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滅びゆく魂

梨乃は毎朝起きるとき、窓を開けて風を感じるという習慣があった。それは何も物理的な風だけでなく、魂や霊、力の流れである『風』も入っていた。

そんなある日、梨乃がいつも通り窓を開いていると、死出山の方から、『風』が吹き込んでいた。

「これは…、清蓮さんの『風』…、まさか、ひょっとして!」

梨乃は階段を降りると朝の支度を済ませ、玲奈達を連れて死出山に向かった。



「梨乃姉ちゃん、どうしたの?」

玲奈は珍しく梨乃が慌ててる事に対して驚いているそうだ。

「うん、あれ気のせいじゃないよね?」

「梨乃さん、何を感じたのですか?」

梨乃の横に智がやってきてこう尋ねた。

「うん…、卓兄さんと前行った『風の神殿』…、あそこには『風見の始祖』である風見清蓮が造った亜空間があるんだ。あそこにずっと清蓮さんの意思が残っていた。だけど…、死出山が直に滅びるから、それもなくなるって。」

しばらく自転車をこいでいると、死出山が見えた。

「それじゃあ私、行ってくるからね。」

梨乃は一人、死出山に登っていく。

「行ってらっしゃい!」

「智君、みんなの事頼んだよ?」 

「あっ、はい」

残された三人は冥徳寺で待っていた。

「何か…、いつもと雰囲気違う気がしないか?」

勤がそんな事を呟いた。

「いつもと変わらないと思うけど?」

玲奈は特には何も感じてないようだ。

その時、周囲に黒い気が充満したかと思うと、巨大な怪が三人を見下ろしていた。

冥徳寺の和尚が現れて浄化しようとするが、全く効いていない。

「そんな…、和尚さん!早く逃げて下さい!」

「だが、このまま放っておくには…」

「玲奈、勤、ここは俺に任せてくれ」

すると智が立ち上がって、怪の方を見た。

「お前…、子供の分際で俺に敵おうとするのか?」

「俺が誰だと思ってるのか?」

智は大鎌を取り出して構えた。

「俺は剣崎智、死神だ。死神に逆らえると思ってるのか?」

「剣崎、か…、俺が狙う華玄の弟、幽玄の子孫…、不足は無いな!」

悪霊は黒くて大きい腕を伸ばして智を襲おうとしたが、間一髪で避けられた。

「『烈風の鎌』!」

智は鎌を炎に纏わせ、怪の腕に向かって振るった。

「『呪縛鎖』」

ところが、黒い何かが鎌に纏わりついてしまった。

「あっ!」

怪はそのまま鎌ごと智を持ち上げ、地面に叩きつけた。

「うっ…!」

「俺は華玄の魂を狙うものさ、お前になんぞ負けてたまるか」 

怪はそのまま食手のようなものを生やし、智の足を締め上げた。

「華玄の魂を狙う、か……」

すると、足の食手が燃えだした。

「智君?」

智の身体は燃えだし、そのまま立ち上がった。

「それは禁忌に値する。ましては華玄の魂なら尚更だ、輪廻の理に背き、罪を重ねる魂よ…、死神の裁きの火を受け、あわよくば……、ここで果てろ!」 

智の目は紫色に輝いていた。



梨乃は一人死出山を登り、『風の神殿』に向かっていた。

そこは今すぐにでも崩れそうな見た目をしていたが、一歩中に入ると、清蓮が居る亜空間に入っていった。

清蓮は梨乃の事を待ち構えていたらしく、こう言った。

「梨乃、君を呼んだのは他でもない、死出山は直に滅びる。それはつまり、死出山の力を糧にしている我の意識や、この空間も滅びるという事だ。」

清蓮は手に持っている御札を燃やした。

「それで、私は何をすれば良いのですか?」

清蓮は御札を構えた。

「戦おう、あいにく君は我と同じように霊や怪異に対抗出来る存在なのだからな。我もずっと戦ってきた、人を相手にするのは中々無いが、全力で相手するとしよう。」

梨乃も水干のような戦闘服に着替え、御札を構えた。

