【第56話】王侯貴族の戒め
王都で1・2を争うほど大きな魔道具店『キノクニヤ魔道具店』。
そこに陳列されている異空間倉庫指輪を見ていると、アーシャさんが話しかけてくる。
「異空間倉庫指輪、やっと王都にも並ぶようになったんですね。」
「どうしたの?この魔道具が何か?」
僕は、すっとぼけた感じでアーシャさんに聞いた。
「この魔道具なんですが、1か月ほど前に遠く辺境の地『パリダカ』でお披露目されたのち、瞬く間に王都まで噂が広がったものなんです。
そして、昨日の事だっかな?
この魔道具を制作した『流れの魔導具職人』が、いきなりやってきて王都の商業ギルドに卸したらしいんです。
ギルドでは、商人さんの争奪電があって、ここに並んでいるんですが・・・・。
1個王金貨250枚・・・・。
私のお小遣いでは買えませんし、親におねだりできる金額でもありませんので諦める事にします。」
そんな会話を楽しみながら指輪を見ていると、神殿で出会ったあの集団が再び現れた。
「そこにいるのは、貧乏貴族のイエローネイル家の貧乏令嬢じゃないですか。それとそちらにいるのは、・・・・先ほど、高貴な僕たちを馬鹿にしていた下賤な平民のお嬢さんたちですね。
貧乏人が、高価な魔道具の前で何をしているんですか?」
人を小馬鹿にしたように、高圧的な上から目線で話し出すバカさん5人組。たかが伯爵や侯爵の息子や娘、それも嫡男でもない者たちが、そこまで偉そうな態度をとってもいいのだろうか?この国では、『貴族の家系』というだけで、そこまでの権力があるのだろうか?
「え~~~~っと、ワトソンさんから聞いた家名は、確か・・・・。
『エンブレハム侯爵家』・『ケリーネス伯爵家』・『トマルベルク男爵家』・『アードック伯爵家』・『ポーツマルク男爵家』でしたか?
この国で、その家名が何処まで権力があるのかは知りませんが・・・・。たかが学生の身分で、国の要職にすら就いていない者たちに、・・・・どれほどの権力があることやら。
それに、お互いまだ名乗りあっとぃませんよね?
あっ!!そうそう。
あの場にいた人たちの中で、君たちの言う『権力持ち』が数人いましたが・・・・。誰の事だか知っていますか?」
少し棘のある言葉で、チクチクとイジメる僕。あの時に態度から察するに、誰がどんな権力を持っているのかは知らないと見た。
そういえば、名前すら知らないのだ。
貴族だから、下賤の民に名乗るななどないと思っているのだろうか?
まあ、どうでもいいけれど。こいつらの親には、明日か明後日当たりの謁見で会えるだろうから、その時にチクっと小言でも言っておこうかな?
まあ、いい。
「ところで、名前も知らない貴族の坊ちゃんたち?
あなたたちは、この魔道具がほしいのですか?
もし購入予定があるのなら、王金貨250枚、何処から出てくるんですかね?たかが子供の小遣いで、そこまで出している親がいるんでしょうか?」
意趣返しではないが、金額を前面に出して少し煽ってみる僕。
「そういうお前は、王金貨250枚出せるのか?俺たちとあまり歳は変わらないみたいだが・・・・。」
僕の煽りに食らいついてくる、何処かの貴族の坊ちゃん。そろそろ名乗ってほしいところだが、あえてそのあたりはスルーしている。ちなみに『世界樹の魔眼』で、すでに五人のステータスは、僕に丸裸にされているのだが・・・・。別に言わなくてもいいことだ。
「見た目で判断すると、痛い目にあいますよ?
僕にとっては、王金貨250枚は、ぶっちゃけますとはした金です。このお店にあるすべての魔道具を購入しても、1割くらい資産が減るだけでしょうね。」
「貴様のような下賤の類が、そんな大金持ち合わせているわけないだろ!!」
「だ・か・ら!!
見た目で判断してはだめだと言っているでしょ?
それに、君は『僕の事』、何を何処まで知っているんですか?未だに、僕の名前すら知らないくせに。」
煽りには、煽りで返してあげます。
「なんだと!!俺は、ケリーネス伯爵家三男カイバル様だぞ。貴様ごとき下賤など、ケリーネス伯爵家の手にかかれば、銅とでもできるんだぞ!!」
言ってはいけないことを、カイバルという男の子が宣言してしまいました。僕は、たしなめるようにはっきりと、現実を直視するように話してあげます。
「先ほども申し上げていますが、貴族の三男如きのあなたは、何の力もなければ、僕を拘束する権限もないんですよ?
貴族としての権限を持っているのは、あなたの父親であるケリーネス伯爵ただ1人です。それ以外の家族は、たとえ嫡男でも伯爵家の力を使うことは禁じられています。これは、ワトソンさんから聞いたことなので確かな事です。
そうそう。
あなたたちが神殿で糞ジジイ呼ばわりしたワトソンさんですが、『アパランチア辺境伯爵』という役職を貰っている貴族様ですよ?
