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名家の令嬢が嫁ぎに来ました。3  作者: 木っ端ミジンコ
第二章 盗賊団の襲撃
9/53

2-3

 そのころ、クイは、ナティと一緒にテントにいた。

 なかなか寝付けないナティの隣で、とりとめのない事を話していたのだが、だんだん外がうるさくなって、クイは、ゆっくり顔を上げた。

(……?)

 耳を傾けると、北東の方角が騒がしい。

「……ふふ。」

 思わず笑ってしまったクイに、ナティが、

「クイ姉さま?」

と、心配げに声をかけた。

「ああ、ごめん、気にしないで。」

「……でも。」

「心配ないよ。騒いでいるのは、盗賊たちだから。」

「盗賊?」

「うん、もうそろそろ仕掛けてくると思っていたんだよね……。まったく。ユーリが仕切っている時間でよかったよ。どうも、あの兵長は頼りなくて……。」

 そのとき、こちらに近づいてくる足音が一つ。

(?)

 クイは、さっと音もなく跳び起きると、入り口脇に身をよせた。同時に、ナティには、そのままでいるように、手で合図をする。

 クイは、念のため、剣に手をかけた。

 ざっ。

 足音は、入り口手前で止まった。

 気配は一人。

 足音の重さからして、男。

 程なく、小さな声で呼びかけがあった。

「クイ、大変だ。」

「!」

 知った声。

 アムイリア領軍兵長の声だ。

「……?」

 外を覗くと、そこに、青ざめた兵長がいた。

「……どしたの?」

「……やべえ。」

 兵長は、クイを押しのけてテントに入ってきた。

「クイ、大変……ふ~、は~、ふ~。」

 空気の違いに深呼吸するも、慌てているためか、思い通りに息ができない。

「……ユーリ軍将が……ふ~、……捕まった。……は~。」

「?」

 ユーリがいるのは、本部テントだ。

「まさか、本部に盗賊が入り込んだの?」

「いや、本部は無事だ。」

「どういうこと?」

 問うと、兵長は、なぜか気まずそうに目を伏せた。

「……ユーリ軍将は、一人で外に出て行って、そのまま盗賊に捕まったんだ。」

「は?」

「……その、……何だ。……俺は止めたんだが。……ユーリ軍将が「クソ女のトラップは信用ならん。」って言いだして。……それで、……「俺は今から最終チェックに行ってくるから、俺がいなくても警備を怠るなよ。」って言って、外へ出て行ったんだ。……その~、外の警備兵の話によると、しばらく、ユーリ軍将の明かりが見えていたらしいんだが、突然、それが消えて、その辺りから、大量の盗賊どもが、とび出してきたんだ……。」

「……は?」

 その状況を想像して、クイはあきれた。

(……何やってんだ、ユーリ。)

 ユーリも分かっているだろうが、こちらに、助けに行く余力などない。

(ま、一人でどうにかできるよね……。)


 すると、兵長が、

「どうしたらいい?」

と、真顔でクイに問いかけてきた。

「……。」

 もちろん、兵長が軍将を代行すればいいだけの話だが、この兵長が頼りないことは、もう知っている。

 クイは、少し考えてから、

「う~ん、そうだね~。じゃあ、しばらく領軍の指揮は、私が執るよ。」

と、代行の代行を申し出た。

「そうか、そうしてくれ。」

「まずは、全員に落ち着くように伝えてくれる?」

「おぅ、分かった。」

 クイは内心、誰がこいつを兵長に推したんだろう、と思いながら、兵長を明るく元気づけた。

「じゃ、予定通り、盗賊たちを蹴散らすよ! ユーリがいなくても、十分こちらに勝機はあるからね!」

「おう!」

「ああ、そうだ、私がいない間の、ナティの警備を……。」

 誰かに頼みたい、と言いかけて、クイは、目を見開いた。

「あれ?」

 そこにいるはずのナティがいない!

