三
町外れの小高い丘というのは、ハーピーたちにとって、周りを気にせず着地できる良い場所である。
赤いスカーフを見て集まってくる子どももいなければ、うっかり砂埃を吹きちらしてしまう心配もない。
いつかはハーピーの暮らしやすさを追求した家を買いたいものだと思いながら、ピーノはキャサリン・ヴィーナの住む屋敷のドアを叩いた。
相変わらず綺麗に磨かれている銀のノッカーが揺れるのを見ながら、待つ。悪いことをしたわけでもないのだが、仕事以外でここに来ているという事実は、妙に落ち着かない。
手を握っては開き、翼を揺らし、口上を頭の中で繰り返し。そうして待ち続け、もしや呼んだのが聞こえなかったのだろうかと思ったところで、ドアが開いた。
「はーい……あら、ピーノ君」
ドアを開けたキャニエルは、以前も見せたエプロン姿だった。しかし、今日は魚の匂いもしなければ、鱗も付いていない。
これから料理をするところだったのか。もしそうなら、邪魔をしてしまったかもしれない。謝罪の意を込めて、ピーノは頭を下げる。
「こんにちは。いきなり訪ねてきてしまって、ごめんなさい」
「いいえ、そんな堅苦しくならなくってもいいのよ。今日はどうしたの?お手紙……じゃあ、ないみたいだけど」
スカーフを巻いていないピーノの姿に、キャニエルが首をかしげる。当然だ、と、ピーノは内心に羞恥を押し戻した。この家にとって、自分はあくまでも、手紙を配達するものでしかないのだから。そんな相手が、まさか個人的な用事で来るとは思うはずもない。
「えっと……これ、キャサリンさんに」
冷静になりすぎる前に、ピーノは目的を果たすため、腰に巻いた小さなポーチから、はちみつ入りの小さな瓶を取り出した。
中身は小瓶の半分程度しか入っていないが、それでも、薄給ではないピーノでもためらうほどの値段だった。
もっとも、こんなお屋敷に住む人にとっては、気軽に買えるのかもしれないが。
「これは?」
「蜂蜜です。西の方で採れるもので、咳にいいと」
「まあ……」
キャサリンが何らかの病に冒されていることは、間違いないはずである。だが、それが咳や喉だけの問題であるのかどうかも、ピーノは知らない。
もしかすると、こんな手段くらい、とっくに試しているかもしれない。そうであれば、自分の思いつきは、無意味なものになる。
しかし、キャニエルは大事そうに小瓶を抱きしめて、ピーノの善意に感謝の意を示した。そのふるまいに、嘘偽りは感じられなかった。
「ありがとう。心配してくれただけじゃなくて、ここまでしてくれるなんて」
「喜んでいただけたなら何よりです。じゃあ、これで」
「待って。今、キャサリンを呼んでくるわ。ちゃんとお礼を言わせるから」
「いえ、そんな……」
「キャサリン!ピーノ君が来てるわよ!」
ピーノの言葉を待たずに、キャニエルは娘の名を呼びながら屋敷の中へと消えていった。こうなると、勝手に帰るわけにもいかず、ピーノは仕方なく、開きっぱなしのドアから屋敷の中を眺めて待つ。やはり、広い。玄関だけで一人くらい住めるのではないかというくらいに、広い。それに、掃除も行き届いている。エントランスの壁にかけてある風景画は、草原に流れる川を描いたもので、実在する景色にも、想像上の楽園にも見える。
そういえば、孤児院で暮らしていた頃、川に遊びに行って姉さんが魚を素手で捕まえたことがあったな、などと思いだしていると、ひょい、と、サビ柄のキャサリンが、突然開いたドアの一つから顔を出した。
その顔は、無理やり仏頂面を作っているような、妙な表情を浮かべている。着けているサイズの大きいエプロンは、キャニエルと違い、似合っていない。
「……なにあれ」
第一声から怪訝そうなキャサリンに、お礼を言いに来たのではなかったのか、とは思いつつ、ピーノは頷いた。
「はちみつです。薬にもなるらしいですよ」
「薬、ね」
その言葉に良い思い出が無いのか、キャサリンは苦々しく言い捨てた。