ワトソンさんはとってもお優しい方ですので、少々のことならば水に流してくれますが・・・・。あなたたちが大好きな身分で言えば、侯爵と同等となります。その名を示す通り領地持ちでもあります。
さらに言えば、あなたはただの学生であり、このキシュウ王国の官吏ではありません。
それとも、官吏の登用試験に合格して、国から何か役職でももらっているんですか?
ケリーネス伯爵家三男のカイバルさん?
あなたは、公衆の面前で代紋を名乗った以上、その名乗った代紋に対して責任を持たないといけなくなりますが、代紋を背負う覚悟あって名乗った事なんですか?」
最期に僕が話した事は、ワトソンさんから聞いたことの受け売りだ。
ワトソンさん曰く、過去の歴史において、貴族とその家族が、|小説などの設定みたいに(テンプレのように)貴族特権を振りかざしていた頃があった。
それは、とても酷く、自分たちの生活のために、民に重税を課すのは当たり前。
ひどい貴族になると、息の仕方が気に食わないと言う理由で処刑をする始末。
王族から下級貴族まで、口を開けば不敬罪というほどに荒れた時代があった。
そんな民を虐げるような時代は、長く続く事はなく、一斉蜂起した民により王族が処刑され、その後近隣国であるセンシュウ王国から攻められて、貴族たちは一族郎党みな処刑されていく。
その後、滅ぼした国から来た代官が、新の王となってキシュウ王国は再興される。その際新王となった今の王家の初代は、前王朝の反省を生かして王侯貴族に3つの戒めを設けた。
この戒めは、キシュウ王国が始めたものであり、旧宗主国に最初に広がり、瞬く間に大陸全土に広がっていったという。そして現在では、一部の共和制をとる国を除き、すべての国家で通用する戒めになっている。
その戒めこそが・・・・・。
『貴族特権を持つのは、その爵位を持つ者に限る』
『親族の者が家名を名乗った場合は、その代紋にふさわしい言動をする事』
『親族の中に、家名を貶めた者がいた場合は、その爵位を剥奪する』
実際に、新世キシュウ王国が誕生してから500年ほど経つが、その歴史の中でこの戒めによって爵位が剥奪された貴族家が100家ほどあるらしい。初期の50年間が一番多く、最近では20年ほど前に剥奪された貴族家があったそうだ。
「今ならば、ごめんなさいするだけで、あなたが言った言葉を『なかった事』にしてあげますが・・・・。
これ以上続けるつもりがあるのでしたら、それ相応の覚悟を持ってくださいね?」
最後通告ともいえる言葉を、僕は5人の目をゆっくりと見ながら伝える。
小の5人が、ここで何かの理由をつけて、僕たちを殺そうが拘束しようが、それを行った時点で、5人の家がこの世からなくなる事が確定している。
代紋を背負うとは、そういうことなのだ。
そんな重たい代紋を、好き好んで背負いたいと思う者などはいないだろう。何の覚悟もなしに、代紋を名乗るべきではないのだ。
さて、この5人は、どう出るかな?
「これに懲りたら、2度とこんなくだらない真似はしないでおくことね。
貴方たちが持っている家名・・・代紋は、ひとたび名乗れば、とても重く冷たい責任が、その肩に圧し掛かる事になるんだから。
代紋を名乗る時は、その事に気をつけなさい。
名乗らなければ、ただのじゃれあい程度で流してくれるんだから。
少なくとも僕はね。」
踵を返して立ち去った5人を見送った後、僕はアーシャさんにとあることを尋ねた。
「ところでアーシャさん、この魔道具がほしいの?」
「そしゃあ、ほしいに決まっています!!
これがあれば、討伐した魔物の素材を諦めないで済みますし、何よりも荷物の心配がなくなります。冒険者として活躍しているときや、学園での遠征時では、少しでも荷物を少なくするために、着替えとか食料品を必要最低限に抑えないといけないんですよ!!」
「ああ。僕はそんなことなかったな・・・・。」
つい、そう呟いてしまった僕。
「何でですか?冒険者ならば、たくさん荷物があるはずですよね?何か、裏技でもあるんですか?」
その呟きに、憤るアーシャさん。
「僕、時空間属性持ちだから。異空間倉庫の魔法が使えるんだよね。だから、普通の人が、どうやって荷物を工面しているのかを知らないんだ。」
「ずるい!!」
まあ、そうなるよね。だから、ここで1つ提案をしてみる。
「1か月後に開かれる、国王様の誕生日記念の武闘大会で、君が上位の成績を収めたら、僕から異空間倉庫指輪をプレゼントしよう。もちろん、五色旗戦隊『グリフォンジャー』全員分プレゼントする。
どう?
この勝負。受けてみる気はある?
今のままじゃたぶん無理だろうから、僕の特訓を受けてもらう事になるけど?」
アーシャさんは、僕のこの鬼畜じみた提案を受け入れたのだった。




