全体的に胡散臭い
季節は夏。東京では記録的な猛暑となり、ところによっては四十度さえ越える日が続くという。まさに現代日本の地獄絵図がそこにある。桐渓要は暑さにうなだれながら外を歩く。今週はゼミのレポート提出があるため、校舎に隣接する図書館に行かなければならないのだ。
額からこぼれてくる汗をタオルで拭いながらふと隣を見ると、白い長そでのワンピースを着た幼馴染が顔を真っ赤に染め上げて目を回していた。明らかに熱中症の顔色でふらつき倒れる寸前の彼女をとっさに抱き留めると、要は急いで近くの個人経営のカフェに駆け込む。シックな印象を受ける板張りの床に、漂う香ばしいコーヒーの香り。カベは雪のような白で、店内に上品さを醸し出している。非常に落ち着いた印象の店だった。
「おや要くん」
「すみませんマスター、ちょっと白藤が死にかけです」
「おやおや、雪女はこの時期大変だねえ」
マスターの言葉に苦笑を返しながらも、要は手慣れた様子で冷却シートを白藤の身体に張っていく。首やわきの下、足の付け根といったきわどいところまで張っているが、その様子に照れはなく、てきぱきとした挙動から彼の器用さがうかがえた。
――世界にダンジョンと呼ばれる建造物ができてから数十年、ダンジョンの先にある異世界への扉を開き、交流を始めた国は少なくない。この日本でも、『妖界』につながってから何年になるか。白藤は、そんな妖界から日本に移り住んだ種族、雪女の一人である。
妖界からは、雪女をはじめとした日本古来の様々な種族が移住し、一種のテーマパークのような状態になっているのが現状だ。日本人が他種族を受け入れるのにあまり抵抗がないことも原因の一つに挙げられるだろう。
「はー、まさか日本の夏がここまでひどいとはね。僕も体力には自信があるんだが、これは参るよねぇ」
かくいうマスターも妖界から日本に移り住んだ一人だ。彼は日本に来て女性と結婚し、娘まで作っている。要の後輩がそうらしいと聞いているが、あまり気に留めたこともないため、詳しくは知らなかった。
そんな会話が聞こえたのか、白藤が目を覚ます。
「……あ、しの」
「気が付いたか。白藤、これわかるか?」
「要の指だね。かわいい」
目が覚めた白藤の目の前で一本指を立てて軽く振ってみるが、いつも通り返事が芳しくないので大丈夫そうだと決めつけると、要は指を捕まえようとする白藤の手から逃げるように立ち上がる。足音を聞いてみれば、マスターが水を持ってきているところだった。
水を受け取り、白藤は青年に目を戻す。
「いつもすまないねえ」
「それは言わない約束だって。それより、今日は無理しなくてもいいぞ。白藤が溶けでもしたら外交的に割とシャレにならないし」
「うーん、外出るのも久しぶりだったからね。図書館行けばクーラー効いてるでしょ。そこまでは頑張るよ」
言うと、彼女の周りだけ気温が数度下がった。雪女特有の現象だ。彼女たち雪女は種族柄高温の場所にいられない。そのため、雪女が活動する地域は彼女たちの冷気により温度が低下し、雪女が生きていける環境にしてしまえるのだ。それでもこの夏はかなり堪えたらしく、先ほど熱中症になってしまったが。
「そっか、じゃあ日傘でも買ってくるか。それなら少しはマシだろう」
「うん、ありがとう要。大好き」
「あぁ俺も」
「はは、キミらいつも熱々だよねぇ。雪女なのにねぇ。……ジョークだよ?」
雪女の冷たい目線を浴びせられながら、マスターはそそくさとコップを回収して受付に戻っていった。そんな哀れなマスターを見送りながら要は軽く時計を見やると、マスターにブレンドコーヒーを注文した。
「要、いいの?」
「まあ、後は細部を整えて提出すれば卒業まで行かなくて済むだけだからな。急ぐほどのものでもないし、明日でいいよ」
「そっか。……ありがと、要。大好きだよ」
