プロローグ&story01
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プロローグ
人生というものは、リセットできない。日々を記憶する「セーブ」、そして死ぬときに訪れる「ゲームオーバー」しかない。人生は後戻りできないと思っていても、人は何かしら後悔や未練を持つ。でも、その後悔や未練を晴らすことができたら?あの日に戻ってやり直すことができたら?
彼に、もう一度会うことができたら――
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01
朝七時。うるさいく響くアラームの音に、渋々目が覚めた。目をこすって起き上がりカレンダーを見る。今日は、五月二十三日の日曜日。この日は私にとって「忘れられない日」。私はキッチンに行きコップに水を汲んた。そして、テーブルの上にある写真のそばにコップとチョコレートを置いた。
「たっちゃん、誕生日おめでとう。今日で私と同じ二十一歳だね。たっちゃんの大好物のチョコレートも置いとくからね。」
手を合わせて強く優しく彼に届くように願った。写真の中にいる彼は笑っている。ただただ、あの時と一緒のカッコいい笑顔で笑っている。
彼の名前は、篠原竜也≪しのはらたつや≫。高校一年の時に出会った。同じクラスだった。175センチの長身でバスケットボール部。性格はとにかくクールで、顔はかっこよくてそこそこモテていた。そんな彼と一年生のクリスマスに告白されて付き合うなんて、当時の私は予想もしていなかっただろう。付き合ったらたくさんデートしたり一緒に勉強したり、まさにスクールラブの日々。一緒にいる時間が多かったものの、喧嘩は一度もしたことない。そんな私たちは、周りから羨望の目で見られることの方が多かった。
それからも付き合い続け、時は高校の卒業式。お互い進路先は別。しばらく会えない寂しさと不安がこらえきれない私に、彼は制服の第二ボタンを手渡し、
「寂しくなったら連絡しろ。会いに行くから。」
と告げて、かっこよく去っていった。最後までクールな彼をずっと目で追っていたのを今でも覚えている。
そんな彼が卒業式の次の日に死ぬなんて思ってもいなかった。死因は事故。青信号を渡ったところをいきなり轢かれたらしい。私が病院に駆けつけた時はもう遅かった。手を握ると冷たかった、完全に死んでいた。涙があふれた。今でもあの日を思い出すと息苦しくなる。
「二十一歳のたっちゃんはどうなってたのかな…?」
きっとあの時以上に身長が伸びて、大学のバスケチームでも大活躍だっただろう。
そんなことを考えていると、この空気に合わないような軽快なリズムが鳴る。私の携帯の電話の着信音だ。
「もしもし。」
「おはよー奈奈子。大丈夫?」
「もう大丈夫だよ。いつも電話してくれてありがとう。」
電話の相手は高校と大学が一緒の船瀬きらり。仲がとても良く大学の学科も一緒、恋の相談にも乗ってくれていた。たっちゃんが居なくなってから、きらりは必ずこの日に電話をしてくれる。
「竜也が死んでからよく吐いたり倒れたりしてたからさ。友達として心配なんだよ。」
「ごめんね、心配かけて。でも最近は大丈夫だよ。」
「無理しなくていいからな。今日は日曜日で大学もないからゆっくり休みなよ。」
きらりは中高大と女子サッカー部のキャプテンだ。こういう気づかいをしてくれるのがとても有り難い。
私は「ありがとう。明日大学でね。」と告げて電話を切った。
私も、いつまでも感傷に浸るのはもうやめよう。友達にいつまでも心配されて生きていくような人生はもうやめよう。なんて強く思っていても、隣にたっちゃんが居たら…と考えてしまう自分がいる。よく恋人が死んだら新しい恋を探す人がいるけど、私にはそんなことできない。私が初めて付き合った人、一番愛されて愛した人が彼なんだから。今でも彼のことを愛している、どこへ行っても彼のことを探している。
――私の時間はきっと高校のあの時のまま止まっている。