【第53話】領主様からの指名依頼(その2)
少しダンジョンで遊びすぎてしまい、領主様のお屋敷に到着したのはお昼ご飯というよりは、おやつの時間といったころ。
貴族のお屋敷を訪問するので、それなりの服装を心がける僕とマイカちゃん。
「こんにちわ。」
領主様とあいさつを交わし、適当に雑談をした後、本題の依頼を遂行する。
「では、領主様からの依頼の1つ目をさっそく行ってしまいましょう。
この部屋に、王都のお屋敷へと繋げる『転移門』を設置するということでよろしいですか?」
「ああ。この部屋でいいぞ。」
僕はパリダカから王都へと旅立つ時に、パリダカの領主であるワトソン様から3つの指名依頼を受けていた。
1つ目は、国王様の誕生日プレゼントととして、ドラゴンを2匹贈呈すること。
ドラゴンについては、すでにテイム済みなので、あとは、国王様の許可の元例の空間から呼び出すだけだ。
2つ目は、領主様を王都まで送迎すること。
送迎についてはこれから行うので問題はない。
3つ目は、送迎ごとにもかかわってくるが、王都のお屋敷とパリダカのお屋敷とを転移門で繋げることだ。また、この依頼に付随して、商業ギルドからも同じような依頼を受けている。
ここパリダカは、辺境という言葉を地で行くほど、王都トラディマウントからは距離的にも時間的にも遠い場所だ。文書や言葉でのやり取りは、魔道具があるのでそんなにも不都合な事はないが、人や物の往来となると話が変わってくる。
なにせ、遠すぎるのだ。
僕が使ったルートならば、数日で踏破できる距離だが、一般的なルートで行くならば、2~3か月が余裕でかかる。道中は危険がいっぱいで、当然それ相応のお金もかかるのだ。
それが、危険もなく一瞬で王都まで行けることになる今回の転移門の開通は、この町にしてみれば願ったりかなったりだろう。
さらに、王都側からも手も、この町の周辺やダンジョンで採取されるモンスターや魔物の素材、希少な鉱石類を簡単に手に入れることができる。
「で、トモエちゃん。なんで商業ギルドを抱き込んだんだい?」
「領主様を介して売り買いしてもいいんですがね。それだと、商人さんたちのやっかみが当然出てくるでしょう?
それに、どうせ転移門の事は、どんなに隠していても何時かはばれてしまいます。
その時に、『領主様だけ…』という言葉が、必ず出てきます。
それならば、初めから商業ギルドを抱き込んでおけば、商人さんたちをうまく転がしてくれるでしょう。
これが1つ目の理由。
もう1つは僕のためでもありますね。」
「ほっほっ。確かにな。転移門は、何時かは必ずばれるモノだ。この町でのトモエちゃんお活躍を知るモノならば、誰が設置したかも含めてな。
その時のなれば、確かにトモエちゃんが話した事が起こりうるな。
その時の保険を今かけておいたのかい?」
「そういうことです。」
領主様も、この問題については、よく理解しているようだ。
「そして、もう1つの理由が何かを聞かせてくれるかい?」
「はい。
領主様のお屋敷同士を繋ぐ転移門については、これからどうするかを確定しますが、ギルド同士を繋いでいる転移門については、ギルドとの契約で、人1人につき金貨10枚、荷車1台につき金貨20枚、馬車1台につき金貨50枚、馬車を曳く馬などは1頭につき金貨5枚を、転移門使用量として徴収する事になっています。
この内6割が僕の手元に入ってきます。残りの2割は、ギルド内の土地の使用量となっていますね。
つまり、定期収入を確保したことになります。
既存のルートでパリダカから王都まで行く場合と比べると、平均で1割~3割程度高くなるように設定していますが、利に聡い人ならば利用する事間違いなしですね。」
僕の言葉に、領主様は笑って答えている。さらに僕は、言葉を重ねる。
「この転移門の利用は、あらゆる特権が通用しません。貴族だろうが、王族だろうが、使いたい時は順番に並んでもらい、しっかりと荷物検査もしてもらいます。
どうしてもという場合は、100倍の金額をいただく事にしてあります。
おバカな貴族たちは、強権で転移門を接収しようとするでしょうが、その時は転移門を即座に破棄します。
そうなれば、それをしようとしたおバカさんが顰蹙を買うことでしょうね。なんせ、門の所有者は僕のままで、管理・運用を商業ギルドに委託しているだけですので。
つまり、運用方式を商業ギルドの強権でもって変更させようと強いても無駄です。僕とギルドとの契約ですので、一方的に変更した場合は、ギルドの信用低下につながりかねませんからね。
そうそう。
検査用の魔道具も双方のギルドに設置してあるので、検査の時間は今までの半分以下の時間になっています。」
「そうだな。ところで、転移門を設置した場所から移動させることは可能か?いざという時は、移動させないといけないと思うが?
後、追加で話した『検査用の魔道具』とは?