「あぁ俺も」
「ほんと熱々だよねぇ。…………今度は言ってないよ?」
要にブレンドコーヒーを渡したマスターが逃げるようにテレビの電源を着ける。昼過ぎのため、流れているのは数年前流行った刑事もののドラマの再放送や主演の俳優同士のドロドロとした愛憎劇が話題のメロドラマ、それからニュースだけだった。適当に手癖でいつものニュース番組でチャンネルを変えたところで、白藤があっと声を出す。
何事かと要とマスターが彼女のほうを向き、その目線を追うようにニュースに目を向けると。
「……と、いうように現在ダンジョン各所で原因不明の魔力嵐が吹き荒れ、妖界への立ち入りは禁止とされております。近隣住民の避難誘導は自衛隊が行っており、住民は誘導に従い六割が避難済みです。また、ダンジョンには現在確認されている世界では見られない動植物を模した魔物が――」
ふぅん、と白藤が特に感慨もなく鼻息を漏らす。妖界出身の彼女としては故郷に帰れなくなってしまったようなものだが、幼い時からこちらで過ごしてきた白藤にとってはこの程度何も思わないに等しい。彼女の居場所は要の隣だと相場が決まっているのだ。むしろ要が白藤の故郷と言ってもいいかもしれないとさえ思う。雪女としては妖界の霊峰にお参りできなくなって寂しいが、それも単に寂しいだけなので我慢できないほどでもない。
「要ぉ、私帰れなくなっちゃった……なぐさめて欲しいなぁ」
「うぅん、これは……しかたないな、今日はもう家に帰ろうか。夕ご飯にスーパー寄って帰ろうか? 何にする?」
「今日は蒸し鶏とかにしようかなー。あとはゴーヤチャンプルとか」
「ああ、いいなそれ。肉は確かこないだ松戸先生からもらったのがあるから、ゴーヤと豆腐か」
「要には精力をつけてもらわないとね」
「どういう意味かなそれは……」
と、そんな話をぐだぐだと続けていた時だった。
カランコロンとカフェの扉が音色を響かせる。入ってきたのは客――とは、とても思えないような物々しい雰囲気の黒服の男たちと眼鏡をかけた胡散臭い青年。彼は要たちの下へとやってくると、いかにも人のよさそうな笑顔を見せながらマスターと白藤に視線を合わせて話しかけてきた。
「いやーどうもどうも。こんにちは、相席よろしいですか?」
「ダメに決まってるでしょ。他の席が空いてるのが見えないんですか?」
「つ、冷たいですね……あ、マスター私はエスプレッソで」
「うち、コーヒーやってないんだよね」
「ここにコーヒーカップありますよねぇ!? それはさすがに予想外でしたよ!?」
「二人ともそこら辺で。……それで、俺たちに用があってきたんですよね? 特にこの二人に」
「あはは、流石ですね。私、こういうものでございます」
そして彼が取り出したのは一枚の名刺。そこには『異世界貿易機構日本・台湾支部副局長兼ギルド管理委員会 アスラ・ブラックフィールド』と書いてあった。見慣れない文字列にマスターと白藤が眉を顰める中、要は一人冷静に問いかける。
「これ……つまりそういうことですか? マスターと白藤には規則に則って潜ってもらうと?」
「え……えぇ。そうですが……実に話が早いですね」
「なるほど。いえ、先ほどテレビを見まして……大体の事情はお察しします。ただ、マスターの所の娘さんを狙おうとしてもダメですよ。彼女は混血ですし、契約もしていないはずですから。それと、しばらく本筋のものではなく練習用のものをいくつか見繕っていただきたいです。対象は……ここから近い範囲で言うと三河辺りでしょうか? 確かに白藤と相性が良さそうですし、それとなくリストアップした資料とかありますよね? それをいただきたいかと」
「…………話が早すぎて不気味って言われません?」
「よく言われます」