「ナティ?」

「クイ姉さま! これを!」

 ナティは、高く積まれた荷物の陰にいた。

 ナティは、その中から、まだ使うことはないと思っていた、ナティ専用のローブの替えを取り出している。

「ナティは、ここにいてよ!」

 ナティを前線には連れていけない。

 しかし、ナティは、

「違うわ! これは、クイ姉さまが着るのよ!」

と、ローブをまるめて、クイに手渡した。

「へ?」

「あれよ、あれ!」

「あれ?」

 ナティが、何かを指さしている。

 テントの端の、つなぎ目のあたり。

「ん??」

 すると、ナティは、ローブを抱えて、

「違う!!」

と、クイの手をつかんだ。

「見て!」

「!?」

 途端、クイは、

「わ!」

と、バランスを失ってよろめいた。

 キツい耳鳴りが、脳天を貫く。

「……つ。」

 視界が暗転して、めまいがする。

 クイは咄嗟に、ナティの肩をつかんで目をつむった。

 視界と平衡感覚を失っても、他者との感触だけは失われない。

「……いた。……何? どうしたの?」

「この方が早いと思って。」

「早いって……。私、ナティのようには見えないよ。」

「大丈夫。私に任せて。」

 足りない術力を補ってまで、クイに見せたいものがあるようだ。

 結界の世界にある、何か。

 クイが目を開けようとすると、強い光が目に飛び込んできた。

「……う。……眩しい。」

「うん、この辺りの地脈は、とても力が強いみたい。」

 油断すると、地脈の光に飲み込まれそうになる。

「ナティ、……もっと明度を下げて。」

「ダメなの。これ以上下げると、見えなくなってしまう光なの。」

「……?」

 そんなにわずかな光?

 なら、見せたいのはもっと遠くか。

 クイは、幻惑されそうになるのをこらえて、顔を上げた。

 薄目で遠くに光を探す。

 淡い、わずかな。

 地脈とは違う、独立した光。

 すると、探し始めた場所より、ずっと遠く。

 自分の能力では決して見ることができない場所に、何か異質な光が見えた。

「?」

 地脈に沿うような。

 細く、長い、おぼろげな光。

「もしかして、あれ?」

「そう、それ!」

 それ!と言われても、それが何かは分からない。

 見つめている間にも、少し形が変化したような……。

 もしかして、動いている?

「何、あれ?」

「あれは、人よ。」

「人?」

 なら、結界紋の光?

 そこまで考えて、クイはハッとした。

「!」

 あの動いている白い光は、人の結界紋の集合体だ。

 クイは、考えながら、ナティの肩から、手を離した。

 ナティがクイの手を離すと、クイの視界は、元の夜の闇に戻る。

「……いたた。」

 急激な変化に頭が痛い。

 クイは、それを我慢しながら、光が見えていた方角を頭の中で想像した。

「ああ、そうか。」

 それだけで、ナティが頷く。

「ええ、そうよ。」

 けれど、そのやりとりを横で見ていた、兵長には、何が何だか分からない。

「クイ、何が分かったんだ?」

 説明を求める兵長に、クイは、難しい顔で頷いた。

「うん、あのね、リリビア領軍が来ているみたい。」

「え?!」

 援軍の知らせに、兵長の顔は、パッと明るくなった。

「やった、これで盗賊どもを蹴散らせる!」

 しかし、クイの表情は、曇ったままだ。

「うん、そうなんだけど、私はもう、出れないよ。」

「あ!」

 リリビア領軍にとって、クイは、いないはずの人間だから、アムイリア領軍の指揮を執る事はできない。

「……。」

 はたして、リリビア領軍が到着するまでの間、クイとユーリなしで、盗賊たちの襲撃を持ちこたえることができるのか。

「……クイ、どうしよう。」

 どうしようも何も、やることは決まっている。

 クイは、兵長の背中をバンと叩いた。

「さあ、男の見せ所だよ。」


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