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20160816公開
第6章-第1話
「だから、ここのforはまだ先のことだから、方向を意味しているの。分かった?」
「あ、なるほど(^^)」
「じゃあ、toとforの使い分けって、結構簡単なの?」
「そうね、イメージさえ掴めばね」
今日も私達は久美の家に来ていた。
目的は勿論勉強だ。
久美は他人に教えるのが抜群に上手い(^^)
授業で習っても理解出来ていない事が、彼女に教えてもらうとすんなりと頭に入るんだから、天性の才能なんだろう。
小学校の時からずっと家庭教師代わりに教えてもらってきた私が言うんだから、間違いないよ(^^)
みんなも真面目に教えてもらっていた。
なんせ、久美とは仲が良いながら空気を読まずに直球で文句を言う事が有る花子さえも、この勉強会では素直に久美の教えを聞いているくらいだ。
今も、納得したのか、口を「ほー」という形にしていた。
「他に、何か質問ある? 無かったら、一旦休憩にしようか?」
「賛成! そろそろ喉が渇いてきたところだもん(^^)」
「じゃあ、冷えたジュースのおかわりを持ってくるね」
私の隣に座っていた久遠が声を上げた。
小学生のくせに、高校生の勉強会に加わっているなんて、おかしいのだけど、腹が立つことに理解しているんだよね(^^;)
久美の一家は頭が良いって事を知っている私だけど、時々嫌になる(^^;)
だって、小学生の久遠に間違いを指摘される身にもなって欲しい(--;)
「私も手伝うわ」
そう言って腰を上げたのは、亜理子だった。
高校に入ってからマネジャーになった彼女は、よほど他人の世話を焼くのが性に合っていたのだろう。活き活きとしていた。
「私も」
空良もそう言って、腰を上げた。
相性が良いのか、この二人は仲が良かった。
それに見てるだけでこっちまでホンワカしてしまう癒しコンビだ(^^)
第6章-第2話
「そう言えば、久桜が居ないけど、どうしたの?」
背伸びして凝った背中の筋肉をほぐした後で、私は久美に訊ねた。
「今日はどうしても外せない用事が有るって言っていたわよ。気になる?」
「うーん、気になるといえば、気になるけど、たまには静かで良いかな? だって、居たらいつもいじられるし」
「万紀が寂しがっていたと言っておくわ」
「そんなこと言ったら、また天狗になるから、言わなくてもいいわ」
久美の返事を遠くで聞きながら、気が付けば私は寝てしまっていたようだった。
意識が徐々に覚醒に向かう時に御馴染みの、意識の混濁状態を楽しみながら私が「起きようかな(^^)」と思った時に久桜の声が聞こえた。
「なんとか間に合ったようだ(^^)
おお、万紀の寝顔を見れるなんて、急いで帰って来た甲斐が有ったね(^^)」
「うーん、おかえり、久桜・・・
用はもう済んだの?」
舌足らずな口調で私が訊ねた時に、おなかに圧迫感を感じた。
ああ、また久遠が私のおなかを枕にしている(^^)
「久遠、起きて」
完全に目覚めた私を出迎えたのは、みんなの視線だった。
美紅が咳払いを一つした後で言った。
「えーと、みんなを代表して、言っておくね。あんたは十分に男っ気があるじゃない(><)」
第6章-第3話
「万紀、会って欲しい人が居るけど、いいか?」
「珍しいね、久桜。緊急?」
久し振りに、久桜が私のスマホに電話を掛けて来た。
基本的に、久美の兄弟は直接私に話をしてこない。久美を通す約束だからだ。
「緊急とも言えないけど、ちょっとだけでいいんだ。空いてる時間でいいから」
次の日の夜8時に待ち合わせる事にして、電話を切ったが、疑問が湧く話だった。
久美を通さない話は初めてだったし(これまでも直接掛かってきた電話は久美からの伝言だったり、ケイタイを忘れた久美宛の伝言だったりした)、電話の声もいつもの久桜らしくなかった。
待ち合わせ場所に向かう私の胸の中では、まだ答が出ていなかったが、いつになく真面目な表情の久桜を見て更に混乱した。
「よ! 悪いね。早速だけど、紹介したい人はそこの喫茶店で待っているから、一緒に来てくれ」
「別に構わないけど、久美は知っているの?」
「知らないはずだ」
「ふーん。変だと分っているけど、久桜の頼みだから、別にいいわよ」
喫茶店の窓際の奥の席で新聞を読んでいた人が久桜の紹介したい人だった。
その男性が読んでいた新聞の1面には大きな見出しが躍っていた。
今朝からテレビはこのニュースで持ちきりだ。
本当に居るのかな? 宇宙人って? しかも太陽系に近付いて来てるらしい。
紹介された人は、久桜の先輩だった。
特にどうという特徴も無い30歳台の会社員だった。
ただ、自己紹介した後の言葉が変っていたけど(^^:)
「身体や気分に変ったところとか無いのかな?」
「別に有りませんよ? 見ての通り、元気いっぱいですよ(^^)」
「そうか・・・ 田中君から聞いた時は半信半疑だったが、本人を見れば信じざるを得ないな」
途中からの言葉は自分自身に言い聞かせているようだった。
その後は当たり障りの無い会話になった。
『結局、なんだったんだろう? 久桜にしては大人しかったし???』
その時の私に分かるはずが無かった。
