上
俺は歌うことが大好きだ。カラオケだって週一で行くしギターだって買った。
そして、隣には君がいた。いつも俺の歌を聴いてくれて、笑って、泣いて。いつも俺の歌を褒めてくれた。
そんな君はもうすぐ遠くに旅立つみたいだ。それも俺の手には届かない遥か遠くへ。
なんでもっと早く言ってくれないの?
君の方が俺の何十倍、何百倍も辛いのに俺から目を背けて「ごめんね」と白い毛布を握りしめていた。
外出が許されなかった君に外出許可が下りた。家にも連れて帰っていいそうだ。
君はもう気づいてるはずなのに嬉しそうに笑っていた。俺は彼女がいないところで泣いた。
『余命は一ヶ月だそうだ』
俺はそれから考えた。君が笑って旅立てるように何かしてやれないかを。
俺たちは色んなところに行った。遊園地、映画、ショッピング。
君は何処ででも嬉しそうにしてるけどカラオケに連れて行く時が一番笑顔だった。
そんな顔を見ると時間が止まってるかのような錯覚に囚われる。
でも、楽しい時間は長くは続かなかった。次第に彼女の病状が悪化し会えなくなる日が多くなっていた。
俺は君が喜ぶプランを考えることしか出来なかった。
そんな俺の元に一通のメールが届いた。
《私に会えなくて寂しい?(笑) 私は○○君が思ってるより弱くないから! こんな病気すぐに治すね! それまで待っててね》
そんな内容だった。
どんな気持ちで書いたのだろう。
俺は涙が止まらなかった。
何もしてやれない自分が歯がゆい。
そして数日後に君に会えることになった。
しかし君は俺が話をしてもくぐもった表情をしていた
「ねぇ、次行くところなんだけど・・・・・・」
「俺君はいいよね。まだたくさん生きていけて」
「え?」
「私だって自由にしたいよ、なりたいよ。誰も見たくない。私の前から消えて!」
俺は泣きそうになりながら反発した。
「ああ、すまない。俺には何もしてやれないよ・・・・・・」
そういうと俺は部屋のドアを開けて外へ飛び出した。
「・・・・・・もっと生きたいよ」