1-4.メールでチャンス
次の日。つまり3月の26日。
朝起きて、母さんの作るご飯をみんなで食べる。父さんは朝早いらしく、今日は食卓にいない。妹と僕と母。
唯一会話のできる女性、2人。
「今日は何してるの?」
母さんは毎朝僕らの予定を確認する。
「私はみーちゃんとカラオケ行くよ」
3つ違いの中学生の妹は気楽で良いものだ。
「もしかしたら出かけるかも」
僕は焼き魚をほぐしながら話す。
もしかしたら出かける、は大体出かけない、
僕はクラスで毎日会話をする友達はいるけれど、休日に遊ぶということはあまりしない。
ひとつは、周りの友達も自分と似たような性格故に、休日は引きこもりがちなのである。
ふたつは、私服を見られるのが嫌だからだ。中学生の時、僕はクラスメートに私服をバカにされ、それがトラウマなのだ。
妹は僕と違って明るい。
何故か競うように、僕は出かける可能性があるように答える。
ーやっほー。今日暇?昨日の続きしよー
朝食を終え、部屋に戻ると、メールが来ている。昨日の天使だった。
やはり夢では無かったのだ。
ー今日は用事があるから、ごめんー
僕はメールを返してみる。
女子のアドレスなんて知らない。はじめての女子へのメールだ。
断りのメールを送った後に、何故か後悔する。
ーーー昨日の話が本当なら?
僕はたった一通のメールでチャンスを逃すのだろうか?
またしてもメールが来た。
ーいま、メール送らなきゃ良かったって思ったでしょ?こういう、やり直しもラブアシストで出来るんだよ?悪い話じゃないと思うけど。ー
僕はあの天使に心を見抜かれているような気がした。
ー私が欲しいのはラブアシストを受けます、って同意なの。同意さえ貰えれば私も頑張るから。ー
僕はメールを返す。
ーもう一回、タイムリープを見せてよー
ーだったら早く加津代食堂に来なさいよー
また、加津代食堂か。
僕は着替える。
今日の私服は二番目にカッコいいと思うやつだ。