そして、帰りますと言い出すタイミングを見計らっていたピーノに、「あなたは」と苦笑いを向ける。
「また、お節介をしに来たのね」
そう言われることを、ピーノは予想していた。だから、返す言葉も、考えていた。
「たまたま近くに来る用事があったので、ついでです」
「そう、ついでなのね。じゃあ……少し、待ってなさい」
じゃあ、とはどういうことなのか。疑問は残ったが、キャサリンはしっかりとした足取りで階段を上っていってしまった。その足取りがしっかりしていたことに、ピーノは少なからず安堵を覚えた。今日は、体調が良いらしい。「たまに咳が出るだけ」というのも、まったくの嘘であるというわけではないのかもしれない。
戻ってきたキャサリンの足取りは、やはり軽やかだった。両手で広げたエプロンの上で、くしゃくしゃに丸まった紙が三つ、転がっている。
「これ、あげるわ」
「なんですか、これ」
「リンゴよ。見れば分かるでしょう」
紙に包んであるんですが、と言ったところで変に話をこじれさせるだけだろうと、ピーノはおとなしく「ありがとうございます」と頭を下げた。
取りなさい、という視線を受けて、エプロンの上で揺れている紙ボールを取る。ずしりと重い。実が詰まっている、良いリンゴだった。
「ママがお買い物に行くと、いっつも色んなものを貰ってきちゃうの。そのリンゴも貰い物だけど、私もママもあんまりリンゴは好きじゃないから」
「処分ついでに、ということですね」
「そう、ついで」
「では、遠慮なくいただきます」
「ええ」
蜂蜜が出ていって空いたカバンに、三つのリンゴが収まる。
リンゴなどまるかじりくらいしか思い浮かばないが、姉さんに頼めば、上手いこと料理してくれるだろうか。考えながら、飛んでいる最中にリンゴが転げ落ちたりしないように、しっかりとカバンの口を金具で固定する。
顔を上げて、あらためてキャサリンの顔を見れば、当然だが、目があってしまう。ひるんだのはお互い様だが、先に目をそらしたのは、キャサリンだった。
そのことに理由もない優越感を抱いて、ピーノはキャサリンの横顔に言った。
「調子は、良さそうですね」
「大した病気じゃない、って言ったでしょう?」
「そうみたいですね。安心しました」
「あら、心配してくれたの?」
「……まあ、多少」
今度は、キャサリンが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
その笑顔を見て、ピーノは思い出す。先日も、似たようなことを言われた。からかうような笑みもそっくりだ、と、ワーウルフの先輩の姿が重なる。
それを不快に思ったわけではないが、かと言って、これ以上話すこともない。用事は済んだ。そろそろ、頃合いだろう。
「……じゃあ、用も済んだので帰ります」
「あっ……」
何かを言いかけたようなキャサリンの声に、飛び去ろうとしていたピーノが足を止める。振り向けば、キャサリンは視線をあちらこちらに向け、口を開けては閉じ、言葉を選んでいた。
ピーノも、それを急かしはしない。ただ、待つ。
「その……」
「はい」
「たまたま、聞いたのだけれど」
「ええ」
「……風の女神の加護があらんことを、だったかしら」
キャサリンがようやく絞り出したその言葉は、ハーピーをはじめとした、空を行くものたちが好んで用いる祈りの言葉だった。気まぐれな風に振り回される空の旅が、安泰なものであることを願う、誰が言い出したのかも分からない祈り。
そして、陸から離れないネコマタ種はまず使わない祈りでもある。それだけに、ピーノは驚いていた。元から知っていたのか、わざわざ覚えてくれたのか。どちらにせよ、キャサリンなりに、「心配してくれている」ことは、十二分に伝わった。
「……ありがとうございます」
残念ながら、ピーノの知る祈りの中に、ネコマタたちが用いるものは無い。ならば、と、深く頭を下げ、翼を畳む、正式な場での礼をしてから、背を向けた。
