して良くなくても名家の生まれらしい観月は当然行くと思っていたけれど、仲の良い泉が言うには日本で夏休みを過ごすらしかった。
「具体的にどこで会うとか、泉は考えがあるんだよね?」
「うん、立花って子供好き?」
「え?」
脈絡のない泉の返答に言葉に詰まった。
「俺の祖父のお祝いパーティーがあるんだけど、そこで立花には妹の子守をお願いしたいんだ。もちろんパーティーには明もくる。わざわざ約束しなくても会うのは偶然を装えるし、良い条件だと思うけど」
「……それって泉の身内のパーティーなんだよね?部外者の僕が行っていいの?」
「関係者含めて100人近く招くだろうから気にしなくて大丈夫だよ。俺の友人なんだからむしろ大歓迎ってとこだし」
「そうなんだ…」
友人という言葉に微妙な違和感を感じつつも、泉の顔はいつもの調子の良さで相変わらず微笑みを絶やさない。
「子守って言っても7歳である程度しっかりしてるし、少しの間面倒を見て貰えるだけで良いんだ。その後に観月と会う時間を作る」
「うん…」
100人規模のパーティーとは泉の家柄の良さに驚きもあるし、想像があまりつかなかった。
そんな慣れていない環境に行くのは勇気が必要な気がするものの、学校外で観月と会うためにはこれしかないチャンスなような気がするのも確かだ。
「分かった。そこで観月と会ってみるよ」
「うん!俺に任して」
決死の覚悟にも似た気持ちで返事をすると、泉もそれを後押しする様に気持ちよく返事をくれる。泉は僕の味方ではないけれど、僕と観月との関係にメスを入れて変えようとしてくれる気持ちには感謝だ。
すぐそばまで迫る夏休み。
日々の虐めで慢性的に感じていた不安と、そして少しの期待が胸をドキドキさせた。