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魔術学院に通うルナリアの日常  作者: 天木小太郎
1/6

先輩と竿

 窓から、リリリ……と、か細い秋の虫たちの囁きが聞こえ、涼し気な風が室内に流れ込んでくる。


 夏の熱気はすっかり後姿を見せ、彩り豊かな落ち葉がところどころ地面を覆っている。このまま窓を開け放しておける時期もそろそろ終わりだろう。


 そんな季節の移ろいを感じる中で、畳敷きの狭い和室で質素なちゃぶ台を囲み、私と先輩は向かい合って、それぞれ一杯の茶碗を熱心にかきこんでいた。



「ハムッハフハフ、ハフッ!!」

「ちょっと、そんなに慌てて食べて喉に詰めないで下さいよ、先輩」

「ガシャガシャ、ぐァつぐァつぐァつ!」

 聞いちゃいない……。


 私の里に伝わる、秘伝のバター醤油猫まんまを食べ終わり、朝から何も食べていなかった私と先輩は、ようやく人心地つく事が出来た。

「はひー、美味しかった」

先輩は行儀悪くスプーンを口にくわえたまま、口の端から器用にぽひ~とため息をついた。

「ね、言ったでしょう先輩。意外と美味しいって」

 先輩の口からスプーンを取り上げて、米粒一つ無くなった茶碗と一緒に流し台にもって行く。

 もちろんめんどいので洗うのは後回しだ。そのまま台所の水桶に水を張って適当に漬けておく。

「確かに美味い、バターライスってこんなに美味かったんだな。バターと醤油がめちゃくちゃ合う」

 私が流しから戻り、いつもの定位置に胡座をかくと、先輩が人の太ももを勝手に枕にしてきたが、もう慣れたモノなので、そのまま近くにあった読みかけの本を手に取り、適当に先輩に相づちを打つ。

「でしょう、鰹節が決め手なんですよ。これに魚卵とか入れても美味しいです」

「今度やってみたいけど魚卵は高く付きそうだな」

「この辺だと高いですからね~」

「見た目的に敬遠してたけど、安くて高カロリーなのは助かるな、この食べ方」

 年頃の少女二人が囲む食卓としては完全に間違っているが……。

 はぁ、親元を離れても規則正しい生活が出来るとか思っていた私は、なんて浅はかだったんだろうな……。


 バス、トイレ、キッチン付き、六畳間の二人部屋。

 ここは私が通っているバイストリア魔術学院(マジックアカデミー)の女子寮、ヒルデガルド寮の一室。

 私、クルーエル=ヴァンナとシロナ先輩が一緒に暮らしている部屋だ。

 他と比べると安めの寮費で風呂、トイレ完備、門限ナシと聞いてここに決めたけど、値段相応にボロっちい、大層な名前とは逆に、オシャレさとかは皆無の良くある学生寮だ。

 ……ちなみにヒルデガルド寮の向かいにある男子寮、クリシュトフ寮は去年建て替えられたばかりで真新しく、オシャレなカフェなんかもある人気の寮だ。一応男子寮には女子も入ることが出来るので(カフェも利用できる)、先に男子寮から改装されたらしいが、今年からこの寮に入った身としては、何か納得がいかないモノがある。


「――でもこれ最後のコメなんですよね」

「そうだよ。クルーエル、お前後いくらある?」

「三ガルドと二〇セン、踊る火トカゲ亭のカエルのカラアゲすら、もう頼めないですよ。先輩は後いくら残ってます?」

 私より小さな背丈に、これまた幼い顔つきをした、どう頑張っても私より年下にしか見えない先輩は、桃色がかった銀髪を揺らして私の膝枕からぴょんと跳ねて起き上がると、壁に掛けてあった学園指定のローブのポケットをまさぐって、表面がハゲてボロボロの革袋(サイフ)を取り出した。

