護衛と山越え 2
正嗣の消えていった方を眺め暫くぶりに険しい顔つきになった。
一人にしたくないんだよね。
拓実のさらさらした髪を撫でる。気持ち良さそうに眠ってる姿を見ていると心が落ち着いてくる。
ほんとに俺。どうしちゃったんだろう?
こんなに肌を重ねてても心配で仕方がない。
途中で正嗣にも気付いていたが、見せつけるかのように激しく抱いた。
でも、今は後悔している。拓実は気付いてないからいいが、無防備な恥体を晒すべきじゃなかった。
俺だけが知っている乱れた姿を見せるべきじゃなかった。
仕事が終わったら始末しておくか?と本気で悩んだ。
昔仕事で組んで以来なかなか相性が良かった。正嗣は接近戦も得意だが、主に暗殺武器を得意としていた。
まだ駆け出しの頃に色々と手解きを受けたっけ?あのときは自分の命すら欲しくなかったから結構な無茶をして怒られた気がする。
でも、今は守りたいものができた。その為ならなんでもやる覚悟が出来た。
誰にも文句は言わせない。
正嗣は死神に忠告をしに宿屋を探していた。
「どこに泊まってやがるんだ?」
自分達のような人間が泊まる宿は大体決まっていた。しかし、今日に限ってどこにもいなかった。
「まさか、、、普通のとこに泊まってんじゃないだろうな?」
チッ。
舌打ちをすると他の宿を当たることにした。このような仕事をしている以上、一般どの宿屋は危険でしかないのだ。どこで誰に聞かれているかも分かったもんじゃないからだ。正し、清潔感で言えば一般宿のが綺麗ではある。そういえば一人ガキを連れてたな・・・そいつの為か?
らしくない、どこで拾って来たんだか。まさか、、、買ったなんてことはないよな?
最近では娼婦と言えば女が一般的ではあるが子供を孕ますと厄介だからと戦場に連れていくのに男の娼夫を買う人が増えてきている。見映えさえよければ女より案配がいいよ言ってたヤツも居たな。
まさかあいつもその口か?正嗣には信じられなかった。同じ男のどこがいいんだか。
せっかく娼婦を買うなら女に限ると思っているので男にはまるヤツの気がしれねぇと思っていた。
「んっ・・あっ・・・」
「どうして欲しいか言ってごらん?」
下の部屋から漏れる声を聞きながらうんざりした。
ここもかよ。早く探さねぇーと。と思い動こうとしたとき以外な名前が耳に飛び込んできた。
「いやっ・・寛貴っ・・・あっ・・・そこっ」
「ちゃんと言わないと~ほら言ってごらん」
正嗣は真っ青になった。あいつ完全にはまってんじゃねーか!
くそっ、仕事前だってのにふざけやがって。ちょっと説教でもしてやるか。
下の板をずらして下を覗くと初めて見る光景が広がっていた。
正嗣にとっては男同士の交わりは見たことがなかった。見たいとも思わなかったし、ましてや身内の内情を見るつもりもなかったのだが、板を開けた瞬間、一瞬寛貴と目があった。そんな気がした、いや、確かにヤツは気付いている。気付いているわざと煽っている。少年の方は全く気付きもしない。最初見た時は綺麗な子だとは思ったが余りにも体つきは細くて弱々しく見えた。しかし、体のラインは引き締まっていて細い割に無駄な脂肪はなくしなやかな体のつきは見惚れるものがあった。肌は白く寛貴が付けたであろう赤いうっ血が各所に見受けられた。正嗣が正気に戻ったのは寛貴の見下すような微笑みを見たからだった。見せつけやがってーっと思う反面、あの少年に触れてみたいという衝動に駈られていたのに気付かされ、なんとも気まずい雰囲気のなか下では激しさを増すその行為に興奮している自分自身に情けなさを感じた。
終わったのを見計らい下へ降りた。
朝、集合場所に向かった俺の前に正嗣が睨みながら立っていた。
「やっぱり連れてくのか?忠告はちゃんとしたからな!」
「分かってるよ」
返事もそこそこに拓実の手を引くと荷馬車の方に向かった。
「この荷馬車から離れるなよ。後は俺たちが何とかするから戦闘には極力参加しなくていい。まぁ、拓実が闘う必要なんてないようにするから」
「俺も、戦える。弱くねーよ」
「怪我でもしたら俺が痛いから。分かった?」
「うん。」
「いい子だ」
頭を撫でるとくすぐったそうにするしぐさはなんとも可愛らしい。見ている周りが甘い雰囲気に包まれる。
ってこいつらは何やっとんじゃーっという突っ込みをしたいが出来ない正嗣がそこにはいた。
他の護衛からも完全に寛貴の娼夫と認定された拓実はいくらで買われたのかとか夜が寂しくなったら来いとかの誘いを受けていた。そんな誘いに嫌気が差していた。
「俺、娼夫じゃねーし。買われてねーもん。」
「あんなに寛貴がべたべたしてたらそう思われるぞ」
正嗣は横を歩きながら答えた。流石に正嗣が横にいるときと寛貴がいるときはくどいぐらいの閨のお誘いは来なかった。しかし、正嗣からしてみれば昨日の行為が頭から離れないためどうしても首筋やうなじに目がいってしまう。それどころか話しているとぷっくりとしている唇の柔らかそうなってーーーヤバイ、ヤバイ。完全に変態じゃないか?ふるふると頭を振って邪念を降り飛ばす。そんな二人を寛貴は冷めた目で見つめていた。
ちょうど日も暮れて野営の準備にかかっている頃、拓実を探すと鳥たちが肩に止まってそれを当たり前のように戯れていた。いつみても自然そのものの姿が写し出されたかのような光景だった。
「なんか、意外だな。」
「なんで?」
正嗣は隣に来ると拓実の姿に目を見張っていた。
「野生の動物はもっと警戒心が強いんだが、あいつには全く警戒をしやがらねぇ。ほんとに人だよな?
