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勤の記憶

生の最期の地である死出山にも、最期というものがある。終わらないものはない。どんな事も必ずいつかは終わる。

死出山の最期も、すぐそこまで来ていた…。



…勤が目を覚ますと、自分が自分では無くなっていた。夢の中なのだろうか、景色はぼやけるように光っている。その先に、夢の中の自分を待っている人が居た。音も無く、自分の声も聞こえなかったが、その人が自分を待って、呼んでいる事だけは分かった。そして、二人出会った所で、夢は終わった。

「あれ?なんだったんだろ…」

勤が再び目を覚ますと、そこはいつもの部屋だった。母親が呼んでいる声が聞こえたので、勤は階段を降りていった。

朝食を摂り、ランドセルを背負って勤は学校に出掛けた。

「おはよう、」

教室に入ると玲奈が居らず、隣の席に智が座っていた。

智は頬を赤め、はずかしそうにこっちを向いてくる。

「なんだよ、何があったのか?」

すると智は顔を机に伏せた。

「俺、そういえば玲奈の隣の席だったんだ。なんだろう…、あの時の事があってから玲奈を見るのが恥ずかしくなったんだよ、ああ…なんであんな事しちゃんたんだよ…。」

するとそこに玲奈が入って来た。今日は珍しく、白色のシャツにオレンジのベストと黄緑のズボンではなく、オレンジのセーラーの襟がついて、肩が少し開いた白いシャツに黄緑のズボンを履いている。また、髪型もハーフアップでは無く、ポニーテールにして、オレンジの組紐で留めていた。

