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2010年に書いたオリジナル小説です。

先日、女子ソフトボール競技がトウキョーオリ●ピックで復活する事が決まったので、そのお祝いも兼ねて転載します。


プロローグ



 ああ、何故、私達はこんな往来で直立不動で立っているのだろう?


 きっかけは、些細な事だった。


 帰宅途中の私達と、酒に酔った中年のオジサンがぶつかった事が原因だった。

 確かにこちらにも非がある。

 自転車に二人乗りしていたチームメイトがぶつかったのだ。

 

 でも、千鳥足とはいえ、オジサンがまさか90度で進路を変えるとは誰も想像できないじゃない?

 チームメイトと、もつれ合いながら、酔っ払い特有の金きり声で、文句を言っているオジサンの姿を見た私が最初に思った事は簡単に要約すると以下の通りだった。


 『だから、酔っ払いは嫌いなんだ』


 ぶつかってから、もう半時間もグタグタと文句を言うオジサンを前に、直立不動で立っている私達とは別に、もう一人の人物が居た。

 近くの交番の警官だ。

 まだ若い彼は、どう収拾を付ければ良いのか判断が付かないのだろう。

 大して役に立っていない。おろおろとするばかりだ。


 そろそろ、久美の門限が近付いていた。

 彼女がこっそりと腕時計に目をやるのが見えた。


「おい、大人が役に立つ人生の教訓を教えているのに、何、時計を見てるんだ? 舐めているのか?」


 あ、オジサンにバレテタ(^^;)

 

 益々、意味も無くヒートアップするオジサンにうんざりしながら、私が溜息を吐いた時だった。

 私の横に立っていた佐藤花子が呟くのが聞こえた。


 『我が名において、高原正宣の人生に介入する事を宣言する。彼の者にあらゆる邪魔を下せ』 


 ああ、何故、私は神さまみたいな力を持つ女子高生と友達なんだろう?


 きっかけは、些細な事だった・・・





第1章-第1話


 私は一度死んでいる。


 比喩ではない。本人が死んだ時の記憶を持っているのだから、カルテや医師がなんと言おうが、本当に私は一度死んだのだ。


 その日は、目覚めた瞬間から覚悟を決めたほどの辛さだった。

 余りの辛さに、看護士さんの簡単な質問にさえも答えるのに苦労した。


 ハッキリとした最後の記憶は、主治医の宮崎先生が看護士に伝えた言葉だった。


『ご家族の方に連絡を・・・』


 その後の記憶は、やけに大きく聞こえる苦しげな自分の呼吸音と、義母が何かを私に呼び掛けている声と、何かの電子音だった。

 そして、電子音がピーという長音に変り、自分の呼吸音や、義母の声どころか全ての音が聞こえなくなってしばらくしてから完全に意識を失った。


 次に目覚めた時に見た光景は、義母と花子の心配そうな顔だった。

 私が呟いた言葉はきっと花子にしか届かなかったと思う。

 彼女だけが反応したからだ。


『約束を破ったのね?』

『ごめんなさい。本当にごめんなさい』


 ぼろぼろと涙をこぼす彼女を見た私に、次に言った言葉以外の何が言えただろう?


『今回だけよ。次にやったら、あなたの目が届かないところで自分で死ぬからね』


 腹膜に癌細胞が巣食った私が生き残れる事は有り得なかった。


 人の死さえも捻じ曲げる事が出来る彼女の介入以外には・・・・・・・・ 




第1章-第2話


 その日、私は久し振りにテンションが高かった。

 自分の運命をやっと受け入れる覚悟が出来たからだった。


 私はあと一月もしないうちに死んでしまう。

 何故なら、余りも若過ぎたから。

 生命力溢れる身体は、癌細胞にも同じように生命力を与えてしまう。

 ドラマの様な些細な偶然から自分の運命を知った私が、覚悟を固めるのに要した時間は1週間も掛からなかった。


 だから、主治医の宮崎先生に無理を言って、久し振りに中学校に登校した私が隣の席の花子に声を掛けたのも、テンションが高過ぎたからだ。


「ねえ、佐藤さん、一緒に弁当を食べない?」


 彼女の心底驚いた顔を見たのは初めてだった。

 一緒に居た、友達でも有り、ソフトボール部のチームメートの久美も驚いた顔をしていた。


「え!?」


 久美と花子がハモった事に、笑いがこみ上げた。


「前から気になっていたの。いつも一人で弁当を食べているでしょ? 私はあなたと弁当を一緒に食べたいけど、だめ?」


 彼女は複雑な表情をした後で、うなずいた。


「良かった。ほら、こっちの机にくっつけて」


 花子は恐る恐るといった感じで自分の机をくっつけてきた。

 

