4-3.地獄絵図
場所を移して、加津代食堂にいる。
久しぶりに入るその食堂には、やはり店主の加津代さんはいない。
テーブルを挟んで向かい合う。
雨が降ってきて、喋らない間はざぁざぁと外の音が聞こえた。
「親睦会は、スポーチョってところでやるみたい」
スポーチョとは、ミニゲーム程度のスポーツが色々出来る複合施設だ。僕は行ったことがないが、テレビコマーシャルでよく見る。
「そこでチーム戦で様々なスポーツをやるみたいなの。勝利チームはなんと、皆んなで持ち寄ったプレゼントを総取りできるみたい!」
七星は目を輝かせている。
「た、楽しそうだね」
僕は同調してみるが、運動神経など無い。正直地獄絵図だ。やはり参加は控えたい。
「私とアンタはミーコが空気を読んで同じチームにしてくれるみたいよ。そこで適当にいざこざを起こすのさ」
「なるほど」
「それで、喧嘩別れ」
なるほど。
付き合って早々、喧嘩別れのシナリオか。
後ろめたさはあったけど、いざと言うと正直切ない。
切ない、という感情を僕ははじめて知った。
飼っていた小動物が死んでしまうものとは全然違うのだ。
「私が最低を演じるから、アンタから別れようって言ってね」
いや、ダメだ。
「それは出来ない。僕が最低を演じるから、七星から別れを切り出してほしい」
僕が嫌われるべきだ。
七星にそれをやらせる事は出来ない。
なんなら、別れたくない。
「私がやらないと。アンタの印象が下がる。高嶺さんもいるんだよ?」
「そ、それは譲れない」
「だいたいさ、アンタに悪人みたいな事出来るわけ?」
「そ、それは分からない。でも、ここまでやってもらって、七星に迷惑をかけたくない」
「分からず屋ね。アンタ」
「それでいいよ」
しばらくの沈黙。
「親睦会は6月20日。それまでに色々練習しないと。アンタ、見るからに運動神経無いでしょ?演技と運動の練習するわよ」
「わ、分かったよ」
いつの間にか僕の参加は決定していた。
そうか、今日は6月の1日。
七星との仮のお付き合いも3週間を切っているのか。
やはり、切ない。