2-7.ディス
時間が巻き戻る。
僕と七星は807号室に戻った。
ちょうど、僕が入れた一曲の最後のサビが流れていた。
僕と七星の記憶だけが引き継がれ、世の中の事象は巻き戻されるのだ。僕の尿意も戻るが、ここは我慢だ。
曲が終わり、七星がおもむろにマイクを持って語り出す。
マイクパフォーマンスのようだ。
「なんでタイムリープしたのよ?」
スピーカーから響く、七星の声。
「と、トウマたちとカラオケなんて、無理だよ。。。君には分からないだろうけど」
「え!?なに!?聞こえない!」
僕もマイクを握る。
さながらラッパー同士のディスバトルのように、マイクを握りしめ、対面する。
「き、君には分からないよ!」
「何が!」
「僕は君が言う通りのいくじなしなんだ!トウマみたいなイケイケグループの集まりでカラオケなんて出来ない!」
「ふーん」
意外にも呆気ない返事に僕は戸惑う。
「とりあえず、端末の操作の仕方を教えてよね」
ーーー七星はよく分からない歌を歌っていた。僕も分からない曲だ。
それにしてもマズい。
クラスのイケイケグループが何人もいるのかもしれない。
店を出るのが危険な状況だ。
七星が歌い終わると、僕の心配を読み取ったかのように、語り出した。
「結局、店出る時に鉢合わせしちゃうんじゃないの?」
「うまくバレないように出るよ」
「ねぇ」
その後の言葉が僕に刺さる。
ーーービクビクしながら生きるの、辛くない?
そりゃあ、辛いさ。
でも、君には分からない辛さが、僕にはある。
僕が歩んで来た人生を君は知らない。
もう、2、3曲歌って店を出た。
彼らに会うことはなかった。