「もしかして、自分で弁当を作っているの?」

「ううん、おばあちゃんが作ってくれてる」

「ふーん。おいしそうな弁当ね。特にキンピラがおいしそう」

「食べる?」

「ラッキー^^」


 多分、自分の残された人生を心残りの無いものにしたいと思わなければ、花子に声を掛ける事も無く、ただの隣席の暗い女の子と思ったままだっただろう。

 ましてや、彼女の秘密を知ることもなかっただろう。





第1章-第3話


 下校する頃には、腹部の痛みは刻一刻と限界に近付いていた。

 きっと、顔面は蒼白で、表情も険しいものになっている事を、私は自覚していた。


『さすがに一日もたなかったか・・・

 頑張れ、私。

 これで思い残す事は無いんだ。

 頑張れ、私』


 自分をひたすら奮い起こしながら、通学路の半ばを過ぎた頃には半分意識を失っていたかもしれない。


 そして、そこで私は花子に出会った。

 彼女は私を見付けると、早足に近付いて来た。

 焦点が定まらない視野の中で、花子が心配そうな顔で私を見ていた。

 彼女のセリフはぼんやりと覚えている。


「本当に信じられない。今にも意識を失いそうなのに、ここまで一人で歩いて来るなんて」


 その時は、その言葉の裏の意味を感じ取る事は出来なかった。

 ただ、ただ、早く帰らないと義母が心配すると考えていた。

 ふっと、身体が持ち上げられた気がしたので、『何?』と思ったが、花子が私の左脇に身体を入れて、支えてくれていた。


「家に帰るの? それとも病院?」


 彼女の声がすぐ横から聞こえて来た。

 息をするのも苦しい中で、私はやっと答えた。


「家・・・ 病院に戻る前に風呂に入りたいから・・・」

「本当に信じられない」


 そう言うと、彼女はよろよろよとした足取りで私を本来の通学路とは違う方向に連れて行こうとした。

 だが、少し歩いたところで立ち止まると、何かを呟いた。

 今度は右側が軽くなった。顔を向けると若いOLが花子と同じように肩を貸してくれていた。


『だれ?』


 私をタクシー乗り場まで連れてくると、そのOLは無表情で立ち去っていった。


 何故、花子が私を待ち構えていて、私を送ろうとしているの?

 途切れそうな意識の中で、私はその事だけを考えていた。






第1章-第4話


 佐藤花子を初めて意識したのは、発病する直前の中学2年の時だった。

 噂を聞いていたので、全くの知らない生徒と云うわけではなかった。

 彼女は『独特の雰囲気を纏う神秘的な女生徒』『魔女』『預言者』『占い師』などなどの言葉で語られていた。


 初めて見た印象は『? 噂ほど、不気味な印象は無いなぁ』だった事を覚えている。

 だから、隣の席になった時は特に意識する事無く、挨拶を交わした記憶がある。

 だが、その夜に私は異常な経験をしていた。

 小学校時代の友人や、中学に入ってから知り合った人間から100通以上のメールを受け取ったのだ。


 もし、あなたの携帯電話にたった8時間で100通ものメールが届いたとしたら、恐怖を感じるでしょ?

 私の場合、その日、背筋が凍った事は素直に認める(^^;)

 結局、全部のメールに返事を返したのは翌日の夜だった。

 

 そして、その発端は花子だった。




第1章-第5話


 自宅に帰った時の騒動はぼんやりと覚えているけど、人生で初めて乗った救急車の記憶が無いんだよね。

 私の記憶は、満足感を感じながら救急車を待っているところで途切れているもの。


 後で聞いた話しでは、救急車を呼ぶ前に風呂に入るって我侭を言ったらしい(^^;) 

 結局、義母と花子の二人がかりで大急ぎで風呂に入れて、髪の毛も濡れたまま救急車に乗りこんだらしいし(^^;)

 自分で歩くとこれまた我侭を言ったらしい(^^;)

