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名家の令嬢が嫁ぎに来ました。3  作者: 木っ端ミジンコ
第四章 リリビア領二日目・デート
21/53

4-4

 突然泣き出し、さらには、怯えるようになったクイに、オレリアスも、まずいと思ったのだろう。オレリアスは、クイの腕をつかんで、出口の先へ連れて行くと、

「あそこに、アムイリア領軍が見えるだろう? 必ず、そこまで無事に連れて行く。だから、そんなに怖がらなくていい。」

と、眼下の景色を指差した。

 外の明るさに目が慣れてくると、木々の合間にアムイリア領軍がいる詰め所が見えてくる。思ったより、ふもとの方に出てきたようだ。

 振り返ると、さっきの出口は、もともと人が出入りできないように塞がれていたのを、オレリアスが壊して通れるようにしたらしい。

 本来は、上部に鉄格子を入れ、通風孔としての機能を残し、あとは、木の板で塞いであったのだ。しかし、その板のほとんどが、腐ってしまっていた。たぶん、長い年月、放置されていたのだろう。

(これって、シャルルの職務怠慢なんじゃ?)

 そういった場所がリリビア山にいくつもあるのなら、盗賊がどこから侵入したのか、調べるのは難しい。

 

「俺はオレリアスだ。クイの婚約者なんだが、クイから俺の事を聞いていないか?」

 クイが頷くと、オレリアスは、ホッと胸をなでおろした。

「そうか。なら、今から言う事をアムイリア軍将に伝えてほしい。いいかい? ここに盗賊を引き入れたのは、リリビア領主だ。」

「!?」

「だから、アムイリア領軍と合流したら、すぐにリリビア領を出て、国王直轄地を目指すんだ。」

「どういうことですか?」

 声を出した瞬間、オレリアスの顔色が変わった。

「お前、クイか?」


(うおおおお。)

 心臓が止まるかと思うほど、クイは驚いた。

 まさか、一瞬で気づかれるなんて。

 クイは焦った。

「ち、違います。クイ姉さまとは、声が似……。」

「顔を見せろ。」

 ますます怪しいとでも思ったのか、オレリアスが、結界士のローブを掴む。

 クイは、バッとローブの裾を押さえた。

「や、やめてください。」

 クイは、ローブの裾ごと、顔を隠すように伏せた。

(どうしよう、どうしよう。)

 このまま正体がバレたら、最悪の結果が待っている。

(どうしよう、どうしよう。)

 焦りに焦って、クイは、苦し紛れの嘘をついた。

「しょ、瘴気で、肌がただれてしまいます!」

 瞬間、オレリアスは、パッと手を離した。

「すまん、悪かった。」

 結界士が瘴気に弱いのは、周知の事だ。クイが特別、異質であるだけだ。

「すまん、本当に悪かった。」

 オレリアスは、何度も謝りながら、震えるクイの背をさすった。

「もう、ローブを取ったりしないから、許してくれ。」

「……。」

 そっと、顔を上げると、オレリアスが困った顔で微笑んでいる。

「立てるか?」

 クイは、黙って頷いた。

 危機は去ったのに、嘘をついた罪悪感が、クイの心に、ずしりと重く残っている。


「まだ走れるな?」

「はい。」

「では、お前は、俺の前を走れ。追手が来ても、俺が片付けるから、アムイリア領軍のところまで、振り返らずに一気に走れ。」

 オレリアスの提案に、クイは首を振った。

「……でも。」

 オレリアスの前を走ったら、後ろ姿でバレそうだ。

「あ、あの、厚かましいお願いなのですが、私はもう大丈夫です。私一人で、アムイリア領軍のところまで行けます。だから……。」

 オレリアスとは、ここで別行動をしておきたい。

「お願いです、シャルル様を助けてください。」

 途端、オレリアスの表情が険しくなった。

「俺は言ったよな?」

 リリビア領主は、盗賊と通じている。

「でも! あの方は、体を張って、わたくしを助けようとしてくださいました! あの方は……。」

「言うな!!」

 大声をぶつけられて、クイは息をのんだ。

 オレリアスが怒っている。

 その怒りが、じわじわと、クイの中に染み込んできた。

「……ご、ごめんなさい。」

 クイが震えながら謝ると、オレリアスは、大きく長く、息を吐いた。

「……すまん。……大声を出して、悪かった。」

 そして、もう一度、大きく息を吐くと、

「……分かった。分かったから、怯えないでくれ。俺も、あの男に訊きたいことがあるから、あの男の事は引き受けてやる。」

と、クイの申し出を受けてくれた。

「ありがとうございます。」

「だが……。」

 オレリアスは、辛そうな顔でこちらを見ていた。

「もう二度と、その声で、あの領主の肩を持たないでくれ。」

「……?」

「お前の声は、クイに似すぎている。」


 オレリアスの大声に反応したのか、坑道の奥から人の気配が聞こえ始める。

 オレリアスは、腰の大剣に手をかけた。

「さあ、行け!」

 クイは頷くと、アムイリア領軍のいる詰め所に視線を向けた。

「はい。」

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