今なら、何故、久桜がああいった行動に出たのか分る。
彼は焦っていたのだ。
そして、それ以上に私を心配していたのだ。
無垢で無知な私には分る筈が無かった。
第6章-第4話
久桜の紹介で会った人物の記憶が薄れる間もなく、今度は花子から誘いがあった。
「ねえ、万紀、明日は時間が作れる?」
ええ、どうせ私は部活動以外は暇ですよ(^^;)
「構わないわよ。もしかして、あなたも誰か紹介したいって言うの?」
花子は少し驚いた後で、言い難そうに言った。
「そうだけど・・・ もしかして田中家の誰かに同じように誘われたの?」
「そうよ。何が起こっているのか知らないけど、最近の私はモテモテなのかしら?」
「そうね。今やあなたは、私達の間では、噂になっているもの」
「私達?」
「あなたが言っていた、『神様みたいな者』よ。意外と世の中には、あちこちに居るの。明日紹介したい人は、古くからの知り合いなの」
「ふーん。ま、いいけど。で、何時に何処で待ち合わせなの?」
「帰宅に合わせて、あなたの家の近くで待ち合わせする予定よ」
「へいへい。どうせ、花子も立ち会うんでしょ?」
「そのつもりだけど?」
花子が紹介してくれた人物は、結構歳を取っていた。
だが、私を見た反応は更に酷かった。
ええ、『更に酷かった』ですとも(^^;)
なんせ、絶句していましたから(><)
第7章-第1話
「万紀、そろそろ時間よ」
亜理子が私に声を掛けた。
「あ、もうそんな時間? 行こっか?」
私の周りに居たチームメイト達が一斉に立ち上がる。
クラスメイトたちは、そんな私達を眩しそうに見ていた。
今や、我が校を全国レベルの知名度にした女子ソフトボール部の動向は、他のクラブにとって無視できないものとなっていた。
そりゃそうだ(^^;)
私達の躍進を紙面に載せなかった全国紙は無かったし、取り上げないテレビ局も無かった。
我々T高校の選手も選抜された日本選抜チームが、56年ぶりに日本で開催された4年に1度の全世界的なスポーツの祭典で、劇的な展開で世界一になってしまうなど、誰が予測できただろう(^^?)
おかげで主要な選手は、有力な実業団や大学からの接触に曝される毎日だった。
中でも私は、シンボルとして取り上げられる事が多く、少し窮屈な日々を過ごしていた。
『モンスター オブ ザ ライジング サン』
『ゴジラ ガール』
『ミラクル メーカー』
もう、どうにでも呼んで(^^;)状態なほど、私を形容する言葉が世界で誕生していた。
そんな私を中心とした我が女子ソフトボール部が、新入生の勧誘をするのだ。
どうしても、注目を浴びるのは仕方が無かった。
第7章-第2話
本来であれば、私達の様な高校生になったばかりの選手や高校3年生が4年に1度のスポーツの祭典に出場する事はあり得なかった。
だが、日本代表チームの監督は何を考えたのか、私達を招集した。
私、久美、花子、空良、美紅、美樹、北野先輩の7人だった。
最初はさすがに大人しかった私達だったが、先頭を切るようになるまでにそれほど時間が掛からなかった。
ちょっと、うぬぼれが入っていますが、私と久美の実力が年上の代表選手の想像以上に凄かったって事がすぐに知れ渡ったもんで(^^;)
「なんなの、あんた? 初球からホームランってあり得ない」
日本代表のエースが、紅白戦で打たれた後で私に言ったセリフだ(^^;)
うん、速かったよ(^^)
でも、元男子野球部のエースが投げるボールさえも軽々と場外に放り込める私にとって、タイミングや軌道を合わせる事は、それほど難しくないんだよね。
後は、一番飛距離が出る角度でボールとバットの軌道が交差するようにスイングすれば、最低でもヒットになるし、結構な確率でスタンドまで届く打球になっちゃうんだから(^^)
私達代表選手を送り出す学校を挙げた式典は盛り上がったなあ(^^)
だって、男子公式野球部が悲願としている甲子園よりも遥か遠くに在る場所というかステータスに代表を7人も送り出すなんて、想像出来ないほどの出来事なんだもん(^^;)
式典が終わった後で、亜理子が言ったセリフには感動しましたとも(;;)
「覚えてる? 万紀を除くみんながこの高校を選んだ理由を?」
「今度こそ日本一になる?」
「そう。正確には、『万紀の為に今度こそ全国制覇』だけどね。
そして、今では、あなたに憧れて、あなたに惚れて、あなたと一緒に時を過ごす為に、この高校に来た11人全員の願いは一つよ。
『万紀による世界制覇』を成し遂げて。
その瞬間を目撃できれば、私は死んでもいいとさえ思っている」
ああ、そこまで私の事を思ってくれる友人を得る事は、きっととんでもなく難しいのだろう。
私の返事は涙声だった。
「死んでもらっては困るわ。私が死ぬまで、友達でいて欲しいから。
でも、人生で最高の瞬間を味わせる事を誓うわ、亜理子」
第7章-第3話
「万紀!」
ネクストサークルに向かう私に久美が声を掛けた。
「ん? なに?」
「にやけてるかどうか、確認しただけよ」
「で? にやけてる?」
「もう、これ以上は無いってくらい(^^;)」
後日、決勝戦のビデオを見た私は、思わず顔を手で覆った(><)
人間、これほどの笑顔を人前で晒せるの?