 その時の光景を想像すると、恥かしいと思うべきか、笑うべきなのか、ちょっと微妙だったり(--;)


 だって、髪の毛が濡れていて、足取りもおぼつかない女子中学生が寝巻き姿で、ストレッチャーを持った救急隊員に誘導されて救急車に乗り込む光景なんて、滅多に見れるものじゃないもの。

 とにかく、入院していた病院に戻った私には、自分に残された時間をどう過ごすかという難問が待ち構えていた。


 小学生の時から打ち込んで来たソフトボールはもう出来ないし、入院生活の定番、読書も苦手だし、テレビも面白いと思えないし・・・

 趣味らしい趣味を持たない私は、自分の生死以前に、退屈という敵と戦うこととなった。

 


第1章-第6話


 日々苦痛に苛まれていた私が唯一楽しんだのは、意外な事に花子の見舞いだった。

 彼女は毎日下校時に寄ってくれて、その日の出来事を教えてくれた。

 数日後、私はついに訊ねた。

 義母が仕事の都合で、二人きりになった時だった。

 見事な夕暮れで、病室も赤く染まっていたのが印象的だった。

 隣のベッドの高松さんも居なかった事もきっかけの一つだろう。


「ねえ、どうして私の病気の事を知っていたの? 義母かあさんくらいしか知らないはずなのに?」

「私のあだ名を知っているでしょ? 魔女とか占い師とか?」

「本当に分るの? ごめん、信じられない」


 夕日で赤く染まった彼女の顔が、恐る恐るという表情に変った。

『ふーん、花子は結構可愛いかもしれないなぁ^^;』と場違いな考えが脳裏をよぎった。

 今考えても、我ながら自分の生死に無頓着だったかも(^^;)


「多分、三上さんに言っても、他人には漏らさないと思うから、本当の事を言うよ。私には他人の運命が見えるし、その気になればその人の運命さえも変えれるの」

「それで?」


 彼女は絶句した。


「あなたが嘘を言っていないことくらい分るよ。それで?」

「本当にあなたって信じられない。今、あなたが言った言葉でどれほど私が驚いたかを説明できればいいのに」

「ま、それは置いといて。私はあと何日生きられるの?」

「22日と13時間21分」

「そう」


 ふと目を窓の外に向けた。

 街が赤く染まっていた。

 『ああ、綺麗だな(^^) 本当に綺麗・・・』


 花子が声を震わせながら呟いた言葉が、私の心を病室に戻した。


「あと23分なの。あと23分生き延びてくれたら、あなたを死なせる事はないのに・・・」

「どういうこと?」

「さっき、言ったでしょ? 他人の運命さえも変えられるって? 1年に1度だけ、数分間だけ他人の生死も変えられる時間があるの」


 私の答えは他人事のように聞こえたかもしれない。


「仕方ないわよ。人間の生死なんて、きっと生まれた時から決まっているのよ。私の寿命はほんの少し短かっただけ。それだけよ。それよりも、もう一つ、聞いていい?」

「なに?」

「どうして、私にそこまでしようとしてくれるの?」


 意外な事に花子の目から涙が落ちた。

『お、泣き顔も可愛いじゃん(^^)』

 あ、誤解されるのが嫌だから先に言っておきますけど! 私はそっち方面の趣味は有りません! 純粋に可愛いと思っただけです(><)


「だって、あなたみたいな人って、ほとんど居ないの。私には分かる。下心もなく私に優しくしてくれる人なんて、本当に居ない。だから、だから・・・」


 私は泣いている花子をじっと見詰めていた。




第1章-第7話


 その後も花子は毎日見舞いに来てくれた。

 暇なのかな?


 予想通りというか予定通り、私の病状は悪化の一途を辿った。

 所属している中学校のソフトボール部の部員も見舞いに来てくれたが、彼女たちにも私の病気が深刻なものだという事が分かったのだろう。

 見舞いを受けているこちらが、演技を見破ってしまうほど彼女達は可哀想な表情をしていた。


「ねえ、花子・・・ それほど私って、やばそうに見える?」

「そうね、死相が出ているもの。いくら普通の人といえども、あなたが長くない事くらいは分ると思うわ」

「そう・・・ 可哀想な事をしたかな? 中学生なんて多感な年頃の子供に、死に行く級友を見舞うなんて苦しみを味わせて」

「私は? 結構自信が有った自分の能力を使えない私の苦しみには一言も無いの?」


 腹部を走る痛みを辛うじてやり過ごした私は、目をつぶりながら呟いた。


「私の人生は私が決めるの。あなたの力は誰か別の人に使って」

「そうね、そうするしか無いもの。今だから言うね・・・ 何回かこっそりと病気の進行を止めようとしたけど、全然効かないの。こんな事は初めて」


 何故なんだろう? その時の私は満足感を感じた。

 きっと、人並み外れた力を授かった花子さえも手を出せないでいる自分の運命に満足を感じたのかな?