「四二センだ。二人合わせりゃあカラアゲ頼めるな」

 幼い八重歯を見せて、ニカッと目を細める。

 ツリ目がちでいつも機嫌の悪そうな顔をしている先輩だが、こうして笑うとかなり可愛い。顔だけは……。

「二人合わせりゃっていうか、九割私ですけどね……」

「何ぃ? お前、先月ボード亭の野菜カレー奢ってやった恩を忘れたのか」

「ここでその話を持ってきますか……」

 こないだ本屋街の裏通りでめちゃくちゃおいしいカレー奢って貰ったんだった。あれ結構いい値段したもんなぁ。野菜がゴロゴロ入っててチーズもたっぷり入ったスパイシーなカレー……、思い出すだけでヨダレが出るよ。

 ……と言うかバイトの給料日まで後七日もあるのに、カエルのカラアゲ位しか買えないような小銭でどうやって私達生きていくんだ。

 ダンボールとかかじるハメになるぞ、このままじゃ。

 そんな私の心配を他所に、先輩は革袋(サイフ)を必死で逆さに振っている。ちゃぶ台の上の四二セン以外には、もう埃しか出てこないというのに。――というかどうやら本当に中に溜まった埃を掃除しようとしてるようだ。ぱたぱたとちゃぶ台の上に埃を落っことしている。

 ――汚いなぁ。

 先輩の落とした埃をちょいちょいと集めてゴミ箱に捨てつつ、ふと思いついた事を聞いてみる。

「先輩のバイトって前借りとか出来ないんですか?」

 店長とかと仲良くなると、多少その辺を融通を利かしてくれたりするとかしないとかいう話を聞いたことがあるような。ダメ元でなんとか聞いてもらえないかな。

 ちなみに私のバイト先は、面接の時に前借りはできないとキッチリ説明されている。

「もう一〇〇ガルド前借りしてんだよ……」

「はあぁー!? どんだけ生活力無いんですか! あと一週間あるって言うのに前借り分まで使っちゃうなんて」

 ダメ元どころかダメ人間じゃねーか!

「うるさいなぁ。研究の材料とかで使っちまったんだよ」

「先輩って錬金術専攻してるんでしたっけ? そんなにお金かかるんですかぁ?」

「そうだよ。太古に失われたホムンクルス精製技術を解き明かして、ウハウハ生活するんだよ。そのための先行投資だ」

 ――はるか古代に栄えたと言われる魔導文明『マギア・ルプス』では、人造の人間であるホムンクルスを労働力として用いていたという文献が散見されているようなのだが、現代において失われてしまったその製造方法は、今日まで解明されてはいない。もしもそんなもんが解明できたとしたら、それはもう間違いなく値千金の大発見であろう。

「ウハウハ生活って……、そんな夢みたいな事ばっか言ってないで、現実を見ましょうよ」

「お前にゃ見えてんのかよ」

「うっ、……もう早速、精霊術の授業について行けそうにないです。宮廷魔術師の夢がどんどん遠ざかって行ってます」

「精霊術が使えない奴に、宮仕えは勤まらんわなぁ」

「ノームもシルフも、私の言うこと聞いてくれないんですよ……」

 精霊術というのは精霊たちに働きかけて魔術を行使する術法なのだが、今後の魔術師人生が心配になるくらいうまくいかない。

「お前は魔力の練り方が雑すぎるんだよ。イメージが大事なんだぜ、精霊術は」

 そう言いながら、埃を掃除し終わった革袋をローブのポケットにしまい、先輩はすっくと立ち上がった。

「え、どっかいくんですか?」

「とりあえず今目の前にある現実、食糧問題を解決しないことにはな。今から工藤のとこ行って釣り道具を借りに行くぞ」

「釣りですか、工藤君釣りなんかするんですね」

「アイツの部屋に竿が置いてあるの前見たんだ。それ借りて大物を釣れば食糧問題は一気に解決するぞ」

 偉そうに言うと、ローブを適当に羽織ってすたすたと玄関の方へいってしまう。そんな簡単にいくかね。

「ま、待って下さいよー。っていうかローブの下シャツとパンツだけですよ先輩! せめてジーパンかなんか履きましょうよ」

「いいよ別に」

 よくないよ。一歩間違えば痴女だよ。


   ***


「……うー、やっぱローブだけだとちょっと寒いか」

「だから何か着ろって言ったのに~」

 日が完全に落ちてしまうとやはり肌寒い。弱々しい魔晶石の街灯が通りをぼんやりと照らしているが、他人行儀な青白い光がどこか寒々しい。駅から少し離れているせいか、この辺りには人通りがほとんどない。