「清蓮さん、その相手、受けて立ちますよ!」

清蓮は早速技を繰り出してきた。

「『竜昇風殺』!」

すると、清蓮の周囲に強烈な竜巻が巻き起こり、梨乃は飛ばされてしまった。

「『疾風刃』!」

梨乃は飛ばされた所から技を放ち、竜巻を掻き消した。

「中々やるな…、だが、君は未だ『風』の技しかつかえない。『土竜招舞』」

すると、地面が隆起して、梨乃の行く手を阻んだ。

それでも梨乃は、それを飛び越え、清蓮の目の前に現われる。

「『旋風砲』!」

清蓮はまともにその攻撃を喰らい、後ろに下がった。

「霊水晶…、これくらいの力しか残ってないか」

清蓮の手には小さな水晶があった。

「まさか…、自らの力でそれを?」

「ああ…だが、我の力はそこまで残されてないようだな」

「『逆風縛』!」

梨乃は清蓮の力を封じようとしたが、効かなかった。

「『霊障封鎖』、この技の霊力を封印した、我の力を封じようとも無駄なだけだよ。さて…、このまま終わらせようか」

そう言って御札を構えた清蓮の目が青く光ったその時、何かが割れる音がして、大量の霊が亜空間の中に入っていった。

「えっ?!」

清蓮は攻撃の手を止め、霊に向かって御札を投げた。霊はたちまち浄化されたが、きりがない。

「私も行く!」

梨乃も続けて御札を投げたが…、入ってくる霊の量はどんどん増えていく。そして、中には攻撃を始めるものも現れ、亜空間に穴が空いてしまった。

「そんな、最早ここまでか…」

すると梨乃が目を青く光らせ、御札を構えた。

「清蓮さん、ここは私に任せて下さい、ここで全てを終わらせる……」

梨乃は高く飛び上がり、御札を振り下ろした。

「『遺風障』!!」

すると爆風が吹き荒れ、霊達は一気に消し飛んだ。また、清蓮もその風に耐えられず、倒れてしまう。

そして、亜空間がガラスのように割れ、清蓮は青白い光を放っていた。

「流石だな、梨乃。君の力…、そして兄の力を認めざるを得ないな…。梨乃、その力は後の時代に使わなければならない。…大丈夫、必ずやってくれるさ…。」

そして、清蓮の意思は消滅し、梨乃は元の場所に戻った。

目の前には、要石がある。梨乃がそれに触れると、結界が張られ、霊の大群は消滅していった。そして、左手には、

薄く青白い光を放った霊水晶の数珠が出来ていた。

「そういえば、みんなは大丈夫かな?」

梨乃はそう呟いて、山を降りていった。



智は怪から一旦離れ、死神の書を取り出した。

「俺の裁きは冥府と同じ効力を持つ、その判決はどんな能力であっても取り消す事は出来ない。」

だが、そんな事を言われても怪は強気な態度をとった。

「子供の分際で、そんな事を言うとはな…、その前に殺してくれる!」

怪は襲いかかったが、智は動こうとはしない。

「死神の名の元に裁きを下す…『冥府の裁き』!」

すると、空から紫色の稲妻が放たれ、怪を貫いた。そして、気づいた次の瞬間には怪は跡形もなく消えていた。

「智…、そんな力があったのかよ?!」

和尚も驚きを隠せなかった。

「君の死神の能力…、尋常なものじゃないね?」

智は目の色を戻し、一同の方を向いた。

「俺の能力である『冥裁』がまさかこんなところで役立つとはな……。」

「智君!」

玲奈が智の方に向かって駆けて行く。

「凄かったよ!智君が居てくれて本当に良かった…」

「玲奈……、」

玲奈が微笑んだのを見て、智は赤面した。

「そんな…、そんなに凄い事してないのに…」

すると、梨乃が帰ってきた。

「あっ、梨乃姉ちゃん!」

「清蓮さんに会ってきたよ〜!」

「また会ったのですか?」

驚く一同の中、梨乃は一人数珠を見て笑っていた。


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