風で打ち付けることの無いように、十分に離れてから、地面を蹴る。ばさりばさりと音を立てて飛び上がってゆくピーノを、キャサリンが見守る。
「キャサリン」
だが、その後姿に、声をかけるものがいた。
「……ママ」
屋敷の中に戻っていたとばかり思っていた母親の姿に、キャサリンがバツの悪そうな表情を浮かべる。
「お礼は、ちゃんと言わなきゃだめよ。ついでだなんて、気を使わせないために言ってくれたんだから」
「……わかってる」
「次にピーノ君が来てくれた時に、お礼を言いなさいね」
「……うん」
「結構。それじゃあ、中に入りましょう。今日は、お料理の練習だったわね」
ぽん、と背中を叩かれて、キャサリンは踵を返して屋敷へと入ってゆく。
ドアを閉める寸前、もう一度見上げた空には、もう、ピーノの姿は無かった。
……………………
日々の大半は、何事もなく過ぎる。
風邪の流行は収まる様子を見せないが、それでも、ハルもピーノも、それぞれの業務に戻り、少しだけ回ってくる量が多い仕事を、問題なくこなしていた。
ハルの体調も、もう、風邪を引いていた頃の名残もない。
「ピーノは、真面目に考えすぎるんだよね」
夜。自宅でスカーフのほつれを繕っていたハルが、唐突にそんなことを言った。
テーブルの向かい側に座っていたピーノは、「なに?」と聞き返しながら、顔を上げた。視線を落としていたジグソーパズルは、あと数ピースで完成するところだった。だが、そのタイミングで邪魔をされたことよりも、姉の前触れもない発言のほうが、ピーノに疑問符を浮かべさせた。
「いきなり、何の話?」
「キャサリンちゃんのこと。あれからも、気にしてるみたいだから」
「……別に、気にしてるってほどじゃないよ」
ぶっきらぼうに答えながらも、手紙の仕分けをしている最中のピーノが、キャサリン宛の手紙を見て一瞬手を止めるのは、事実だった。配達を終えたハルの「キャサリンちゃん元気そうだったよ」という報告にも、興味の無さそうな返事をしつつ、安心したような笑みを浮かべるのは、ハルは気付いている。
ピーノの目は再びパズルへと向かったが、ピースを持つ手は宙をさまようばかりで、収まる場所を一向に探し当てられない。虱潰しに押し付けるだけでも完成する状態だが、あくまでもパズルを楽しみたいピーノは、総当たりのような手段を嫌う。
「ね、ピーノ。私たちがお仕事始めたときに、所長さんに言われたこと、覚えてる?」
「色々言われたけど、どれのこと?」
「手紙は色々な事情を、ってやつ」
「『手紙は色々な事情を内包している。楽しいことも、悲しいことも。我々は、それを運んでいるということを忘れてはいけない』でしょ。もちろん覚えてるよ」
「そう。でね、その楽しいことや悲しいことを運んだからって、私たちが共有までしちゃうのは、良いことばかりじゃないと思うんだ」
ピーノが、手に持っていたピースを一旦テーブルに置いて、姉の方へと目を向ける。
「……昔ね、私が届けたお手紙を読んだ人が、その場で泣き出しちゃったことがあったの。元気なおばあちゃんでね。サウスエリアに行ってる息子さんから届くお手紙のことを、いっつも楽しそうに私に話してくれてたの。だから、私もすっごく驚いたんだ。何が起こったのか分からなかったくらいに」
語るハルの口調は穏やかだった。繕い物をする手の動きも、落ち着いている。
「とりあえず、おばあちゃんが泣き止むまで待って、話を聞いたらね、その日のお手紙は、息子さんが事故で亡くなったって知らせだったんだって」
寂しいよね、と、ハルは笑った。
「私は、お手紙を運べば、喜んでもらえるとばかり思ってたんだ。でも、そうじゃなかった。お手紙には悲しい内容が書かれてることだってあるんだって、気づいたんだ。だからね、それからは、喜んでもらっても、悲しまれても、お手紙と一緒に、その気持ちは置いていくって決めたの」
