3-4.計算
八巻さんはハンバーガーのセットに加え、さらにチョコパイを頼んでいた。
失礼ながら、見た目通り食べる女の子だなぁと思う僕だった。僕は普通のセットを頼む。
お昼過ぎだったが、店内は混んでいた。
僕と八巻さんは店の二階の窓際の椅子に並んで座る。
二階の窓から見える景色は、なんて事ない道路だった。
放課後に女子と二人でハンバーガーショップ。なんて素敵な風景なんだ!僕は間違いなく、僕の人生で主人公だ!
八巻さんは僕に色んな質問をしてきた。
ーーーどこ中学校なの?
ーーー去年は何クラスなの?
ーーー文系、理系どっちいくの?
ーーー茂木くんと仲が良いんだね。
ポテトをつまみながら、緩やかな時間は過ぎる。僕は、僕の事を聞かれて答えるのが精一杯だ。
八巻さんの事が全然分からない。
僕は他人に興味が無いわけではないが、他人のどこまでを聞けばいいのかの距離感が掴めない。
例えば、父親の話をして、もし相手が母子家庭だったらどうしよう、などと考えるのだ。
そんなことはどうでもよくて、僕はずっと水色のパンツの事や八巻さんが僕を好きなんじゃないかとか、そんな考えがぐるぐる回っていた。
その時。
「好きな人とかいるの?」
八巻さんが質問してくる。
こ、これは!?
どういう意図なのだ!?
僕は何故かウソをつく。
「い、いないよ、八巻さんは?」
「私はいるよー」
「えっ!?誰!?」
「教えるわけないじゃん」
八巻さんはチョコパイを食べ始めた。
サクサクと衣がトレイに落ちていく。
緩やかに時間が流れ、僕は何も聞けないまま店を出た。
何かあるのかと30通りぐらいの展開と受け答えなどを考えていたが、なに1つその通りのことは起きなかった。
「今日はありがとう。また明日ね」
八巻さんは自転車に乗る。
「あ、ありがとう!あのさ、八巻さん」
正直に言わなければ。
「ご、ごめん、さっきさ、実はその、見ちゃったんだ。最低だよね。ごめん」
僕は八巻さんに懺悔した。
おパンツを見て、ごめんなさい、と。
「わざとだよ」
八巻さんはそのまま自転車を漕ぎ、僕の知らない街の方へと消えた。
七星は天使。恋をしてはならない。
高嶺さんは、全然接点がない。
その点、八巻さんはどうだろう。
いま、1番僕に近い女子だ!
そういった、計算の中で、僕の気になる人はもうひとり増えた。