「さぁ、どうだか?俺にとっては天使?かな」
「ふざけてろ」
あまりの寛貴ならぬ発言に正嗣は目を疑ったが、すぐにあきれたように作業に戻った。
暫くすると拓実が慌ててかけてくるのが見えた。
「誰か来る。結構な人数だって。」
いきなり言われた言葉に各々が笑って返した。
「拓実君、そんなに心配なら守ってあげるからテント行こうか?」
「いや、お前より俺のが優しくするぞ」
「ちげいねぃ、はははー」
誰もまともに取り上げない。寛貴は正嗣に目で合図を送ると周りを警戒することにした。
「信じていいんだな?」
「うん。間違いない。拓実は嘘をつかない。」
「それにしたって、いきなり突拍子も無いことをいうなぁ」
「そうでもないよ。・・・しっ。」
茂みの奥に何かがいる。気配を隠してはいるが明かに何人か潜んでいるのが分かった。
「マジかよ」
正嗣は内心恐れを感じた。昨日の無防備な姿に惑わされると危険だと、人の皮を被った何かではないのかと。寛貴はちゃんと手綱を握れているのかと疑いたくなった。今はそれどころではないのでまずは目の前に集中することに同意した。笛を吹いて仲間に敵襲を知らせると共に一気に敵との距離を詰めた。正嗣も同じように同時に動いていた。
「うーん。やっぱり動きやすいなぁ」
ドカッ。 バキッ。 ボキッ。
うわっ。 ぎゃー。
「よし。こんなもんかな?そっちは終わった?」
「こっちも完了だ。一人も荷馬車の方には行かせてないぜ」
馬車へ戻ると護衛が何人も負傷していた。
「しまった。」
慌てて周りを見回すと荷馬車の裏から血を浴びた拓実の姿があった。
すぐに近寄ると寛貴を認識したのかぎゅっと抱きついてきた。
「怪我はないか?どこか痛いところは?」
「大げさすぎ。どこも怪我してねーよ。これは・・・そいつらの」
裏を指差すとそこには何人かの襲撃者の死体が転がっていた。
これを一人で?正嗣は拓実という少年を侮っていた自分に恥じた。
寛貴はというと血で汚れたのを手拭いで拭き取っていた。
まだ幼く見える瞳には明かに暗殺者特有の色が見え隠れしていた。
護衛は誰一人死ぬことはなかったが無傷ということはなかった。そして拓実への反応も変わっていた。
あの時、他の護衛に囲まれていた拓実は、誰よりいち早く襲撃者に気づいた。他の護衛が気づいたのは襲われて、それを拓実がそこにあった短剣で切り伏せた時であった。余りにも無感情に、鮮やかに飛ぶ鮮血に美しささえ感じた。しかし、それどころではないことに慌てることなく対応したのだが、このざまである。
拓実がいなかったらどうなっていたことか。しかし、今までのように軽口を叩く気にはなれなかった。
余りにも無惨に殺していく拓実の姿は修羅か羅刹のようであったと皆口々に語った。
二日目の野営時に正嗣は拓実模擬戦闘を申し込んだ。
「なんで?」
「訓練だと思ってくれればいい。寛貴ともよくやっていたんだ」
「寛貴もやったの?」
苦笑いと共に過去を思い出しながら答えた。
「俺は正嗣から色々と学んだからなぁ~生きてくすべとか。それと共に戦闘訓練も受けたんだよ」
「ふ~ん。でもなんで俺が戦わなきゃいけねーんだよ。敵じゃないのに?」
「あぁーなんだ。いい運動だと思えばいいんじゃないか?嫌か?それとも負けるのが怖いか?」
「なっ。後悔しても知らねーからなっ」
こうして皆の観衆のなか模擬線をやることになった。審判はもちろん俺が勤める。
不正なんかさせないためだ。まぁ、そんなことする前に終わると思うが。
「ボウズ、獲物はなんにする?」
「いらない」
「いいのか?」
正嗣は俺に聞いてくるが拓実がそれでいいならいいんじゃないか?という事で素手と鎖分銅を構える正嗣の姿があった。
「じゃぁ。お腹も空いたので、さっさと始め?」
「しまらねー言い方するなよ」
正嗣は突っ込むと前を向き直った。その時にはもう目の前まで距離を詰めていた。
「速いなボウズ。だがな、それだけじゃダメだぜ」
分銅を振り回すと拓実をとらえようとするも身軽な拓実には避けるのにさほど苦労はなかった。
ギリギリ交わされていく攻防を見ていた見学者は二度と迂闊な事は言うまいと心に誓ったのだった。
正嗣は裏の仕事をする上で必ずといっていい程の、知らない人はいないほどの凄腕だった。誰もがその強さに尊敬していた。そんな彼に唯一歯向かうのが彼の弟子みたいな存在の死神だったのである。その死神の連れの美しい少年はとんでもなく強いことが発覚したもんだから死神の娼夫から死神が余りにも甘やかしているように見えるので逆らえないのではないかとか色々と話が絶えないのだ。そこで正嗣は少年の実力を知ろうと模擬線を申し込んだのだ。本気で戦えるのは久々なので少し浮きだっていたのは認めざるを得ないかも知れない。しかし、やってみれば全くこっちの攻撃は当たらないは、拓実は避けるばかりで隙があっても攻撃らしい攻撃をしてこない。それどころか避けているといっても、かなりの運動量にもかかわらず全く息を乱していない。これは遊ばれているとしか思えなかった。