そう軽く引きながらも、胡散臭い青年は鞄からいくつかの資料を取り出した。ついでとばかりに「データでいります?」というと、「ではこちらに」とUSBを渡してくる要に諦めたように苦笑を浮かべながらPCのデータをコピーして渡した。
ふと隣を見ると話についていけないとばかりにちんぷんかんぷんと頬を膨らませた白藤が要を睨んでいる。マスターも怪訝そうに眉をひそめているのを見て、おや、と思うものの、事は要が説明するべきものではないためアイコンタクトでアスラに説明を要求。
「ん? あれ、もしかしてお二人は理解しておりませんか?」
「要がわかるからって私もわかるとは思わないでよね!」
「そうだねぇ。私も何のことだかさっぱり。もしも妻と娘に手をだそうものなら容赦はしませんが」
あくまでも穏やかに言うマスターと突っぱねるような白藤。違いは気性の荒さだが、どちらかというと荒れ狂うマスターを止めるのはこの場にいる全員が命を懸けても五分だ。そのことを理解しているアスラは額に汗を浮かべつつ、焦って弁論を並べるとともに説明を始めたのだった。
――しばらくして。
「つまり、私たちにダンジョンに挑めと?」
「簡単に言えばそうなりますね。もちろん、拒否してもらってもかまいません。ただその場合、我々の擁する施設に避難していただく手筈になっておりまして……」
「私知ってるよ! そういう施設で人体実験とかされるんでしょ! そして私は要のことも忘れた戦闘機械みたいになって、最後は要の手で助け出されて、今までの非道な実験の数々の記憶を乗り越え、また要のことを好きになって、最終的に要の記憶を思い出して二人でロボットに乗って愛の力で巨悪を倒してゴールインするんだ……」
「なんか色々混ざってるけどアスラさんが言ってるのは国営の保護施設だ。どの国でも異世界との関係はデリケートだから、間違ってでも死なないように厳重に保護してくれるはず。まぁ、あまり自由はないだろうけど」
「え~じゃあ私と要の愛を確かめ合うイベントは?」
「それはいつでもいける」
「えへへ、要大好き!」
「あぁ俺も」
「……………………乳繰り合うのは構わないんですが、私のいないところでやってくださいね。せっかくのエスプレッソも甘くなっちゃいますよ」
アスラ以下、黒服たちのジト目をさらりと受け流して、要は先ほど聞かされた条件を整理する。
まずは何故白藤とマスターが選ばれたのか。これは簡単だ。彼ら異世界人は種族によって戦闘能力があまりにも違うため、いくつかの機関が合同で戦闘力を区分けした仕組みを作った。その区分けに合わせて、力を制限されたり誓約書を書かされたりするのだ。これはその一環で誓約されたものに則って協力を要求されているとみていいだろう。
今回の場合、白藤とマスターは戦闘力の区分けではランクAに該当する。これは世界的に見ても最高峰の戦闘力ということだ。正確には、白藤がランクA-でマスターがランクA++だが。要から見ればどちらも敵わないということは共通している。ちなみに、人間の戦闘ランクは凡そD~B+ほどになる。これには色々と紛糾したらしい。肉体的には脆弱だが、兵器を持ち出されればドラゴンとて普通に死ぬということを歴史は今の時代に伝えているため、上限がA+だろうと一部の種族がツッコミを入れていたとかなんとか。
このランク制度でA以上のランクを持つ種族は必ず『ダンジョンの氾濫、および予期せぬ突発的な事件の収拾のために積極的な協力をする』ことを義務付けられている。それは、世界同士をつなげあっているのがダンジョンのため、氾濫や事件を許してしまうと数多の世界に甚大な被害が出ることが予想されるためだ。また、積極的な協力とあるが、強制されるわけでもないためどの種族も概ね納得している。
今回はあの魔力嵐の調査が主な目的だろう。厄介と言えば厄介だが、主目的は調査員の護衛が妥当なところか。原因さえわかれば護衛もいらないはずだし、早期解決が望ましい。
