わたしのはこのなか
わたしみみっくちゃん。
前置き毎回喋るのクソ面倒だから省くけど、超絶崇高たる魔神グア・ウトィプさまの(自称)一の下僕にしてモンスター界の陰の裏番と恐れられてたらいいなあと思ってるミミックだよ。
「なー家なき箱入り娘ー」
このわたしをゆさゆさ揺すぶってくるのは、同じクラスで同級生のミイラ男小倉町くん。
わたし(兼箱)が乗っかってるのって机の上だから揺すぶるのやめてほしい。
不安定極まりないしなにより気安すぎると思うの。
「やめっあっやめっ」
「あぁん? 聞こえねーよワンモアプリーズ!」
箱を閉じでいても聞こえるこのでかい声、耳が痛い。
大体ミイラ男ってあーうー言いながらよろよろよれよれしてるもんじゃないの?
なんでこんなに明朗快活なの。
このファッションミイラが!
「ゆらっ……す、な……さいで、くだ、さぃ」
「あーん? なー、聞いて聞いてー」
聞けこの野郎。
小刻みに箱を揺らされるものだから机もガタガタ揺れる。
危ない、危ない。
だれかたしゅけてぇ!
「……なんっ、なんだ、です」
さっさと言ってさっさとどっかいけ。
USJとかで就職して二度と帰ってくんな。
「あのさーあのさーあのさー、おまえのさー、その箱ってさー、お前以外の物って入る? 入れられる?」
は?
なにを言っているんだこのファッションミイラ。
物が入るかって?
当たり前だ。無限に収納可能だ。
というかこの箱の中は全世界のみみっくにつながっていて、その気になれば世界のどこにいるみみっくの箱からでも出入り自由だ。
といってもみみっくは箱に入っているからみみっくなのであってそもそもが出入りする理由がない。
それによそのみみっくの箱はよその箱、うちのみみっくの箱はうちの箱。
というように、家族でもないみみっくの箱を使用するなんて人間でいうと他人のお家に許しもなく入ってお茶するようなもんなので誰もやらない。
でも家族間は別だし予備箱を用意しとけば移動が楽なので、登下校も一瞬で楽々スイスイだ。
このファッションミイラが言うように、物も受け入れる分にはいくらでも入れられる。
どうだ。
みみっくは偉大で便利なのだ。
かの敬愛する魔神グア・ウトィプさまもそれはもう我らがみみっく族を重宝されたという。
時々間違って噛んだりしたともいう。
魔神グア・ウトィプさまの御手をはみはみしたのは我が一族だけー!
ひれ伏せ凡モンスターどもが!
「なんでも、はいるぞ、です」
心では思っていても、口にはうまく出ない。
万感の思いで、ない胸を張って精一杯告げた。
「マジ? じゃあさ、じゃあさ、聞いてほしいお願いがあるんだけどォー!」
「ひぇっ」
ぐわしっと宝箱に掴み掛られる。
やめろっわたしの渾身の箱に気安く触るなっ。
指紋が付くだろうがっ。
あ、でも指先まで包帯巻いてるからいいのか。
いやよくない!
汚らしい包帯で触れおって。包帯がつくだろうが。
よくわかんないけど。
「さわっ、さわるな……です!」
言ってやった!
言ってやったぞ!
比較的大きい声で!
「あのさーあのさー、実はさー」
聞けこの野郎。
耳まで包帯詰まってんのか。
「俺も一回その箱に入ってみたいんだけど!」
隠すつもりがあるとは思えないでかいヒソヒソ声で、とんでもないことをファッションクソミイラが告げた途端、一斉に周りでガタガタガタッっと椅子が動くけたたましい音が響いた。
「ちょっと待った!」
「話は聞かせてもらった!」
「その話!」
「我らもかませてもらおうか!」
「みみっくたんのなかあったかいナリィ案件キタコレ!」
え。
待って。
わたし。
やるなんて。
言ってない。
わたしみみっくちゃん。
奇しくも入学初期にクラスメイトを全員はみはみして病院送りにしたドジっこモンスター。
でもわたし、わるくない。