表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名家の令嬢が嫁ぎに来ました。3  作者: 木っ端ミジンコ
第一章 ナティとの再会
5/53

1-3

 ナティは、ためらいながら、ぽつぽつと話し始めた。

「……あのね、私、テーブルクロスの下で……ずっと、隠れて聞いていたの。」

「?」

「だって、……領主様たちが皆、似通った事ばかりおっしゃるから、……もしかしたら、この中の誰かは、嘘つきなんじゃないかって思ったの。……だから、誰が本当の事を言っているのか知りたくて、……領主様たちの会話を盗み聞きしてみたの。」

 領主らの話を盗み聞き?

 つまり……。

「まさか、お茶会の席で隠れていたの?」

 すると、ナティは、こくりと頷いた。

(うわぁ~。)

 まったく、お茶会の主役が何やってるんだろう。

 主役がいないお茶会を想像して、

「ねえ、父さんたちは、このことを知っていたの?」

と訊いてみた。

 すると案の定、ナティは、目を泳がせ、体をこわばらせた。

「ううん。後で知ったんだけど、ユーリとイト兄さまが、血相変えて、捜索してくれていたんですって……。」

 クイもつられて、身震いした。

 兄イトは、笑って許してくれるだろうが、いちばん根に持ちそうな人物が、すぐ後ろに立っている。

(ひ~。)

 クイは、慌てて、

「で、どんな話が聞けたの?」

と話題を戻した。

「うん。……あのね、領主様たちは、お互いの悪口を言い合っていたの。私、優しい方ばかりだと思っていたから、……あんな口調でお話になる方たちだなんて、思ってもみなくて……。」

 うん、ま、そうだよね。

「それにね、私の事を「落とす」とか、何とか。……まるで戦利品扱いだったのよ。……私も一人の人間なのに。そう思ってくださる領主様って、本当に少ししかいないのね。」

 うん、ま、それも想定内。

 もともと、領主たちは、自領地のために、ナティが必要であって、ナティ個人に惚れている訳ではない。

「それにね、もっとひどい領主様もいたの。」

「うん、どんな?」

「あのね、私に「子どもをたくさん産ませて、何人か売れば財政も潤う。」って、そんな事を言った領主様がいたの。」

「うわ~。それはひどい。」

「ええ。私、それを聞いたとき、すごく怖くなって……。」

 あれだけの領主が集まると、どうしても、ひどいのが混じってしまう。

「そうか、辛かったね。こんなことなら、先に、そういう領主を一掃しておくべきだったよ。」

 しかし、ナティは、首を振った。

「違うの。一番つらかったのは、そういう領主様がいることじゃないの。……私ね、本当は、「何て事を言うんだ!」って、私のために怒ってくださる領主様がいるものだと信じていたの。でもね、「ひどいことを。」って呟いた領主様が一人いただけで、誰も怒ってくださらなかったの。ね、おかしいでしょ? 私のために怒ってくれたのは、ユーリだけだったのよ。」

「?」

 思いがけずユーリの名前が出て、クイは、後ろを振り返った。

 ユーリは、話しかけるな、とでも言わんばかりに、そっぽを向いている。

 代わりに、武勇伝を語ったのは、ナティだった。

「あのね、ユーリったら、すごいのよ。ユーリはね、その領主様の前にやってきて、キッて睨みつけてね、その領主様がひるんだところに、バッと胸ぐらをつかんでね、テーブルの上にバーンって、投げ飛ばしてくれたの。ね、かっこいいでしょ?」

「お~! ユーリ、すごい!」

「他の領主様たちもね、まさか、そんなことをするとは、思っていなかったから、すごい騒ぎになったのよ。」

 ついでに機嫌も直してくれないかな、と、クイは、大げさに手を叩いた。

「よっ! ユーリ、かっこいい!!」

 ただ、妙に途中から詳細だな~と思っていたら、ユーリが、大きくため息をついた。

「はぁ~。」

 ユーリは、疲れたように首を振った。

「あの時、ナティと目が合ったりしなければ、つまみ出すだけで済んだのに……。」

「……あ~。」

 ということは、ナティをテーブルクロスの下から逃がすために、あえて騒ぎを起こしたのか。やりたくもない騒ぎを起こし、それを無駄に褒められて、ユーリがそっぽを向いていた理由が、今になって分かってくる。

「……なんか、ごめんね、ユーリ。」

「別に、お前が謝る事じゃない。お前の悪行に比べれば、大抵の事は些末さまつな事だ。」

 若くして悟りを開いたか。クイが思わず、

「ごめんね、迷惑ばかりかけて。」

と謝ると、そのやりとりが、なぜか、ナティのかんさわった。

「ユーリ、私の事は構いませんけど、クイ姉さまの事を、いつまでも悪く言うのはやめてくださらない? クイ姉さまは今や、国王軍に入られて、立派に頑張ってらっしゃるのよ。」

「は?! ウテリア領に追い出されたのを、国王軍に拾われただけだろう?」

「んが!」

 まるで、見てきたかのような……。

「そうなの? クイ姉さま。」

「わ、私の事はいいから……。」

「やはりな。クソ女は、クソ女だな。」

「な、なんですって!」

「ナティ! やめて~!」

 実は、こういう小さな衝突は、二人の間に頻繁に起きる。

 二人とも、周囲の高い期待に応えてきた自負があるせいか、どうも、性格が合わないらしい。けれど、最近は、それだけではない、ということが分かってきた。たぶん、二人の不仲は、クイのせいだ。二人は、「クイの事をどう思うか。」という一点において、未来永劫、分かり合えない立ち位置にいる。


 ちなみに、ユーリが、クイを嫌いになったのは、五、六年ほど前の事だ。

 クイが「珍しいお花を見せてあげるよ。」と、自分だけの秘密の場所にユーリを誘ったのが始まりだ。ユーリは、それを、ルルト家にある温室か何かだと思って、よそ行きの格好でルルト家にやってきた。しかし、ユーリが連れて行かれたのは、なぜか、外界の奥地だった。

 ユーリは、そこで、一生お目にかかることはないほどの珍しい魔草の花を見た。が、ユーリが、それに感謝することは、一度もなかった。その後、二人は、魔獣の群れに遭遇し、ユーリは、クイとはぐれてしまったのだ。

 そして、二日後、ユーリは、クイが呼んできたアムイリア領軍によって、無事保護された。幸運にも、ユーリは、かすり傷程度の怪我で済んだが、かなり恐ろしい目に合ったのだろう。以降、ユーリは、クイのことを「クソ女」と呼び続けている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