「風邪引く前にさっさと済ませよう」

 工藤君は向かいの男子寮に住むオルグという種族の学生だ。筋肉質で牙もあり見た目はなかなかに恐ろしいオルグだが、工藤君は私たちルナリアにも紳士的で優しく、いつも何かと助けてくれる好青年なのだ。(さっきのバターも工藤君から貰った)

「工藤にはこないだ論文の原稿手伝ってやった貸しがあるからな、釣り道具ぐらい貸してくれるだろう」

「え? その貸しさっきバター貰った時、既に使ってませんでした?」

「いや、バター程度でチャラになったと思って貰っては困るな」

 ……マジか、これからは先輩に頼み事するのは極力避けよう。

「ていうか私魚釣りなんてやったことないですよ、そんなにポンポン釣れるもんなんですか?」

「小さい頃パ、……親父と一緒に釣りに行ったことがある、そん時は親父と合わせて五〇匹以上釣れた」

「なんて魚です?」

「ハゼとか言ったかな。お前みたいなツラした魚だよ」

「えー、めっちゃ可愛いじゃないですかその魚。食べるの可哀想ですね」

「そだね」

 冷たい視線と機械的な返答が帰ってくる。冗談なのに……。

 今の反応でそのハゼってのは、そんなに見栄えする顔じゃないのがよく分かった。

「でもそんなに釣れるなら、一週間くらい楽勝で食いつなげますね!」

「ちっちゃいから五〇匹くらいすぐに食べきっちゃうよ、それに流石に一週間もハゼだけ食って暮らすのはどうかと思うが……」


 二人でくっちゃべっている間に、工藤君のいる男子寮の前についた。男子寮の入り口は最近出来たばっかりなだけあって、ガーデン風の門戸がとてもキレイで明るい。ここだけでも女子寮と取り替えて欲しいわ。

 門を抜けてすぐ左手には、誰でも利用可能な無駄にオシャレなカフェがある。もちろんこの時間にはもう閉まっている。ちなみに私はまだ一回も入った事がない。

 一階の廊下を一番奥まで行った、一〇八号室が工藤君の部屋だ。

 扉の前に着くなり先輩はコココココンとリズミカルにドアをノックする。この下品なノックは先輩くらいしかしないので、一発で誰が来たか分かるという利点があるとかないとか、どうでもいい話がある。


「工藤ー、いるかー」

「さっきバター貰いに来たばっかりじゃないですか、流石にいるでしょう」

 しかし予想に反していくら待っても工藤君は出てこない。先輩は再び遠慮無くノックしまくる。

「……ドアの向こうで何の気配もないな」

「確かに」

「出かけたか?」

「かもしれないですねぇ」

 先輩がふとドアノブに手を掛けると、そのままガチャリとドアが開いた。なんて不用心な。

「鍵空いてるな」

「勝手に入ったら怒られるんじゃないですか?」

「あいつはそんなタマじゃねーだろ。寒いし中で待たせて貰おうぜ」

「そうしますか」

((おじゃましまーす))

 なぜか二人とも声を潜め、大きな音が鳴らないように、ドアノブを回しながら、ゆっくりとドアを閉めて中に入る。

「エロ本とか探そうぜ」

「ベッドの下とか見てみましょう」

 二人でヒソヒソと悪巧みをしながら、さほど広くないキッチンをそそくさと通り、工藤君の部屋に入る。

「女騎士の陵辱本とか出てきたらどうする」

「あっは、ありえますね。オルグと言えば女騎士ですよ!」

「クッ殺っつってな」

「そうそうクッ殺」

「見つけたら机の上に置いておいてやろうぜ」

「エロ本発見の無言のプレッシャーを与える母親パティーン!」

 工藤君の部屋には以前に一度だけ入れてもらった事があるが、相変わらず几帳面に片づけられている。男の一人暮らしなのにマメな事だ。女子寮の畳部屋の和室と違いフローリングの洋室で私達の部屋よりほんの少し広いみたいだ。

