わたしみみっくちゃん
わたしみみっくちゃん。
職能ミミック。
はるか昔、わたしのご先祖様が偉大なる魔神グア・ウトィプさまと永劫回帰の契りを交わし、この職能を得る対価に永久の信仰と服従を誓ったことにより、この肉体と精神が与えらた。
それ以降、我が一族はミミックとして今世に至るまで絶えることなく繁栄し続けてきた。
一見なんの変哲もない箱に身を潜め獲物を待ち構えるわたしたちを、人間は恐れ戦き、時にその鋭い牙の餌食にもなってきた。
のは、まあ、昔の話。
かつて、世界を別ち反目し合った我らが魔神グア・ウトィプさまと綺神トゥィト・イタさまは、幾千年もの間続く大戦の後ともにお眠りあそばされた。
そののち五千年もの時を経て人や魔族、精霊、妖魔、あらゆる生きとし生けるものは、大戦で疲弊し激減した己が身を少しずつ寄り添わせるようにして、共存の道を辿って行った。
そして現在寐歴5624年、いまやすっかり人種、いや生物の闇鍋状態となったこの世界の片隅にある都立人魔太平高等学校に、今年わたしは入学した。
とはいえ腐っても私も魔獣の端くれ、物事は最初が肝心、舐められないようにとみみっくの矜持を常に胸に抱き己を律した結果、クラスメイトには恐れを込めてこう呼ば
「おーい引きこもりー」
……。
恐れを込めて、偉大なる魔神グア・ウトィプさまの崇高なる僕であり忠臣、ミミックさまと呼ばれ
「みみっくちゃん、小倉町君に呼ばれてるよー」
……。
「…………で」
「え? 聞こえないよ声がくぐもってて」
「…………で!」
引きこもりって言わないで! ……ほしい。
べつにひきこもってるんじゃないもん。
わたしみみっくだから。職能みみっくだから。
びびれ。
ちょっとはびびれ人間。
気安く話しかけるな、このヒトが。
ホモ・サピエンスが!
「ごめんやっぱり聞こえない。箱から出てきてよーみみっくちゃーん」
ちっ。
これだから人間は。
溶接された箱の中の音くらい聞き取れるようにあらかじめ補聴器でもつけとけ愚鈍め。
とは言えど今用意するのは難儀なことと思い、慈悲深くも気高い私はちょっとだけ隙間を開けて、外界に聞こえるようにしてやる。
箱の内側から覗き込んだ外の世界は、
――――四方八方から覗き込む目が隙間なくわたしを囲んでいた。
「ひょぇっ」
「ああっみみっくちゃん!閉じないで!こわくないよ!」
「ひょぇっだって。モンスターがひょぇって。しかも超小声」
「みみっくたんかわいいよかわいいよみみっくたんハァハァ」
「ほんとこいつ入学してからずっと引きこもりなー。そのくせ毎日朝一番に席についてるし。それでどうやって登校してんだよ。まさか泊まり? 家なき子なの? 箱入り娘気取ってるくせに家なき子なの?」
「ちょっと男子やめなよー。みみっくちゃんがもっと出てこなくなるでしょー。これ以上引きこもりになったらどうするのよ!」
わたしみみっくちゃん。
お外が怖い。