しかも、世界一が掛かった試合で?
画面の中の私は、心底楽しそうな笑顔で何かを言った。
私はその言葉を覚えている。
『だって、これ以上、楽しい場面が有る?』
満員の観客が見守る中、私はネクストサークルでいつもの儀式をした。
スパイクの土をバットで落とした後で、素振りを5回して、静かに花子の打席を見る。
彼女の横顔は真剣だった。
そして、私は確信した。
『花子なら、絶対に塁に出る。あの子は私の期待に応える為なら、自分の中の全てを使える子だから』
その期待に応えるように、彼女はアメリカチームのエースの速球をセンター前に落とした。
自然と私の口角が上がった。
そして、笑顔と言うのがはばかれる位に表情筋が動いた。
余りにも笑い過ぎて、表情筋が攣りそうだ(^〇^)
女子で世界最速の速球を誇るアメリカチームのピッチャーの視線が思わずベンチに泳いだ。
そりゃ、ここまで対戦した3打席全部でホームランを打たれているバッターを迎えて、平静でいられるはずが無いよね(^^;)
同じ数だけの敬遠をしていたから、ここは敬遠したいだろう。
でもね、残念ながら、彼女に逃げ道は無かった。
中学でのあの試合のピッチャーと同じく、私と勝負するしか無かった。
それでも、彼女は立派と言わざるを得ないだろう。
大きく息をはき出すと、闘志を剥き出しにして私をねじ伏せようとしたんだから(^^)
彼女が投じた時速121kmの球速の記録は多分、しばらくは破られる事は無いだろう。
だが、彼女の記録が脚光を浴びる事はあっても、賞賛される事は無い。
何故なら、その剛速球をホームランにしてしまった化物が居たからだ。
大歓声の中、ゆっくりとホームベースを踏んだ私を日本代表の選手全員が手荒い祝福をしてくれた。
久美が笑顔なのに、涙を流していた。
花子が泣きじゃくりながら私の胸を叩いていた。
思わず出た言葉は恰好を付け過ぎだったのだろうか(^^;)
「ごめん、女子高生らしくないホームランを打っちゃった」
第7章-第4話
「三上さん、決勝戦のあの最終打席に向かう時に笑顔だったのですが、その時の心境を教えてもらえますか?」
みなさんも、カメラやビデオムービーを向けられた経験はあるでしょ?
でも、そこで撮られた映像って、たかが数人や数十人が視るくらいですよね?
でも、この質問をされた時の私は、そのカメラのレンズの先に数千万人の視線を感じていたと言っても、良いと思う(^^;)
「えーと、楽しかったもので(^^;)
あんな場面で自分に打席が巡ってくるなんて、なんて素敵なんだろうと思ったら、自然と笑顔になっていました」
おー、我ながら上手く答えられた気がする(^^)
まあ、同じ様な質問を何回もされたから慣れただけなんだけどね(^^;)
私達女子ソフトボール日本代表チームは、テレビ局のスタジオにやって来ていた。
もう何局目だろう?
それと、なんと言うか、呼ばれているメンバーが、私達女子高生に集中していた気がするの(^^;)
社会人選手も多数居てちゃんと活躍したのに、どうして私達にばかり脚光を浴びせたがるのだろう?
「それでは、次に、田中選手にお伺いします。
三上選手とは小学校時代からのチームメイトという事ですが、最初に出会った時には、ここまでの選手になると思っていましたか?」
やっと、アナウンサーさんからの質問5連発という責めから開放されたと思ったら、また私絡みだ(^^;)
「そうですね、万紀は今も昔も、ソフトボールに関しては、天才でした。初めて彼女の打席を見た時の衝撃は、今も覚えていますよ(^^)
その時に思った事もね」
「何て思ったのですか?」
「見なかった事にしよう・・・と思いましたね」
「えーと、どういう事でしょう?」
「一生勝てない相手をライバルと思えますか? それほどの衝撃を受けたと理解頂けると、助かります」
おっと、そんな目で私を見てたの、久美?
でも私はちゃんと久美の事をライバルだと思っているよ。
まあ、それ以上にチームメイトだと思っているけどね(^^)
貴重なお時間をこの様な粗作に割いて頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m