2-2.忘れない方法
帰り道の途中、僕と七星はカフェにいた。
最近出来た店で内装がオシャレで、人がいっぱいいたが、なんとかカウンター席に座る事が出来た。隣同士、なんだかカップルみたいだなと、僕は未だにそんな事を意識している。
僕は七星と話したい事が沢山あった。
「なっ、七星」
「なに?」
七星はブラックコーヒーを啜り、露骨に苦い顔をしている。
「その、皆んなに言わなくて良いの?」
「何をよ」
「ラブアシスト制度が終わったら、七星はテンカイに戻るんだろ?」
七星が言ったわけでは無いが、僕はそうだと思っている。
「うん」
やはりそうか。
「じゃあ、言わないと、加代子さんとか茂木とか・・・みんな七星の事が好きだよ。突然お別れなんて悲しいじゃないか」
「そんなの分かってる。アンタたちは辛いかもしれない。今は私と毎日顔を合わせているだけで、私の存在は大きいかもしれない。でもね、この先の人生、何年もあって、色んな人に出会うのさ。そうしていくうちに、たった1年、私はアンタたちの人生において、些末な存在の1つでしかなくなる。名前も顔も、忘れるの」
僕には分からない。
名前や顔を忘れる?
そんなわけないじゃないか。
「なんでそんな事、言うんだよ」
「私だって辛いから、こうやって理由を作ってるのよ」
僕は言葉が出てこない。
「でも、本当の話だよ。私は何人もの人を見てきた。大人になればなるほど、忘れるの。顔も名前も、声も、一緒にいたことは分かっても、一緒に何をしたのかまでは覚えてなかったりするの。アンタには分からない。アンタはまだガキだから。でも、それを受け入れ始めて大人になんのよ」
七星が親や先生の説教のような事を語り出した。
「わ、分からないよ!」
「でもね、忘れない方法があるの」
「なーんだ、あるんだ。教えてよ」
「それは」
騒ついた店内が静まったかのように、七星の言葉だけが、僕の耳に入る。
ーそれは
ー忘れたくない人と
ーずっと一緒にいる事。
ーもしアンタに、忘れたくない人が現れた時の為に
ーアンタは今から恋愛に前向きになって
ー恋愛して
ーその人とずっと一緒にいるの
ーそうすれば、顔や名前は絶対に忘れない
七星の言葉は、緩やかに
僕の耳に入っていく。
ただただ、当たり前の事だった。
ずっと一緒にいれば、忘れる事はない。
僕にはまだ分からないし、今日の言葉は、例えば大人になっていくうちに忘れるかもしれない。
分かっている事を再確認してしまった。
次の春が来れば
七星はいない。
そして、想像もつかないけど
いつしか、七星の事は忘れてしまう。