「飼い主に似て、私の癌も強情なのね(^^;)」


 点滴が終わろうとしていた。 1日中と言ってもいい点滴が・・・

 

 私が亡くなる6日前の会話だった。





第1章-第8話



「ごめんね、お見舞いが遅くなって」


 久美が久し振りに姿を現した。

 みんなと一緒に見舞いに来てからだから、何日ぶりだろう?

 入院していると、時間の感覚がおかしくなってしまうのかな? こんな簡単な事も分らなくなる(^^;)


「いいわよ・・・ 来てくれただけで・・・ 嬉しいから」


 私にとって、精一杯の返事だった。


「近くに行ってもいい?」


 私のベッドの横には、花子が座っていた。

 母親の信頼も厚くなり、今では面会時間のあいだ中、私の世話をしていた。

 

 面白い(^^)

 花子の顔から表情が減った。この二人の仲はどうやら良くないみたいだ。


「もちろん」


 花子が折りたたみの椅子を用意してくれた。

 もらい物のリンゴを剥きだしたが、表情は硬いままだ。


「もし良かったら、これを食べて」


 私の好物の『明石たこのたこ焼き堂』のたこ焼きだった。

 普通なら、さっそくぱくつくところだが、さすがに今となっては無理だった。


「ありがとう」


 結局、久美は微妙な表情のまま10分ほどして、帰っていった。

 久美が帰った後、花子が袋に包まれたままのたこ焼きを見ながら、ささやいた。


「あの子も失う恐怖にがんじがらめになっているのね。自分では言わなかったけど、あちこちの神社やお寺を巡っているから」

「どういうこと?」


 花子はしばらく無言だった。

 

「要するに神頼みにすがるしかないってこと。ある意味、私と同じ位可哀想な子なの・・・ どうする? たこ焼き?」

「花子が食べて・・・ さすがに食欲がないわ」

「それでは、遠慮なく頂くわ」


 私は目をつぶった。痛み止めの効果は助かるが、意識までぼんやりとするのは、私の『好み』では無かった。

 包装紙を破る音が聞こえる。

 人生最後のたこ焼きくらいは、根性で食べれるだろうか?

 

「花子、悪いけど・・・ やっぱり半分だけでいいから、食べさせて」


 人生最後のたこ焼きは残念ながら、皮だけしか飲み込めなかった。

 あんなに美味しくて、柔らかかったはずの明石のタコを咀嚼し切れなかったからだ。


 私が死ぬ二日前の出来事だった。 





第1章-第9話



 あの、一度死んだ日からの私の回復は凄まじいものがあった。

 3日後には、もう筋トレを再開していたほどだった。

 退院は入院中に受けた全ての検査を受け直した後だったので、結局10日ほど掛かったけど(^^;)


 病院側とは誤診と云う事で手を打ったが、主治医の宮崎先生は納得をしていないようだった。


 そらそうだ(^^)


 死ぬ前に私が受けた、『バリウム検査』『内視鏡』『CT』『MRI』『腫瘍マーカー』『PET』『エコー』『生検』などなど、あらゆるデータは癌の末期患者の典型的な数値を示していたんだから(^^;)

 

 あれだけ検査して、何処をどう突付いても、誤診のしようが無いはずの癌患者が、1日で健康体としか言えない数値に戻った・・・

 しかも、あれほどはっきりと写っていた腫瘍組織がどこにも見当たらないなんて、学会でも受け入れられる筈ないし、宮崎先生には慰めの言葉を掛けてやりたいほどだった。


 退院してから行った久し振りの学校は楽しかったよ(^^)

 久美の喜びようを思い出すだけで、顔がにやけるくらい(^_^)


 何故か花子だけは喜びよりも、悩みが深かったようだけど(^^;) 





貴重なお時間をこの様な粗作に割いて頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m


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