目的と追跡者
途中で立ち寄った町でメンバーの半数が黒死病にかかってしまう。あえなく始末するはめに。
無事に残りの人数で目的地迄到着し、報告を終え帰ってくると正嗣は領主の兵に捕らえられてしまう。
「悪かったって~ね。機嫌なおして~」
「・・・」
朝から迷惑な話しである。寛貴のアプローチもむなしく拓実の機嫌は斜めなまま。
まぁ、夜の営みを見られたのもそうだがそれがわざととなればなおのことである。
全く口をきいてくれない拓実に対してずっと寛貴は付きまとっているわけだから周りとしても苦笑いしか出来ない。だからといって、口を挟むのも恐ろしいので誰も助け船を出すような人はここにはいない。
「自業自得だ」
正嗣も先ほど一発喰らったばかりなので暫く近づきたくはない。
手加減しているのは分かるのだが息が止まるかと思うほどに強烈だった。
避けることも不可能なくらいの速度の攻撃は実戦なら死を意味するのを重々承知しているだけに、背中が凍る思いがした。
そして、寛貴から語られた真実。それは余りにも酷いものだった。どっちの意味でもだ。
正嗣の麻痺毒は捕獲に使われ拓実の命をも奪うところだったのには謝っても謝り切れなかった。
しかし、その後の村人の全滅は寛貴による人的被害だったのには驚かされた。
そこまで感情を露にしたことなんて無かっただけに予想外の行動だった。
確かに依頼以外で人助けをするような人間ではなかったはずである。
銀治が殺されたのは力が及ばなかったという事だろうが、それ以上に寛貴に人間らしい感情が芽生えたことに驚きを隠せなかった。あんなに言っても誰も信じず、誰も頼ろうとしなかったあいつが。
余りにも残虐な手口にもかかわらず眉1つ動かさず、感情がないように心を寄せることも知らず、付いたあだ名が『死神』となったのであった。
なのに、今はどうだろう?
一人の少年に執着を見せ、傷つけるものには容赦なく威嚇する。
しかし、少年にだけは感情をコロコロと変えて見せる。
まるで年相応の青年らしささえある。
あの落ち着きはらった彼はどこへ行ったのか?
人とは出会いによってこうも変化するものなんだなぁと納得するしかなかった。
しかし、これはあまりに良いこととは思えなかった。
もし、少年が不慮の事故で命を落とした時、どうなってしまうのか?
前の状態に戻るだけ?いや、そうはならないだろうと正嗣は思う。
きっと壊れてしまうだろう。そうなったとき、自分に何が出来るだろうかと、、、
これ以上、弟子を見送りたくはない。
今からでも二人を離してしまえたらと密かに思うしか出来ない自分を情けなく思っていた。
あれから順調に山を抜け海岸沿いの街にたどり着いた。
そこでは黒死病が蔓延していて流石に一泊する訳にはいかなかった。食料の調達だけするとすぐに出た。
しかしその夜、野営地で異変が起きたのは夜半過ぎだった。
1つのテントから悲鳴が聞こえたのである。
「ふざけるなっっっーー」
「やめてくれ、俺はまだっ」
声の方にいくと今まさにテントの中が一気に何かが吹き出したように濡れたのだった。
「こっちにこないでくれっーー」
「うわっーーー」
正嗣と寛貴と拓実の三人はそのテントに近づくと入り口を取り払った。
中には護衛の遺体が転がっていた。そして殺したであろう犯人もいた。
「何があったんだ?」
「・・・」
「黙ってないで説明しろ!」
正嗣は黙っている護衛の襟首を掴むと引きずり出して説明を求めた。
「こいつら、黙ってたんだ」
「何のことだ?」
「さっきの村で感染してたんだ!!」
「なにっ!?」
正嗣は目を疑った。そんなに長くは滞在していなかったし、町の中を食料の調達は寛貴達に任せていたから油断していた。感染が見付かったとなれば悠長にはしていられない。全員を確かめなければならない。
「おい、他のやつを起こしてこい」
「はい」
「すぐに身体検査をする」
正嗣はすぐに指示を出すと全員を集めた。誤魔化すといけないので正嗣と寛貴が全員を確認することになった。
「俺はいいんだろ?」
まだ眠いのか拓実はうとうとしながら寛貴の側で背中に寄りかかっていた。
「いいよ。寝てな」
「おいおい、一応確かめた方が・・・」
「大丈夫。さっき見たから」
正嗣には『さっき見た』の意味を理解した。
それから確認すること全員の中の半数を始末することになった。
もちろん先ほどの男性も感染が認められ始末対象であった。
「なんでこんなことになるんだ❗」
「そいつらはなんで感染してないんだ?」
「そうだ。町のなかにも積極的に行ってたじゃないか。お前らが感染原じゃないのか?」
口々に寛貴と拓実を避難し始めた。身体検査も寛貴はうかたものの拓実は側で背にもたれて寝ていたのを皆が確認している。
「そうだ。しっかりと確かめるべきだ」
「そうだ。そうだ。」
