1-3.高嶺さん
「新しいクラスのメンバーをランダムに選んで、天使の祝福を与え、実験をする。それが誰に、どのように影響するのか、それを確かめたい。こうして、ラブアシストの案ができました」
「ま、待ってよ!ラブアシストは、政府が打ち出した少子化だとか、未婚率だとか、そんなものの対策の制度じゃなかったの!?」
「理由なんて、あとからいくらでも、付いてくるんです」
「だ、だって!政府だよ!政府!国家の機関が、高嶺さんの一声で、こんな実験、やるとは思えないよ!」
「先程の説明通りです。天使は高嶺家には逆らえないし、国家は天使には逆らえません」
「し、信じられないよ」
「貴方なら信じて貰えると思いましたが、疑り深いのですね」
「だ、だって、そうじゃないんだ、高嶺さんが、僕らを実験に使ったって事が、信じられないんだ」
「・・・」
「僕の推測かもしれないけど、誰かの記憶を消したり、改竄する力も天使にはあるみたいだし、現にそれを使ったんじゃないの?そうだとしたら、絶対におかしいし、ぼ、僕にはそれが信じられないんだ」
「信じられない?」
「だってそれは、とっても恐ろしいことじゃないか」
「恐ろしい?」
「記憶が変わったり、〝本来の人生〟が変わってるとも捉えられるんだ」
「・・・貴方は、ラブアシストを通して、この1年間、どうでしたか?」
「えっ・・・それは・・・僕は、この制度が無ければ、多分1年目と変わらない人生を過ごしていたと思う。茂木とクラスの端っこでカードゲームをして、放課後もカードショップとかゲームセンターに行って、家に帰ったら、ベッドで寝転びながら恋愛ゲームをしてた」
「それが変わりましたよね?私にアドレスを聞き、告白し、七星さんとお付き合いをし、いや、お付き合いのフリですか?後は今日に至るまで、貴方は活動的な一年を過ごされた」
「た、高嶺さん・・・そうやって、僕の活動がどうだとか、そうやって、評価するのも違和感があるんだ。これが政府の実験ならまだしも、同い年の高嶺さんが、僕らをかき回して、いや、かき乱して、傍観するような、そんな感覚がまず嫌なんだ。それに・・・今わかったよ。ラブアシストで僕がたどり着いたのは・・・」
「たどり着いたのは?」
「結局、偽者の高嶺さんに、偽者の人生を歩んだ偽者の僕が、恋愛した気になって、告白して、それだけなんだ」