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リリビア領への道のりは、ここからが険しくなる。
これまで、アムイリア領は、他の領軍や国王軍に間借りする形で、安全なルートを選んできたが、国王軍の東部基地より先は、人の住まない森を抜けるしかない。
盗賊たちは、この森を、合流ポイントに定めていた。
アムイリア領軍を襲撃するには、この森が最も都合がいい。
この森は、他の領軍や国王軍の拠点から遠く、また、リリビア領からも距離があるため、援軍が来る可能性が低い。それに、葉が落ちる前の森は、身を隠すにも適していて、秋の実りに溢れているために、食料の調達にも事欠かなかった。
夜、オレリアスは、ちらちらと燃える焚き火にあたりながら、
(防寒具を買わないといけないな~。)
と、ため息をついた。
北へ北へ向かってきたせいか、秋が深まるのが思ったより早い。この調子で、遠回りをしていたら、いつクイのいる王都にたどり着くのだろう。
「寒~ぅ。俺にもあたらせてくれよ。」
森の中から、火のそばにやってきたのは、二人の盗賊だった。どうやら、オレリアスを勧誘した三人と知り合いであるらしい。彼らは、オレリアスを横目に、挨拶がわりの言葉を交わした。
「おお、遅かったな。」
「誰だ? こいつ。」
「ああ、途中で俺たちがスカウトした、オレリアスって奴だ。」
「へえ。強そうな奴じゃないか。」
盗賊稼業とは、こんなものか。他にも、盗賊のグループがいくつも集まっていたが、それぞれに顔も名前も知らないようだった。盗賊たちは、頭とやらの命令で集まっただけで、襲撃の内容も知らされていない。悪いことに、その頭とやらは、まだ、姿を現していなかった。
(……数が集まりすぎているな。)
最弱と噂されるアムイリア領軍と、そう変わらない数に見える。頭の存在がいない今、彼らは、ただの烏合の衆だった。彼らは、何かのキッカケで、勝手に戦闘を始めかねない。
(……どうする?)
もしそうなってしまった場合、オレリアス一人だけでは手に負えない。
襲撃をやめるよう誘導できないのなら、せめて、この状況をアムイリア領軍に教えてやることはできないだろうか。このまま夜が深まり、アムイリア領軍の大半が寝静まる前に。
(行くか。)
オレリアスは、平静を装って立ち上がった。
「なんだ? ……小便か?」
「ああ。」
盗賊の一人に、オレリアスは、軽く手を振って返した。
「……すぐ戻る。」