1-4.天使の梯子
校門を抜け、駐輪場に自転車を置く。
後ろから七星が僕の名前を呼ぶ。
僕は七星に話しかける。
「おはよう」
「おはよー」
七星が僕の右腕を、両腕で掴む。
このまま教室まで歩き、熱々カップルをアピールする作戦だ!
僕の頭の中は真っ白だった。
七星のおっぱいが9割、恥ずかしさが1割だ。
僕はいま、冴えない僕は、今まで彼女なんて出来たことのない僕が、今、可愛い女の子と接触しながら歩き、おっぱいが当たっていて、学校中の皆に見られながら歩いている。
このまま、雲の切れ間の太陽の光、、、あれは天使の梯子という現象らしいが、僕はそのままそこへ向かって昇天するのではないだろうか。
教室に入る。
盛り上がっていたクラスがしーんとなる。
クラスメート達の理解も追いつかない。突如クラスナンバーワンの高嶺さんに告白し、フラれた僕が、クラスナンバーツーの七星とイチャつきながら登校しているのだ。
僕は皆の視線に爆発しそうなほど恥ずかしかった。
ひそひそ話しのような会話が聞こえてくる。
(おい、あれどうなってんだよ!?)
(あいつ、なんなんだよ!?)
(すげー!!!!!)
さっそくトウマが話しかけてくる。
「え?え?お前ら、、、、?」
僕はもぞもぞして答えられない。
「付き合ってるけど!?」
七星が大声で言う。
クラスは一瞬の静けさの後、大爆発。
プリントの溜まった自席に戻る。
「なになに、この前の告白ってそういう事なの?」
前の席の八巻さんが話しかけて来た。
すかさず七星が八巻さんに話しかける。
「そうなんだよねぇ〜」
新妻のようなテンション。私たち、結婚しましたー!のような話し方だ。
「そうなんだ」
ーーーえ?
ーーー八巻さん?
ーーーいま、なんだか、悲しそうな顔、しませんでした?
左肩を押される。
茂木だ。
「お前も隅に置けないな」
茂木は見たことの無い表情をしている。
察するに、同類だと思っていた僕に彼女が出来たことで内心イライラしているのだろう。
いや、茂木だけじゃないはずだ。
僕みたいな人間が可愛い女の子と付き合っているというのは、クラスの男子の恨みを買う事になりそうだ。
「へぇ〜、お前やるじゃん」
目の前に現れたのは、僕の嫌いなイケイケグループのチャラい奴。魚住だ。
昨年も同じクラスだったが、接点はない。ただ、容姿は良いが、性格は良くないイメージがある。
「七星ちゃん、こんな奴のどこがいいわけ?」
魚住は七星に向かって尋ねる。