3-2.カッコいいと思うやつ
1月2日。
僕はあまり眠れなかった。
「出掛けるからお風呂はいる」
母さんにそう伝えると、母さんは目をキョトンとさせて驚いた。
「朝からお風呂なんて、頭おかしくなったの?」
「で、出掛けるから、風呂入って、髪を洗うんだ!」
「んまぁ!!!」
マーベラス!という表情をする母。
僕は昨日の残り湯を追い焚きしながら、シャワーを浴びて髪を洗う。
鏡と向き合う。
いつも冴えないこの顔が、いつのまにかちょっとだけ、
ちょっとだけだけど、格好良く見えた。
だって、銀河一可愛い女子とおデート出来る僕だぞ。
髪を洗い、体をなぜかご丁寧に洗い、体を流し、まだ温いままの湯船に浸かる。
顔の半分を水面下に入れて、ぶくぶくぶくと口から空気を送る。
高嶺さんは今日、どんな気持ちでいるんだろう。
どうして僕を誘ってくれたんだろう。
僕がクリスマスデートに誘って、断りを入れたから、その代わりなのだろうか。
それとも僕がクリスマスデートに誘って、もしかしたら告白されるから、でも旅行があるから断ったけど、自分から誘ったのかな。だとしたら高嶺さんは告白を受け入れてくれるのだろうか?
そんな妄想を巡らせながら、僕は髪を乾かし、控えめの整髪剤で身嗜みを整え、服を着る。
今日の服は、一番カッコいいと思うやつだ。
僕は家を出る。
予定より少し早く、家を出た。
僕たちの住む地域の1番近い神社にお参りに行く約束をしている。
僕はずっとずっと、ドキドキしながら、歩き出した。
そうか、
この感覚は、七星や加代子さんからは得られない。
本当の恋って、そういうものなのかもしれない。
一駅分、電車に乗り、歩くと、神社付近から混雑していた。こんな人混みの中から高嶺さんを見つけられるのだろうか。
僕は不安になる。
しかし、少し早めに到着したというのに、既に高嶺さんは来ていた。
そう、この人混みの中に於いても、光を輝き放つその女性を見逃すわけが無かった。
僕は手を振る。
高嶺さんが微笑む。