あと、他の領主たちから、当然設置についての接触があると思うが?」
「転移門の移動は、僕か指定した代行者のみ可能です。ギルド側の代行者については、申し訳ありませんが秘匿させていただきます。そういう契約ですので。
それ以外の者が、無理やり移動した場合は、何処につながるのかは僕にもわかりませんね。
指定した場所同士を無理やり繋げるのが『転移魔法』と呼ばれているモノです。
それは、門の形をとっていても変わりはありません。
そんなモノを、設置したモノの許可なく位置を移動すれば、下手をすれば、この世界ではない何処か違う世界に繋がってしまう可能性さえあります。この世界の中だとしても、『ドラゴンの胃袋の中』という可能性さえあります。
ほかの領主たちとの接触は・・・・、僕の機嫌を損ねない限りは交渉次第ですね。それは、ここと王都以外のギルドに対してもです。
『誰』が設置したのかを調べ、『自らの足で』僕の元に来て交渉していただく必要がありますね。
何らかの手段で僕を呼び出そうとした、もしくは拘束した場合はそこで打ち切りです。交渉するテーブルに着くことすらありません。
僕は一応冒険者です。
さらに言えば、『天空の牙』の一員であり、一番下っ端ですので、パーティとしての決定に従う義務があります。今は、王都にいますが、何時旅立つのかも知りません。そのあたりの事に関しては、僕の与り知らぬ事ですので。
『検査用の魔道具』というのは、これです。」
そう言いながら僕は、万能異空庫から、3種類の『検査用の魔道具』を取り出した。この部屋は、もともと転移門を設置するための部屋なので、それなりの広さがあるので大型の魔道具を取り出しても大丈夫なほど広い。
1つめは、空港などにある検査装置によく似ている装置だ。
検査方法は、この世界に存在しているモノすべてが、遺伝子配列のように固有の魔力パーターンを有していることを利用して、それぞれの魔力を装置を通過する際に検出。指定されているモノが通過した際は警告音が鳴り、空間魔法でもって通過できないようにする仕組みになっている。
この魔道具の前では、荷物の隙間に隠れての通過や、魔法などによる変装状態での通過も見逃さないので、魔力パターンを登録されたが最後、この装置から逃れるすべはなくなる。
今まで使用していた検査機のデータをそのまま引き継ぐことができるので、初期費用を抑えることができる。
この検査機は、簡易的に通過していく者たちを診察して、指定伝染病に罹っているかどうかを調べることも可能である。病原菌となるウイルスや細菌にも、当然のように魔力を有しているので、その魔量を検出するのだ。
2つめは、金属探知機のような魔道具となる。
長い棒状の先っぽに、丸い円盤が取り付けられており、その円盤を地面に沿うようにして進んでいけば、最大深度100mまでの範囲で地下の様子を詳細に知ることができる。
この探知機で調べるのは、地下に造られたトンネルだ。
門を通過するのを嫌う裏の組織が、秘密裏に造ったトンネルを調べるために造った魔道具である。外壁に沿うように調べていけば、何処に穴が掘られているのかがわかる。試しに領主様と共に、パリダカの外壁周囲を調べてみたら、1周する間に、10本ほどのトンネルを見つけることができた。1部のトンネルは、戦争時の抜け道みたいなので別にいいのだが、それ以外のトンネルについては、入り口と出口が特定され、後日、使用していた組織がつぶされたという報告が来た。
閑話休題。
検査機を領主様に渡した後は、転移門についていろいろと取り決めを行っていく。
「では行きましょうか。」
僕は、領主様一家と護衛の皆さんを引き連れて、王都の外に広がる草原へと転移する。そこにはナルシスさんが、王都のお屋敷の使用人さんたちとともに待っていた。
「お久しぶりです。ワトソン様。先日いただいた報告書で、あちらの惨状を把握して心を痛めておりました。」
代表して執事さん?のような壮年の男性があいさつをする。
「現在は復興途中といった感じだ。あと数日あれば、シェングウまで行く街道が開通するだろう。まあ、その前にトモエちゃんが、ギルド経由で転移門を設置してくれたから、滞っていた物資の輸送が本格的に再開できる運びとなった。」
「そのことは存じております。明日の朝に第1便が、王都の商業ギルドから出る運びとなっています。」
そんな業務連絡をしながら、僕たちは王都のお屋敷まで馬車で移動していく。
お屋敷に到着すると、指定された部屋に転移門を設置し、王都とパリダカの屋敷同士を繋ぐ。その後は、国王様の誕生日プレゼントを渡すための謁見の準備をする。
ちなみに、国王様の誕生日は30日後となる。
「ではトモエちゃん。謁見の日取りが決まったら連絡をよこす。泊まっている宿は、『聖女の寄生木亭トラディマウント宿』でよかったな?」
「はい。聖女の寄生木亭トラディマウント宿に部屋をとっております。依頼で留守にしていた場合は、宿の者に伝言をしておいてください。」
「あい解った。」
こうしてドタバタした、王都滞在1日目は終了していった。