姉の話を聞きながら、ピーノは腑に落ちた思いだった。
ハルは、配達の話をしない。飛んでいる最中にこんなものを見たとは言っても、手紙を渡したことで何かがあったとは決して言わない。キャサリンのことは、自分のために例外にしてくれていたのだろう。
もちろん、そこには「人の手紙についてどうこう言うのは失礼だから」という思いもあるはずだ。しかし、それだけではない。言うなれば、ハルなりの自衛が、そこには含まれている。
「姉さんって、もっと感情的なタイプだと思ってたよ」
「もちろん、感情的になることだってあるよ。お手紙を受け取った人が泣いちゃったら落ち着くまで待つし、喜んだら一緒に喜ぶ。でもね、届けるお手紙全部、そこに含まれてる事情全部を抱え込んだまま飛べるほど、私の翼は大きくないもん」
そこまで言って、ハルはぐいと仰け反り、天井を見上げた。裁縫のために下を向いたまま固まっていた体に、血をめぐらせる。
「とにかく、ピーノも、優しくなりすぎないようにね」
「大丈夫だって。というか、そんな心配の仕方って無いんじゃないかな」
「だって、ピーノって困ってる人のためならなんでもしちゃうでしょ?お姉ちゃんは心配です」
言葉ばかりは茶化しつつも、心配しているのは嘘ではないと分かる言動に、ピーノも言い返せなかった。同時に、こうした冷静さが、自分が姉を姉として慕っている理由なのだろうな、とも再確認していた。
「で、なんでいきなりそんな話を?」
「ああ、そうそう。預かってたものがあるんだ」
話がそれちゃった、と、ハルはベッドに投げ出されていたポーチから、一通の封筒を取り出した。飾り気は無いものの、手触りが良い、上等な封筒だった。しかし、糊で貼り合わせた箇所がにじんでおり、妙にちぐはぐでもある。
「何これ。配達忘れて持ち帰ってきたの?」
「違います。今日、配達の途中に、キャサリンちゃんから『ピーノに渡して』って頼まれたの」
「キャサリン……さんから?」
訝しみながらも、ピーノは渡された手紙を開く。
月明かりもない夜、文字を読むためにはランプの灯りが必要だった。何も言わずに、ハルはランプシャードを傾け、ピーノの方へと灯りを向ける。
「親愛なるピーノ・メイリア様へ」という書き出しは、小さく、しかし綺麗な字だった。
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親愛なるピーノ・メイリア様へ。
しばらくお会いしていませんが、体調などは崩されていないでしょうか。風邪を引いていたというお姉さまは、すっかり元気になられたようで、嬉しく思います。
話したいことはたくさんあるけれど、早速本題に入ります。
近く、皆様が「丘のお屋敷」と呼んでいたあの家を離れ、ノースエリアへと引っ越すことに決まりました。
お父様が、私の病を治療する術を見つけたためです。
ノースエリアに、とても腕の良いお医者様が居り、私の病も、時間はかかるものの、完治させられるそうです。そのために、お父様は、私とお母様を置いて、遠くに行っていたのです。
お別れの挨拶をしたいと考えていたのですが、どうやら、すぐにでもお父様が迎えに来て、出立しなければならないそうです。この手紙を書いている二日か三日後には、あの丘のお屋敷は空っぽになっていることでしょう。
短い間でしたが、あなたとお話できた時間は、私にとってとても楽しい、かけがえの無い思い出です。本当に、ありがとうございました。
お姉さまとあなたに、風の女神様のご加護がありますように。
カトリン・ウィネ
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「……引っ越すんだってさ、キャサリンさん」
「どこに?」
「ノース。だから、姉さんがあのお屋敷に配達に行くことも、無くなりそうだね」
「そっか」
