一匹の猫又
ある日一匹の猫又が誕生した。そして、それは運命的な出会いを彼にさせるのである
病気で床にふせっていた老婆が庭に向かって手を伸ばした。
「ごめんね、ご飯用意できなくて。」
今さっきまで誰もいなかった庭には黒い猫がたたずんでいた。
静かにそっと老婆を見つめると近くに寄ってきて丸まった。まるで別れを惜しむように、、、
「居てくれるのかい?ありがとう」
老婆はそっと猫の背を撫でるとゆっくりと瞼を閉じた。そして二度と開くことはなかった。
だんだんと体温も無くなり温もりが消えたころ。
「にゃ~」
と、一鳴きすると立ち上がってその場を離れていった。
いつもはおばあちゃんが撫でてくれて、餌をくれた。いつも一緒に縁側で日向ぼっこをして過ごしていた。いつからか体調を崩して寝たきりになってしまった。
それでも自分が来ると元気そうに起きて餌をくれた。
ついさっき、息を引き取った。
大分前から分かっていた。死期が近いことを。
それでも近くに居たくて、人の温もりが欲しくて通っていたのだ。
しかし、もう行く理由も無くなってしまった。
どうしようかと街をさ迷った。
お腹が空いた~。食べるものを漁れば何とか飢えを凌げるのだが、何だかつまらなくなってしまった。
と、言ってても仕方がないので暫くは料理屋の裏でゴミを出すのを待った。
何回かやっているとさすがに追っかけられるのでたまに店を変える。
生まれてから10年にはなろうというとき体がやけに軽くなった気がした。
なんか動きやすい。尻尾をフリフリと上機嫌に揺らしながら塀の上を歩いていた。
今日は豪勢に金持の屋敷に忍び込んで見るかな~と気軽に考えていたら人間にひょいっとひっつかまれてしまった。
「にゃ!!」
これはしまった。っと思い暴れようと体を捩り爪を突き出す。
「ちょっと、止めなさいよ。同類よ私」
「!?」
「まぁ。ウチに来なさい、ご飯用意するから」
「にゃ~」
「あんた喋れないの?」
当たり前のように聞いてきて、『呆れた❗』と付け加えられた。
グラマーな女性はミケと言うらしい。元は猫なのだが、力を付け猫又になったそうだ。
何と猫又になると人間の言葉が話せるようになるんだとか。
それだけじゃない❗人の姿にもなれると言うのだ。
ご飯が簡単に食べられるチャンスである。
すると自分の尻尾も先端だけど2本有るように見える。
「あんた、簡単に考えている用だけど人間には人間のルールが有るんだからね」
「にゃ~」
「まずは人に化ける練習からね。先輩として一人前になるまでは面倒見てあげるわ」
「にゃ~」
それからは色々と人間の知識と変化を自由自在に出来るように練習した。
まずはイメージして、それから腹に力を集中して、、、ポンッ。
「どうだ❗」
「うーん。50点ってとこかしら?」
「えーなんでだよ~」
これはなにかしら?
尻尾をぎゅっとにげられると力が抜けて動けなくなってその場に崩れ落ちた。
「人間にはこれも、これもないのよ」
尻尾と耳を指摘された。頭の上にはピョコンとかわいい獣耳がたっていた。
それから餌の取り方である。普通の食べ物も食べれるのだが月に一度は人間の生気を食べていないと体の維持が出来ないとか。
人間を食べると言うのではなくただ単に交われば自ずと生気が体に取り込まれるのだ。
特に性に貪欲な男をカモにするのが一番の手っ取り早いと。
「誰でもいいのか?」
「相性も有るわよ。なんかいい匂いがしてくるからわかるわよ」
「そっかぁ」
「そろそろあんたも狩りをしないといけない頃合いだし、変化もだいぶ上手くなったしね。でも、油断するんじゃないわよ。化け物だと思われたら殺されるかもしれないんだからね」
「わーってるよ」
「あんたが捕まれば他の猫又にも被害が行くんだから気をつけてよ」
「お節介ばあぁ」
ボソッと囁くとそれを危機逃さなかったミケにげんこつを貰う羽目になった。
その夜街を徘徊しながら獲物を探した。凄く渇くような感覚に戸惑いながらも探した。
すると一人の人間とすれ違った瞬間に物凄く美味しそうな匂いに感じられた。
「旨そう、、、」じゅるりっ。
これだ!! と思い陰に隠れると集中。集中。ポンッ。
それは真っ白なワンピースを身にまとった可憐な少女。
黒い艶のある流れるような長い髪に丸っ子い大きな瞳。
細くスレンダーな体つき。
年で言えば16才位に見える見た目。
ちょっと、若くはあるが目を引く整った顔立ちは美少女といっても過言ではない。
「耳も隠した、尻尾も付いてない。よしっ」
確認を終えると早速後を追う。
キョロキョロと周りを探していると美味しそうな人間を発見した。
急ぎ足で追い付こうとすると前に人が出てきたのに気付けずぶつかってしまった。
「わぁっ!!」
「おっと、大丈夫?」
ぶつかった拍子に尻餅を付いて転がった。
するとぶつかった方は平然と突っ立っていて。なんか悔しい。
それから転んだ俺に手を差し出して来たものだから無視して立ち上がった。
そう、俺には今日はちゃんとした使命があるのだ。
ご飯はどこだろう?と探すが見当たらない。
慌てて、さっきまで目で追ってたところに行ったのだが見つからなかった。
がっくりして項垂れてると、さっきぶつかった男が近づいてきた。
