2-5.悔しいじゃん
七星は不機嫌そうだ。
「時間ある?」
「な、なくもないけど」
「どうせあるんでしょ?カラオケ行くよ。」
カラオケ!?
そんな話は一言もしていない。
だいたい、こんな可愛い子と僕がカラオケに行くこと自体ありえないし、人前で歌うのも嫌だ。
流行りの歌も歌えない。
「カラオケはちょっとなぁ。。。」
「ふーん。カラオケはあまり行きたくないとこなんだ」
しかし、何故唐突にカラオケなのか。
僕の苦手を知っていて、克服させようという企みなのか。
「ど、どうしてカラオケ?」
僕は尋ねる。
「こっちの女の子たちが、カラオケに行きたいって言うからさ。カラオケがなんなのか知らないから聞いたら、皆に笑われたんだよ。悔しいじゃん」
僕は、心が痛かった。
七星がカラオケを知らなかった事ではない。
七星が、新しい環境に馴染もうと努力していた事だ。
僕は、僕といえば、変わらない日々を過ごそうとしている。今日も、新しいクラスなのに、茂木とだけ過ごして終わった。
クラスメートがコンビニにいても、バレないように必死だった。
前の席の女の子は、アドレスを訪ねてきた。
あれも、新しい環境に馴染もうとしているんだ。
「じ、実は僕もカラオケはほとんど行ったことないんだ。だから、あんまり教えたりは出来ない」
「それならお互い気にしなくていいじゃん。はやく行こ」
「う、うん」
放課後、可愛い子とカラオケ!
見ているか、昔の僕!そして茂木!
僕達は駅前のカラオケ店を目指して歩く。
僕は自転車だが、七星は歩きだった。
しょうがなく自転車を降りて押しながら歩いている。
「ところでアンタ、なんで今日話しかけてくれなかったの?」
七星には分からないだろうが、男子にとっては女子に話しかけるためにエネルギーを要するのだ!
底辺みたいな僕とカワイイ七星との高低差分のエネルギー!位置エネルギーが必要なのだ!
と、説明しようにも、なかなか七星は理解してくれないだろう。
「タイミングが合わなかった」
「あ、そう。ちゃんと明日は話しかけてよね」
こうしてたどり着く。駅前カラオケ店。