何より――
「へー面白そう! ね、要ぉ、私こういうのやってみたい!」
白藤が乗り気だということは予想がついていた。幼馴染のため、彼女の機微は手に取るようにわかるのだ。だから彼女がダンジョンに挑むだろうことも予想がついていたが……正直、不安を覚えなくもない。大切な彼女が危険に身を晒すというのは彼氏としてもあまり喜ばしいことではないのだから。
とは言え、やりたいと言われれば叶えてやるのも男の甲斐性だ。だからこそ、要は先に練習用のダンジョンを見繕っておいた。あくまでも安全にダンジョンアタックをさせるために。
「じゃあやるか」
「うん、やろう!」
「私はパスかなぁ。コーヒー屋もしばらく営業中止になっちゃうけど」
そこでようやくアスラの顔にもほっとした表情が見える。二人とも拒否されたら彼の評価にも関わってくるため心配していたのだろう。特にランクA評価の彼らは護衛としていればとても頼もしいはずだ。マスターは地上に敵はいないとまで言われる種族であり、水場の白藤ははっきり言って化けもの染みている。この一帯で考えうる限り最強の戦力だろう。そこまで考えた時にアスラが要をちらりと見てきた。口元には軽く笑みを湛えて。
要は少し冷えたブレンドコーヒーを飲みながら、これはばれているなと思った。狙いは白藤とマスターだが、本命はこちらか。種族柄か、まったくもって抜け目がない。見事に白藤もつられてしまったことだし、諦めて踊らされるのも一興か、と普段の彼からは珍しく浮ついた気持ちで受け入れる。
「では、後日改めてこちらへお越しください。向かわれるダンジョンのご説明とダンジョンアタックにあたっての注意事項等をご説明いたしますので。ええと、では次の土曜日、正午でいかがでしょうか?」
「はい、それでいいですよ。ねえねえ要! 武器はなんにする? 私はやっぱ剣がいいなぁ。こう、並み居る敵をぎったんばったん倒すやつ!」
「まあ、後で決めような。白藤にはあんまり前に出て欲しくないんだが……あ、アスラさん、後ほどうかがわせていただきます。本日はありがとうございました」
「いえいえ。桐渓さんがいてくださって助かりました。それでは」
そう言ってアスラは黒服たちとカフェを後にしていった。そうして最後までにこやかなアスラを見送った要と白藤は顔を見合わせる。
「ねえ、要ってあの人の前で名乗ったっけ?」
「調べてたんだろ。用意周到だな彼は。あとアスラさんは人じゃないぞ、悪魔だ」
「え!?」
「ああ、それは僕も思ってたよ。いくら僕でもいきなり他人にあそこまで冷たくないからねぇ。ま、白藤ちゃんはデフォであれだよね。出会った頃を思い出したなぁ。お父さんとお母さんに連れられてきた白藤ちゃんに氷を顔面にぶつけられてさ……」
「ちょっとマスター!?」
喧噪を聞き流しながら要は頭の中から悪魔のデータを引っ張り出していく。悪魔。デビル。イービルとも呼ばれる彼らの種族は、何故だかとても敵愾心を持たれやすい。普段は温厚な人物が非常に冷たい対応をしてしまう事も確認されている。曰く「彼らは精神に干渉してくる存在のため、無意識に防衛本能として敵対的になってしまうのだ」という。人と会話するときも事前に人柄や経歴を調べたり、言葉の裏に何かが潜んでいたりするのも特徴の一つだ。つまり全体的に胡散臭い。彼に対する白藤とマスターの態度も、かなり冷たいものだったのはアスラの種族特性のせいだろう。胡散臭さここに極まれりというやつである。
……実は、その事実に悪魔種族は結構しょげているのだが、それがまた嘘くさいという負のループ。可愛そうな種族だった。特にバチカン辺りでは悪魔排斥の流れが強いため、悪魔の中ではバチカン等エクソシストの多いところは危険地帯としてマークされている。