 ここも本来は二人部屋なのだが、ルームメイトが引っ越してきたその日に。工藤君の凶悪な見た目にビビっていなくなってしまったという、残念な事件があり、そのまま工藤くんオンリーの部屋になっている。工藤君タッパもあるし威圧感あるからなぁ……。

 とりあえず隠し場所として、もっとも怪しいベッド周辺から当る事にするか。そう思ってベッドの方を見てみると一枚の写真が枕元に置いてあった。スタイルのいいオルグの女の子だ。恐ろしい牙が生えてはいるが、ぱっと見かなりの美人だ。

「ポルノ写真じゃないみたいですね……あ、もしかして故郷の彼女とかですかね。前なんか言ってませんでした?」

「ポルノ写真てお前……、って乳でか! オルグは巨乳が多いっつーけどこんなの見たことないぞ」

 きっと工藤くんが寝る前にいつも眺めているのだろう、そんな大事そうな写真を指紋でべたべたにして、次は探索の本命ベッドの下だ。先輩が手を突っ込んで漁る。

「なんかありました?」

「いや、何もねえ」

「なーんだ」

「まぁ、一人部屋なのにわざわざ隠すとも思えないしな、むしろその辺に無造作に置いたりしてないか?」

 先輩が指し示すテーブルの横の雑誌の束を漁ってみるが、漫画雑誌とファッション誌くらいしか無い。クソッ。オルグが何でシコッてるのかめっちゃ興味合ったのに! どこにもオカズが無いぞ……!!

「ええー、エロ本持ってないとかあり得ます?」

「お前ですら一冊隠してあるのにな」

 ――な、なぜ先輩がそれを? バレていたのか!? 先輩の背じゃ絶対届かない本棚の一番上に隠してたのに! っていうかこのままエロ本が見つからなかったら、男性であり見た目凶悪なオルグの工藤君より、女性であり見た目可憐なルナリアの私の方が性欲が強い事になりそうでなんか嫌なんだが!!

「……ちなみに私は持ってないからな。このむっつり垂れ耳」

 えっ……、もしかしてこの世界でエロいのは私だけなの……?

 私が先輩の言葉に動揺していると、キッチンのほうから横戸の開くガラガラッという音が聞こえてきた。そして、私達はようやく気がつくことが出来たのだ。


 工藤君はどこにも出かけてなんかいなかったということに。

 そう……ただ『お風呂』に入っていただけということに。


「っぷぅー、さっぱりしたー」

 ぷひゅーと息を吐いて、気持ちよさそうにタオルで頭をゴシゴシと拭きながら全裸で現れた工藤君を見て私と先輩は凍り付いた。

 そしてタオルで顔をぬぐい終わり、私たちの姿を発見した工藤君もこれまた凍り付いた。

「え、……ちょ、な……」

「あ、あああの」

「そ、そそその」

「ななな、え? ちょお、ななな、どど、どっから入ったんですかー!!」

 と叫びながら、なぜか胸を隠して慌ててキッチンの方に逃げ込む工藤君。

 いや下を隠せよ。チ○コを。そのブラブラと揺れてるデカイのを。

「あ、あの、ごめんちょっと釣り竿貸して欲しくて……」

「留守かと思ったんだけど、鍵が開いてたから中で待ってようかなって……」

 弱々しく、勝手に入った言い訳をしてみたりする。

「ふ、二人ともみみ、見ました?」

 キッチンの方から顔だけ出して工藤君が聞いてくる。

「み、見てないよ? なぁ」

「……え、ち○ちんですか?」

「おいバッ、黙ってろ! 余計なこと言うんじゃねー!!」

 つい口走ってしまい、先輩の肘が良い感じにみぞおちに入る。

「うごふッ」

「見てるじゃないですかー!」

「見てない! 見てないよ!」

「み、見てないです……」

 もちろんばっちり見たが、二人で首をぶんぶん振って否定しておく。

「と、とりあえずパンツ履けよ」

「あのパンツ! そっちの……、そっちの部屋の小さい白いタンスの、一番下にパンツあるんで、放り投げて貰って良いですか……」

「あ、パンツこっちにあんのか……」

 白いタンスの引き出しを開けると、めっちゃ丁寧に畳まれたパンツが中にみっしりと詰まっていた。どんだけ几帳面なんだ。先輩なんか履けるパンツが無くなるまで洗濯しないんだぞ。

