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わたしのくらすめいと

 わたしみみっくちゃん。

 畏れ多くも壮麗にして尊き我が主、魔神グア・ウトィプさまの恩寵によって、古来より宝箱に潜み、並み居る金と欲望の亡者どもを恐怖の淵に陥れてきた功績を持つ、職能ミミックを抱く末裔である。


 ひれ伏せ愚民ども。

 噛んでやる賤民が。

 真実の口とか言ったやつゆるさんぞ。




 突然だけど、わたしは常に箱に入っている。

 みみっくだから当たり前だ。

 でも箱に入ったままだと、日常生活もやや困難。やや工夫が必要。

 たとえば移動授業のときなんかは自分で動けないから箱を運搬してもらわなきゃいけないので、台車の上に乗せてもらって運搬される。

 やや屈辱の極み。


「気にしないでね、困ったときは助け合いだよ」


 このめちゃくちゃ善良なセリフを吐きつつわたしを運搬しているのは、このクラスの委員長を務める淫魔の、小浮気おぶき澪さんである。

 小浮気さんは頼んでもいないのに気を利かせ、嫌な顔一つせずに私を運んでくれるスーパーいい子だ。

 見た目もさらさらストレートのハーフアップで、生真面目そうな眼鏡をかけている正統派委員長! って感じの美人。

 たれ目に泣き黒子ではんなり微笑まれると、ヤマトナデシコーって誰かが言う。


 正直、ほんとに淫魔か?

 って内心いつも疑っている。

 でもいつもその疑いを否定せざるをえなくなる。

 なぜかってそれは。


「きゃあっ」


「あっ」


 曲がり角で台車が回り込み切れず、ぶつかってわたし入りの箱が落ちる。

 小浮気さんも反動でつんのめったのかすごい音がした。

 振動が収まったところで、こっそりと箱の隙間から外をのぞいてみたわたしが見たものは。


「ひえっ」


 小浮気さんが、なぜかわたしの箱の真ん前で、廊下に突っ伏すようにしてお尻を上げている光景であった。

 ちなみにスカートは思いっきりまくれ上がって、紫色のレースのイヤらしくも繊細なパンツが丸見えになっている。


 そう。

 小浮気さんは、ラッキースケベを起こしてしまう。

 どんなに気を付けていても、どんなに注意していても、超常現象的な力が働いてラッキースケベが起こる。

 そして必然的にそばにいるわたしもそれに巻き込まれる、っていうか第一発見者的なものになる。


 もう、イヤらしい。

 毎回イヤらしい。

 スケベっぷりがえげつない。

 これぞ淫魔の真骨頂とばかりに朝昼晩用法容量を守って正しくラッキースケベる始末。

 もういい加減にしてと言いたい。

 逆セクハラだよこれは。

 イヤらしすぎて精神的ダメージが半端ない。


「いててて……キャアッ。やだ……ごめんねっ、みみっくちゃん! 毎度毎度…」


 起き上がった委員長は慌ててパンツを隠すけど、もう遅い。

 自覚があるならいい加減に自重してほしい。


 どこまで生真面目にイヤらしさを演出すれば気が済むの。

 そのパンツどこで買ったの。

 わたしは三枚で千円のパンツ履いてるけど、そんなのワゴンのどこにも埋まってなかったよ。


「怪我がないなら、いい、です」


「みみっくちゃん……。ありがとう!」


 怪我して保健室に行ったらまたラッキースケベに巻き込まれそうだから早く離れたい。


 もう何も起こってほしくないなあと思って箱を閉じようとした瞬間、唐突な浮遊感に襲われた。


「えっ」


「みみっくちゃんっ」


 なにか知らないけど箱の隙間から見える世界が急に上昇して、焦ったようにこっちに手を伸ばす委員長が一瞬見えた気がした。

 そしてそのままゆっさゆっさと揺さぶられたと思いきや、唐突に箱が地に着く音がした。


 なんだったんだろう。

 こわ。


 恐る恐る箱を開けようと蓋を持ち上げ……持ち上がらないっ。

 なんか押さえつけられてる。

 なにこれコワイ。

 なんか聞こえてきたっ。


「ハァ、ハァ、みみっくたんかわいいよみみっくたん。ハァハァ、ようやく二人きりだよ……」


「ひいいいっ」


 この声は!

 クラスいちの変態、もといミミックマニア、もとい宝箱フリーク。

 箱があれば開けずにはいられない、勇者の末裔、石之神友哉くん。


 なんかハァハァ言ってるっ。

 くんくん嗅いでる気がするっ。


「ハァ……この重み、形、光沢、艶、たまんない……。使い古した木のにほいがする気がする……。中はもっといいニホイなんだろうなああああ……」


 いやっいやああっ。

 すりすりしてるっ。

 なにかが箱にへばりついているっ。


 たすけて、だれか、たしゅけて。


「やめ、やめろ、っさい……」


「はああああ! みみっくたんの声もかあいいよぉ……怯えるみみっくたん、かあいいかあいいクンクンしたい!」


 もうしてるだろーが!

 やめろっ。触るなっ。

 触られてるのは箱なのに気色悪くて鳥肌が立つっ。


 入学初期からこうだったけど、本当になんなの、このひと。


 聞くところによれば、昔の勇者はよそのお家にも無断で侵入して箱だの箪笥だの漁って、路銀やアイテムを稼いでたらしい。

 それ今も昔もただの泥棒だよね。

 シークも真っ青の薄汚いコソ泥っぷりで、よく勇者なんて湛えられてたと思う。


 そのころの名残でこうなるとか言ってたけど、もう病気だよ。

 まだ治してなかったのかよ。

 お願いだから一回入院してきてよ。


「はあああ、みみっくたんみみっくたん。みみっくたんの中身も見たいなあ欲しいなあクンクンしたいなあ……」


「やめっ、……お願い、やめ、やめろ、ください」


「えええええどうしようかなああああはああもうぺろぺろしたいなああああホフウウウウ」


「たしゅけて! たしゅけて! だれか! たしゅけて!! へんたい! へんたい!」


「はああああみみっくたんの飾らない罵倒ありがとうございます!!!!!」


 ますます興奮しだしたあああ。

 こわいよおおお。

 おかあさああああん。

 たすけてえええええ。




 わたしみみっくちゃん。

 クラスメイトはへんたいばっかり。

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