「おはよう勤君。それと智君も!」

「ああ、おはよう、」

「なっ…!」

智は顔を真っ赤にして、頭から湯気を出していた。

「あれ?どうしたの?」

玲奈は智の顔を覗き込んで来る。

「うっ…俺、直視出来ない…。」

智はまた、机に伏せてしまった。

「なぁ、俺気になる事があるんだ。」

勤が玲奈の方を見て、こんな事を言い出した。

「何か、自分じゃない人の夢を見たんだけど…、何か不思議と懐かしかったんだ。あれ、なんだったんだろ…。」

玲奈も考えたが、答えは出なかった。

「自分じゃないのに懐かしい、か…。」

すると智が起き上がった。

「ひょっとして…、前世の記憶とか、そういうのじゃないか?俺や梨乃さんもそういうのがあるから、きっと勤にも何かあるんだよ。」

「前世か…」

「ねぇ、夢の中の情景とか覚えてる?」

「う〜ん…、でも、死出山で見たような景色だった、後は…『光の樹』も…。」

『光の樹』というのは、青波台の海辺に生えた大樹だった。魂が昇る場所と言われ、一昔前はそこで自殺する人も居たらしい。

「梨乃さんだったら、何か知ってるかも知れないな。」

「また聞いてみるよ。」



放課後、玲奈と智は梨乃の所に向かった。

「えっ、勤君が?」

「はい、夢で何か見たそうで。」

梨乃は考え込んだ。

「う〜ん…、私の『夢渡』の能力使えるかな…。」

「『夢渡』?」

「確か…、他人の夢に入り込んで干渉する力だったと思うけど。」

「使うんですか?」

「使った事無いんだけどね。」

「それじゃあ、お願いします」

智は梨乃にお辞儀をすると、玲奈と一緒に出た。

「次は…、『光の樹』に行ってみようと思う。」

「確かそこって、昔卓さん達が調査した所だよね?梨乃姉ちゃんから聞いたよ。」

「そうだ、そしてここは、冥界にとっても、この青波台にとっても重要な場所でもあるんだ。」

『光の樹』は、天に枝を広げ、真っ直ぐそびえ立っていた。

「山と海は魂が昇り、冥界へと繋がる場所とされている。『光の樹』は魂の循環に必要な場所なんだ。その名前も、魂が昇天する時の光が漏れてるからそう名付けられた。

だけど、魂にずっと触れていると、樹がそれに耐えられなくなってしまう、だから…、父さんはたまにそこを見に来てるんだ。」

「へぇ…」

周囲には、海風と異なる風がずっと吹き込んでいた。

「一度、やってみるか…」

智は鎌を取り出して、樹に向けて構えた。

「『風集の鎌』!」

すると『風』が鎌に集まった。

「ここ、勤と同じ気を感じるんだ。」

「えっ?」

智は鎌をしまって、玲奈の方を見た。

「梨乃さんにもまた相談しないといけないな。俺の力では『風』、魂や力の流れを集める事は出来るけど、それの記憶は読む事が出来ないから…。」

「梨乃さんって死神よりも能力高いんだね。」

「まぁ…それだけに関してはな、霊の浄化や魂の管理が死神の本業だし、別に死神は俺だけじゃないからさ。」

玲奈が智をじっと見つめてくる。

「他の死神…、智君やその家族以外にも死神って居ると思うけど、何処に居るの?」

「冥界、かな。たまに他の死神も地上に降りてくるらしいけど、俺の家族は死出山の魂を監視する為に現世でこうして暮らしてるんだ。」

普段会うときは目を反らして来るのに、今日は珍しく玲奈を真剣に見てくる。

「智君って、死神の事を言うとき不思議と真剣になってるよね?それに、最近は表情がやけに豊かになってきたし…そういうの、私は好きだよ。」

「なっ…!」

すると智は顔から火が出るように赤くなった。

「えっ、ごめん、怒らせた?」

智は声を荒げてこう言い放った。

「喜んでんだよ!」

「そっか…」

玲奈は足軽に丘を駆けていく。智はそれを追い掛け、玲奈に並んだ。そして、二人で『光の樹』がある丘を降りていった。



「えっと…、確か夢の中に入りたい人の事を思えば良いんだっけ?」

梨乃はパジャマを着て、ベッドの中に入った。

『夢渡』の能力というのは、他人の夢に入り込んで干渉する能力だ。梨乃の曾祖父である進蔵も持っていて、使いこなせばその名の通り、次々と人の夢を渡る事が出来るらしい。梨乃が目を閉じると、あっという間に夢の中に入った。

再び目を開けると、そこはかつての死出山の光景だった。麓には町が広がり、人も集まっている。

「これ、勤君の夢のはずだよね?どうしてこの時代の事が…。」

そして、その中に一つ目立つ二人組が居た。一方は黄土系の色をした髪の毛を丸く切り揃え、灰色をがかった茶色の目の少年。もう片方は、赤みが少し入った茶色に、赤茶色の目をしていた。

