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注意)いじめや暴力表現あります。
ついに僕の財布の中身は空になった。
その事実は、ぼくを恐怖で震わせるのに充分すぎるものだった。
「おい、立花!早く今日の分出せよ!」
そして、今日もいつものように奴らに連れ出される。
「ご、ごめん…っ。もう、お金ない……」
「ハァ?」
僕がそう弱々しく言うと、奴らは鬼のような顔を一層怖くして僕に詰め寄った。思わず顔を背けようとした僕より先に、重い一撃が僕を襲う。
「お前、マジで使えねぇな!」
「っっう……!」
殴られた腹を押さえながら、しゃがみ込んでしまったぼくを良いことに、奴らは僕を蹴り続ける。それもしばらくして、痛みや苦しさに耐えるのが精一杯で抵抗しない僕に飽きたのか、奴らは蹴るのを止めると、その内の一人がある人物に声をかけた。
「明ぁー、こいつどうする?」
その人物の名に、僕は心臓が痛いくらい跳ね上がるのを感じた。
明は腕を組みながら、後ろの壁に背中を預けて気怠げに立っていた。だけど、その瞳はぼくの無様な姿をしっかりと捉えている。
僕は、この射抜くような鋭い目が苦手だ。
その瞳を見たくなくて俯いた僕だったが、明が僕に近づいてくる気配は感じていた。やがて僕の目に革靴の先っぽが映ったと思うと、乱暴に髪を掴まれ無理やり上を向かされる。
明は、おそらく半泣きであろう僕の顔をじっと見つめた。それはほんの一瞬のことだと思うけれど、僕にとっては魂を持っていかれるような強い衝撃を感じた。
「次はないと思え。」
明はそれだけ言うと、また投げ捨てるように僕の頭から手を離した。僕はその言葉に「はい」とも言えず、去って行く奴らの後ろ姿を呆然と見つめることしか出来なかった。