「ねぇ、何か探してる?手伝おうか?」
「いい。もう遅いから、、、」
ぎゅるるるーっとお腹が盛大に鳴ってしまった。
すると男はクスッと笑いだした。
お前のせいで飯にありつけなかったじゃねーか。くそっ。
心のなかで悪態を付きつつ男を睨み付ける。
「ごめん、あんまり真剣そうだったから」
腹を押さえて笑うのでもう恥ずかしくて立ち去ろうと歩き出す。
「待って。ご飯奢るよ。こんなに笑ったの久しぶりだったし」
「いらない」
俺は無視して歩き出すが、いつまでたっても後ろから付いてきて帰る気がない。
「いい加減にしてくれ」
「いいじゃん。ね?少しだけ付き合ってよ」
「嫌だ」
巻いてしまおうと急いで角を曲がると走りだし、塀を軽々とジャンプして振り切った。
もう、後ろには男はいない。走ったことで余計お腹が空いてきた。
キョロキョロと物色を始めること30分位。また美味しそうな匂いに。さっきの人間ほどじゃないけど・・・背にはらは変えられない。アタックあるのみ。
そして獲物の前に躍り出た。すると男はこちらに気付くと自分から近づいてきた。
「君、一人?家は?」
「帰るところが無いんです。一晩でいいので泊めてもらえませんか?」
上目使いに見上げてみる。これが結構効果的だとミケが言っていた。
男は生唾を飲み込むと俺の肩を抱き寄せようとしたが、かなわなかった。
「いででででっっー何しやがるんだ?」
「悪いね。この子先約済みなもんで」
「え?」
振り向くとさっきのぶつかったひょろっとした男が立っていた。
「男が居るなら誘うんじゃねーよ」
力でかなわないと思うと捨て台詞をはいて立ち去ってしまった。
「なっ・・・何すんだよ。邪魔してんじゃねーよ」
「だってどんな人間かもわからないのについていっちゃだめでしょ」
「~~~」
「ほら、女の子なんだし。自分を大切にしなきゃ」
「どうしてくれるんだよ。せっかくの飯だったのに~」
涙目で訴えると、その場に座り込んだ。お腹も空いた、そして獲物も逃がした。
最悪の一日だった。
「ご飯?人間を食べるつもりだったの?」
「!!」
そこで、はっと気がついた。ヤバイと。
この事がばれると駆除の対象にされてしまうので気を付けるように言われてたんだっけ?
「なっ、何かの聞き違いだろ?」
「指位なら食べてもいいよ。」
「えっ、あっ、はぁ?」
「だから、俺のせいで食べ損ねちゃったんだよね?ほら!」
言うと指を口の前に突き出した。
クンクンといい匂いが漂ってくる。さっきまではそんなにわからなかったがこれはこれで有りかも。
「じゃー食わせてくれよ」
男の家に転がり込むとキスを交わした。唾液が尾を引くのも苦にもせず性急に体を求めた。
「食べるって言ってたから指を無くす覚悟、したんだけど?」
「誰がそんなもん食べるって言ったんだよ。生気を貰うだけだよ」
「そんなことならお安いご用意なのに」
「なら、いっぱい満たしてくれよ」
それ以上はお互い言葉は要らなかった。男にとっては久しぶりの人肌だった。いや、人ではないか。
なぜか離しがたい気がしてならなかった。
過去に大事な人を無くして以来の満足感であった。
面影が似ている。そんな気がして後を追いかけたのだった。
一度は巻かれてしまったけど、どうしても諦めきれずに探して、見つけた時は横に変な男がいたので力ずくで追い払った。そして今は俺の腕の中。
いっそこのまま閉じ込めてしまおうか?
まずは本人に確認して出てくと言うなら縛ってでも閉じ込めてしまおうと不適な事を企んでいた。
初めて人間と繋がってみて感じたのは気持ち良さと美味しい生気である。体に自然と入っていく感じが何ともいえず心地良かった。ミケには余り吸いすぎるとそれ以来立たなくなるから加減して吸えと言われてたっけ?でも、もう少し、あと少しだけ。
けっぷっ。うん。満足かも、、、
お互いに満たされると布団に転がった。
男は俺の頭を撫でると体ごと抱き締める。温かい。ばあちゃんに抱かれてるみたいだ。
気持ち良くて顔を埋めると腕を回して密着するとゆっくりと瞼を閉じた。
朝の日差しを浴びて体の倦怠感と心地よい温もりに浸っているとコーヒーをもって近づいてくる気配に気付いた。そう言えばまだ、ここは男の部屋だった。
慌てて起きると服を着て出ていこうとする。
すると後ろから声がかかる。
「コーヒーとミルクどっちがいい?」
「ミルク」
とっさに答えてしまった事に慌てていると、男は嬉しそうにミルクを差し出した。
「ねぇ、ここにずっといない?」
願ってもない申し出だった。
「いいのか?」
だって、そうだろう。猫又は生気を吸ってしまう生き物なのだ。
ずっと一緒にいればいつかは枯れてしまう。
「一緒にいて大丈夫なのか?」
「まだ、お腹減ってる?まだやる?」
「いや。美味しかった。ってどんだけだよ!」
「寛貴って呼んで。これから宜しくね」
「おう。あ、俺は名前なんて、、、」
「じゃぁ、つけてあげる。拓実なんてどう?」
「たくみ?うん。悪くないな、今日から拓実な」
そして、一人と一匹の生活が始まろうとしていた。
しかし、その時時間切れでポンッっという音と共に猫の姿に戻ってしまった。
「げっ!!」
見られた❗慌てて窓を開けるとすぐに飛び出した。