梨乃はその二人の事が気になった。そして、影からその様子を眺めていた。

干渉をしようも思えば出来たが、しなかった。梨乃にとっては、この二人は特別な存在であり、自分が関わる問題でもなかったからだ。


朝が来て、梨乃は目を覚ました。今日は智と一緒に『光の樹』に行く事になっている。

梨乃がそこに向かうと、智が既に待っていた。

「『夢渡』の結果はどうでしたか?」

梨乃は昨日見た夢を話した。

「そうですか…、やはり死出山関連の…」

「うん、会った事無いのに何故か懐かしい気がしたんだよね、なんでだろ。」

梨乃は手を伸ばして周囲に吹く『風』を掴んだ。

「ここ、晴人さんが亡くなった場所なんだよね。」

「その人は…」

「私の叔父さんである瞬さんの親友かな、確かここで自殺したんだ。卓兄さん達がその事をずっと調べてた。」

梨乃は『風』の記憶を読もうとした。

「これだけしか残されて無かったけど、やっぱりそうなんだ。」

「この『風』、勤と同じ…」

「うん、不思議な事もあるもんだね。」

梨乃は『風』から手を離して、『光の樹』を見上げた。

魂は次々と昇り、微かな光を放っている。

「ねぇ、答え合わせしてみない?」

「梨乃さん?」

「瞬さんと勤君を会わせるんだよ、今度茂さんに相談してみるね。」

梨乃はそう行って丘を降りていった。



次の休日、玲奈達四人は渡辺邸にやって来た。

「まさか、梨乃姉ちゃんからお祖父ちゃん家に誘われるなんて思わなかったよ。」

「まぁ…今日は勤君の事なんだけどね?」

梨乃がそう言って勤の方を見て笑った。

「えっ、梨乃さん…!?」

勤はすっかり赤面して、智の背中にくっついた。

「勤…いつもと逆じゃないか。」

「梨乃さんにそう言われて平然と出来るかよ!」

渡辺邸に着くと、志保が迎えてくれた。そして中に入ると居間に通され、冷たいオレンジジュースが出された。

「お祖母ちゃん、ありがとう。」

「梨乃ちゃん、瞬さんに会いたいのよね?もうちょっと時間掛かるみたいだからここで待っててね?」

「あっ、分かりました。」

四人は畳に座って、ジュースを飲んだり、本を読んだりしていた。 

「智君って常に黒いパーカー着てるよね、暑くないの?」

「自分の体温も高いし、このスタイルを崩す訳にはいかないからな。」

「死神のキャラづくりの為か?大変そうだな。」

智は一瞬頬を赤らめた。

「うるさい、これは普段着であり、仕事着であり正装だからな。」

すると玲奈が無理矢理それを脱がせた。

「あっ、何するんだ?!」

玲奈はパーカーと同じ布地を取り出して、志保の針箱の針箱を使って縫い合わせた。

「このパーカー、こう見えても耐火素材で出来てるからな!」

「なんでそんな生地で…」

「火の死神って言っただろ?たまに身体が燃える時があるからそれに耐えれるようにしてあるんだよ!」

「出来た!」

しばらく経って、玲奈がパーカーを持ってきた。

「ほら、着てみて!」

智はいつも通りにそれを着た。

「あれ?何か可愛い?」

「智、中々似合ってんぞ?」

「一体何をしたって言うんだ…」

智がパーカーを触ると、普段は着いてないものが着いている事に気づいた。

「何か…着いてるぞ?」

すると玲奈が強引にフードを被せた。

「へっへ〜、猫耳と猫尻尾着けてみた!」

智の格好は最早黒猫である。

「なっ…玲奈、なんでこんなもの着せるんだ?!」

「似合うと思って、やったんだ!」

智は赤面して、顔を伏せた。

「くうぅ…れ〜にゃ、やめろよ……。」

「智って元々猫っぽいよな?」

「そういう勤は犬っぽいよな。」

智はフードを取った。すると、その時襖を開けて茂が入って来た。

「お祖父ちゃん!」

「玲奈、それと探偵団のみんなか、」

「こんにちは」

茂は四人の前に座った。

「君達は瞬君に会いに来たんだっけな?すぐ来るから待っててな」

玲奈達は姿勢を正して、それを待った。



そして、襖を開けて中から人が入って来た。くすんだ色をしているが、日に当たると金色に輝く切り揃えた髪の毛。全てを見透かすような気を感じる灰色がかった茶色の瞳。

『風見の少年』、彼の物語を知るものは瞬の事をそう呼んでいる。

瞬は梨乃の所に立った。

「お久し振りです、瞬さん。」

「久し振り、梨乃、それから玲奈。後は…」

瞬は二人の方を見た。

「君達は会った事ないね?卓から話は聞いてるよ。」

「あっ、こんにちは」

瞬は智の目をじっと見つめた。

「卓の時は隠していたと思うけど…智君はひょっとして人間じゃないね?」

「あっ…、どうして分かりましたか?」

瞬は口元をほころばせた。

「『風』が人間のものとは違ったからね。卓の時は恐らくあまり近づかなかったから分からなかったと思うが、なんだろう…、君の気に触れると霊が積極的に通さがっていくんだ。殺気を感じるような冷たさながらも、奥には熱いものがある。こんなのを感じたのは初めてだよ。」

智が驚きながらも頷いた。

「そう…、俺は死神ですからね。瞬さん、かなり当たってますよ。」

「死神か、また話を聞かせてくれないかい?」

瞬はそんな茂を横目にして、勤の方に目を向けた。

「君は……」

勤の髪の毛が風でたなびいた。

「ひょっとして…瞬か?」

「勤君、なんで瞬さんの事を呼び捨てに…」

「待って!」

梨乃が玲奈の肩を持って、二人を見た。勤は瞬にゆっくりと近づいて行く。

「夢の中にも出てきたんだ…ずっと会いたかった!」

瞬が何かを感じ、勤を見た。

「まさか…晴人?!」

「晴人さんって…、瞬さんの亡くなった親友の?」

勤は瞬以外に全く目も暮れず、こう続ける。

「ずっと会いたかったんだ。自殺した後もずっと彷徨ってて、その時も瞬の事を考えたんだ。卓君達のお陰でなんとか冥界に行ったんだけど…不思議と次も人間に生まれ変わりたいって思ったんだ。あんなに苦しい思いをしたのにね。ホント、俺って瞬を、人間を捨てきれないんだなって。」

勤の目からは涙が浮かんでいる。

「そうか、そんな事を思っていたのか…」

「俺…今とっても幸せだよ。梨乃さんや玲奈、智とも仲良くやってるし、両親も優しくしてくれる。色々な事を信じれて、明るくしてる。」

「それが幸せだと気づけたのはどうしてだと思う?」

その答えは瞬の代わりに茂が答えた。

「辛い事があるからこそ、その先が幸せだと感じれるんだ。だから…君は生まれ変わろうとしたんだろう?私は、何も幸せだった頃を残すのではない、辛かった記憶も受け継がないといけないって思ってるんだ。」

茂は本を開いた。

「辛い記憶も受け継ぐ、か……。」

勤は玲奈達の方を見た。

「確かに過去の出来事も大切だ。だけど…、僕達は未来に突き進んで行かなきゃ行けないんだ。君達は、僕達よりも遠い未来に居る。勤君、君だったらそれが分かるだろう?」

「はい!」

勤は瞬の方を見て、大きく頷いた。

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