「ど、どの色が良い?」

「なんでもいいですよ!」

「ちょ、先輩これ可愛くないですか? このドンキーマウスのパンツ。これにしましょうよ」

「なんでもいいですから!!」

 キッチンの方へパンツを放ると、正面にドンキーマウスのプリントされたボクサーパンツ一丁で、工藤君は顔を真っ赤にしながら出てきた。

「で、何のご用ですか……?」

「いや、だから釣り竿貸して貰おうかと思って……」

「もしかして工藤君怒ってる?」

「いや怒ってはないですけど、こちらこそ見苦しいとこお見せしちゃって申し訳ないです……」

 優しすぎる、やはり工藤君は紳士だと言うことが証明されたな。


 いそいそと着替えながら、工藤君は竿を見せてくれた。もちろん釣りをする方の竿だ。勘違いしてはいけない。

「バス用のロッドしかないですけど、何釣るんですか?」

「食える魚なら何でも良い」

「何でも良いって、……決まってないんですか」

「私たちでも釣れるような、簡単な魚って無いかな?」

「うーん今だったらスズキとかなら釣れるかなぁ、スズキだったらワイズの運河とかで釣れますよ」

「ダメだ、遠い。汽車に乗る金は無い」

「じゃどの辺で釣るんです……?」

「アカデミーの裏のでかい川でなんか釣れないのか?」

「あの辺普通にモンスター出ますよ? 弾丸魚(バレットフィッシュ)とかいるんじゃないかな……。危ないと思いますけど」

「え、アカデミーの裏にある川って、モンスター出るんですか?」

「川まで行かなくても近くの林とかに普通に出ますよ。そこまでヤバイのは流石に出ないと思いますけど」

 どうなってんだアカデミーは、危険すぎる……。

弾丸魚(バレットフィッシュ)って食えるか?」

「いやぁ、ちょっと食べたことないですね……。頭硬いから調理が大変なんじゃないですか」

「よーし、明日は朝から弾丸魚(バレットフィッシュ)釣りだ! 釣れ過ぎちゃったらお裾分けに来るからな」

 にかっと八重歯を見せて先輩が偉そうに胸を張る。完全に弾丸魚(バレットフィッシュ)を釣る気満々だ。あんまり美味しそうじゃないんだけど……。


 工藤君はついでにルアーやらバケツやらも貸してくれた。

「あの弾丸魚(バレットフィッシュ)は別にいらないですからね」

「いっぱい釣ってくるからな」

 工藤君の不安そうな声なんか聞いちゃいない先輩は、バケツを担いですたすたと女子寮へ戻っていく。

「本当にごめんね」

 不作法な先輩に代わりもう一度謝っておく。

「いや良いですよ。鍵開けっ放しにしちゃったのは僕ですし、見苦しいとこ見せちゃってすみませんでした。じゃあ、明日がんばって下さいね」

 勝手に部屋に侵入されて家捜しされて、おまけにち○ちんまで見られたというのに、なんていいオルグなんだ。私も工藤君におやすみを言って先輩を追いかけた。


   ***


 女子寮までの短い道のりで、私たちの口を衝いて出たのは工藤君のブツの感想だった。

「しっかしよー」

「大きかったですね」

「ああ、そら女騎士もクッ殺するわ」

「竿借りに行ってサオも見ちゃいましたね」

「やかましいわ、ドヤ顔やめろ」

「あれ戦闘形態になったらどうなっちゃうんですかねえ」

「あれでマックスじゃないってのがビビるな」

「ドンキーマウスの鼻が歪んでましたもん。ずっと見てましたけど、どうやってあのパンツ中に収納されてるのかめっちゃ気になりましたよ」

「どんだけ興味あるんだよ、お前……、そこまでガン見するのは流石にヤメたれよ……」

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