「俺らだけ確認して元凶を見ないのはおかしいだろう?」
正嗣は理解は出来るが寛貴が決して許さないだろう事もわかっていたため頭を悩ませる。
すると横から寛貴が前に出ると拓実の寝ている天幕の入り口を持ち上げた。
「確かめたいならどうぞ?但し、それをやるからには命はないものと考えなね?」
殺気を放つ寛貴に後ずさる男達、その中の一人が意を決して前へ出て来た。天幕を潜ろうとした瞬間に首がコロリッと下に転がった。
「何してやがる!」
恐怖をひきつらせながら男達は騒ぎたてる。
「あれ?言わなかった?命はーないよって」
寛貴は拓実には誰も近づかせるつもりはなかった。
正嗣はこれ以上の被害を防ぐ為にも寛貴と拓実と自分は予防薬を飲んでいることを明かした。
「そんなものどこで手に入れたんだよ。」
「仲間だろ?俺らにも分けるべきだろ?」
口々にする言葉は非難と嫉妬にも聞こえた。
「仕方ない。数が少ない上にまだ稀少価値が高くて入手が困難なんだ。わかってくれ❗次に手にはいったら皆にも回すから、な?」
正嗣の言葉に皆も納得したのか、無理矢理納得した振りをしているだけなのか落ち着いてくれた。
「悪いな。それじゃ少ししたら出発だ。各自戻ってもう少し休んでこい。見張りは俺が替わる」
そういうと正嗣は見張りを替わると薪の側で腰をおろした。
寛貴が近づいて来たのに気付いたが振り返りはしなかった。
「眠れない?ってたまじゃないだろう?」
「そうねぇ~あのままだったら全員殺してたかも?」
「おいおい。やめてくれ。仲間を殺すやつがどこにいる?」
「まぁ~どうでもいいんだよね~」
心のどこかで人間らしくなったと思った認識を改めざるをえなかった。
全く変わってない。いや、一人に固執したことによって余計酷くなっている気さえしてきた。
そのまま、順調に森を抜け目的の街まで到着した。
正嗣は皆を待たせると荷馬車の依頼主のところに向かった。積み荷の受け渡しと残りの代金の受け取りのためだ。この街はまだ平和で、何の混乱も起きていなかった。
その為すぐに街に入れたし、領主との面談も何の支障もなく済んだ。給金を等分に分けるとここで解散となった。しかし、その後である正嗣達数名が捕らわれたのである。
なんでも領主の名で依頼があるというのだ。
もちろん寛貴達はとうに街を離れたためこの事は知らない。
「領主様が御会いになる」
リーダーであった正嗣がいち早く通された。
「荷物の護衛と運送確かに見事だった。期日までに間に合いそうだ。しかし、そたらのなかに黒死病の特効薬を手に入れた者がいると聞く。そなたのことか?」
「いえ、違います。一緒に居た者が持っておりました。」
「ほう。是非とも買いたいのだが今、どこにおるのだ?」
「いえ、わかりかねます。すぐに街を出ていってしまったので、、、一体どこへいくのかも不明ですので」
「そのものを今すぐに連れて来ることは可能か?」
「それは難しいかと、、、」
「なら、好きなだけ報酬は報いよう。探しだして連れてくるのだ」
「それは、、、」
言い終わらないうちに周りを私兵に囲まれ刃物を突きつけられる。
これは依頼ではなく脅迫と言うのではないか?
「そういえば欄という娘をこの前買ったのだがどうかな?やる気になったかの?」
正嗣は顔を上げると一瞬憎しみに歪んだ。最近気があって故意にしている商館の娘である。
この仕事が終わったら足を洗って彼女と暮らす事を約束していたのである。
「すぐにでも取りかかります、但しその娘には手を出さぬよう願います」
苦々しく言うと立ち上がり出ていった。後に残された領主は不適な笑いと共に部下に指示を下す。
「たかが女一人でどうにかなるとはのぅ。お前たち好きにしていいぞぉ」
「はい。」
部下はニヤニヤと嫌らしい笑いと共に下がっていった。
正嗣は早速寛貴達の足取りを追った。
すると早速それらしい二人組の向かった先が知らされた。
昨日抜けた森の奥、もっとも深いところに向かったと言うのだ。
誰もが行きたがらない場所である。一体何があるというのか?
しかし、自分もすぐにでも向かわなくてはならない。
早くしないと彼女がいつまで無事でいるかなど分かったものではないからである。
「よし、分かったお前たちはもう戻れ」
「いや、付いて行きますよ。ここまで来たんだこっちも稼がせて下さい」
「こっから先は危険だ。しかも、相手にするのは多分死神だ」
「だったらなおのこと正嗣さんだけじゃ危ないっすよ」
こと、ここに関して同行を願い出るのはこの街に滞在していたメンバーである。
信頼も置けるし、人間性も安心できる。
しかし、死神相手では余りにも不安が残る者達だった。
「分かった、しかし、前に出るなよ。一応は話し合いで解決出来るものならそうしたい」
「分かりやした」
正嗣は3名の部下を連れて奥へと分けはいっていった。