ため息を飲み込んで、あのキャサリンらしからぬ丁寧な文体の手紙を繰り返し読む。
わざわざ手紙をくれたことを喜ばしく思う一方で、どこか他人行儀な内容に――。
「ね、ピーノ。今日は一緒に寝よっか」
「なにさ、いきなり」
「寂しそうな顔してたから」
「寂しくないよ」
「そう?」
とは言え、ピーノが本当に寂しさを感じていないかと言えば、嘘になる。
数度会っただけだが、キャサリンはなんとなく反りが合う、話していて楽しい相手だった。もう少し機会があれば、きっと、いい友達になれていただろう。
しかし、イーストエリア内ならばともかく、別のエリアに引っ越すとなれば、気軽に会いに行くこともできない。
もしかすると、姉さんはそれを察していたから、あんな話をしたのか。そうだとすると、やはり、姉さんもお節介が過ぎる。
「……ん?」
便箋を封筒に戻そうとして、ピーノはそれに気付いた。
封筒の中に、文字が書いてあった。手紙を取り出して、中を覗き込まないと気づかないような場所に。
まさか、と、ピーノは再びペーパーカッターを手に取り、封筒の端に当てる。ぴしと音を立てて断ち切れば、封筒はあっけないほどに長方形の紙へと形を変えた。既成品ではない。封筒自体が、便箋を折って袋状にしたものだった。
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こんな分かりづらいところにメッセージを書いてしまって、ごめんなさい。
あなたが最初に読んだであろう手紙は、失礼の無いようにとママが内容をあらためたから、書きたいことはあんまり書けなかったの。
とは言っても、ママに隠してまで書きたいことが、そんなにたくさんあるわけじゃない。
だから、ここに書くのは少しだけ。
まず、私がパパのことを悪く言ってしまったことについては、忘れてほしい。パパは私のために遠くに行っていただけで、どうでもいいなんて思ってなかったのだから。今なら、パパはとても優しい、子ども想いのパパだと言えるから。
それと、もう一つ。
あなたたちのお節介には、ちゃんとお礼を言えなかったけれど、感謝しているの。特にピーノ、あなたが私のためにハチミツを持ってきてくれたときは、嬉しくて、何を言えばいいのか分からなかったくらい。
でも、お節介なあなたたち姉弟に、私は何一つお返しをしていない。本当の心残りは、そのこと。お別れの挨拶できなかったことなんて、どうでもいい。
まるで二度と会えないかのような手紙を書いたけれど、いつか必ず、今度は私の方から、二人に会いに行くから。今はまだどうやって恩を返せばいいのかも分からないけど、次にあなたたちに会う時には、必ず、あなたたちのお節介に見合うだけのお礼をするから。
どうか、その時まで、私のことを覚えていて。
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二通目の手紙に、ピーノの頬が緩む。こちらの方が、ずっと、キャサリンらしい。こんな風に、感謝の気持ちを示されるとも思っていなかったが、そんなことよりも、「いつかまた」と言ってくれたことが、嬉しかった。
「あのさ、姉さん」
「うん?」
「……その、たまには、神父さんたちに会いに行かない?孤児院にはいつでも帰ってきていいって言ってくれてたし」
レターラックに二通の手紙を収めて振り向いたピーノは、恥ずかしそうに、しかし晴れやかな笑顔をしていた。
唐突な提案に、ハルも、理由を聞きはしない。繕い終えたスカーフを綺麗に畳んでから、満足そうに、頷いた。
「そうだね、元気でやってますって、挨拶しに行こっか。キャンディでも買っていった方がいいかな。子どもたち、喜ぶよね」
「じゃあ、明日はまず市に寄ってから……」
久しぶりの里帰り計画を立てるピーノとハルの横顔を、ランプの灯りが照らす。
その横顔は、まだ親となる者を必要とする子どもの幼さを、残していた。