そんな彼が持ってきたダンジョンの話も、今になって思い返すと胡散臭く思えてくるから不思議だ。まあ、なんとかなるだろう、と要は思う。こちらのことも調べてきたみたいだし、特に何かされるわけでもなさそうだ。なぜ異世界人が日本の異世界貿易機構とやらの副局長を務めているのかは不明だが。肩書すら胡散臭いとはもはやこれは呪いなんじゃないだろうか、などと取り留めもないことを考えながら、とりあえず氷を撃ちまくっている幼馴染を止めるために一肌脱ぐことにした。
「……アスラさん、よかったんですか?」
「ええ、ちゃんと協力も取り付けられましたしね。これで私の首もしばらくは安泰だ」
由緒正しいケットシーの彼女、エイミーは隣に座る上司に尋ねる。彼女には分からないことだが、この上司は他人を使って成り上がろうとしているらしい。いや、あくまでも現状維持か。とりあえず誇り高きケットシーにはよくわからない理論だと思っている。
「ですが、あのカフェのマスターは『鬼』です。地上の神とさえ言われるあの」
「ええ、ですが代わりに雪女の彼女の協力を得られたでしょう? 何が不満なんです?」
わからない。上司の考えることがわからない。どう考えてもあの場にいた最高戦力は鬼のマスターだろう。狙いは彼だったはずだ。上司もあの場所に行く前にはそう言っていた。なぜその場に偶然いただけの雪女に狙いを変えたのか。
「雪女と鬼。両者ともに戦力ランクではAの区分ですが……地力が違いすぎる。汎用性を考えてもあのマスターにお願いすべきだったのでは? 雪女の子はまだ成人かそこらでしょうし……あの彼氏さんも人間ですから、正直不安が残ります。はっきり言ってアスラさんの判断に疑問を感じます」
「えっ? あぁ、なるほど。確かにそう見えるか……」
意味がくみ取れないことをつぶやく上司に少しイラっとするが我慢。こんなことは彼の下についてから何度もあった。今更意味深なことをつぶやかれたところで大したことはない。
しかし、エイミーが自身にそう言い聞かせた矢先に、
「私の狙いはあの青年、桐渓要さんですよ」
などと言われては驚愕するほかなかった。
「は、はぁっ!? 正気ですか!? 人間の、よりにもよって学生に頼るなんて! ……暑さで頭でもやられましたか?」
「ははは酷いなぁ。でも間違ってますよ、エイミーさん。減点です」
「減点って……」
「あなた、私の渡した書類を隅々まで読んでいないでしょう?」
「い、いや読みましたよ! 特に特記戦力になりそうなところは暗唱できます!」
「それには桐渓さんは含まれてませんね? いえ、答えずともよろしい。しっかりと読み込んでいればその発言も出ませんからね。貴女は少し思考にバイアスがかかっているようです。今から言うことをしっかりと頭の中に留めておいてください。私は最初から彼をどう引っ張ってくるかを考えていました。なぜなら――彼、桐渓さんは既にBランクの探検家として活動しています」
混乱の中、上司から告げられたあまりにもあり得ない情報にエイミーは一瞬言葉を失った。ちらりと見ると、他の黒服――同僚たちも同じように言葉が出ないようだった。
「は? え、えぇと、それホントですか? あの、にわかには信じられないというか……」
「ええ、私も最初に経歴を見た時は同じ反応をしましたよ。当時彼は高校生。だというのにギルド登録後からすぐに、異例の早さでBランクまで駆け上がっていました。申請すればAランクにもなっていたでしょうね。とにかく、それほどの才能が目の前にいるのです、声をかけないといけないでしょ? ダンジョンで必要なのは戦闘力ではなく思考力と運、それからどんな時でも冷静な判断力です。それらを兼ね備えた彼を誘うのは戦力的に見て正しい、そう思いませんか?」
そう言って笑いかけてくる悪魔の顔は、やはり何を考えているのかわからないような、胡散臭い笑顔だった。