【閑話その4】核テロを興した国の黄昏
トモエたちが転生する原因となった爆弾テロから5年。
テロを起こした軍人さんの所属していた国家は、すでに国土の大半を失い、・・・・現在は半島の南にある島のみが国土となっていた。
あの爆弾テロの後、まずこの国に襲ったのは国交断絶の嵐だった。
もともと、国同士で取り決めた条約すらも、自分たちの都合のいい解釈の元反故にしまくった結果、新条約の締結や改定のたびに、この国に対してのみ特記事項が追加された不平等条約を結ばなくてはいけないほど、国家としての信用が失墜してしまっている。
そこに起こった爆弾テロ。
それも、超小型の核爆弾を使用してしまったことが、世界中の国から反感を買ってしまった。
犠牲者の中に、世界各国の要人がいたことも理由の1つだろう。
国交断絶により、すべての貿易がストップする。
まず初めに被害が出たのが、この国の産業を牛耳っていた財閥だった。
原材料の輸入がなくなり、製品を造っても輸出もできない。需要は国内のみとなり、今まで国民を蔑ろにしていたツケを払う時が来たようだ。
需要がないため、モノを造っても売れない状態が続き、在庫が溜まっていく一方でほとんど売れない。そのため、経費が嵩んでいき、企業を存続させるために借金を繰り返していく。
そこに追い打ちをかけたのが、突如起こったハイパーインフレ。
土下座外交のための外貨獲得のため、無制限に刷られた通貨の影響でインフレを起こしたのだ。通貨や債券は紙切れ以下になり、細々と続いていた生活必需品の輸入価格が、あれよあれよという間に跳ね上がってしまったのだ。
すでに、株式市場は崩壊一歩手前まできており、売り注文ばかりで買い注文が一切ない状態が半年ほど続いている。そのため、取引が成立しない開店休業状態が続いている。
そのインフレ率はすさまじく、朝と夕方の価格が違うのは当たり前。ひどい時になると、視線をそらした瞬間に、価格が10倍ほど跳ね上がるときもある。
まず初めに耐え切れなくなったのが、・・・・銀行だ。
企業からの融資が焦げ付き、不良債権と化していく。ハイパーインフレのせいで、通貨が紙切れ以下になってしまったため、借入金が返済されても利益にならない状態が続き、資金力のない地方銀行からつぶれていく。
そして、とうとう銀行という組織が、この国から姿を消した。
銀行がなくなれば、企業の資金繰りも悪化をたどり、必要最低限の企業を残してすべてつぶれてしまった。
重化学工業主体の財閥は、真っ先にそのあおりを受けて関連企業ごと倒産したため、軍事物資の生産がストップしてしまう結果となった。
そこに追い打ちをかけたのが、北からの侵攻であり、これといった反攻作戦も展開できずに、国土の大半を失ってしまったのだ。
制空権・制海権ともすでになく、軍事用の航空・船舶もすでに所有していない。武器・弾薬も枯渇してしまっており、昔ながらの剣と槍と弓矢でゲリラ戦をしているのが、この国の軍の現状だったりする。
すでにこの島最大の都市は、度重なる北からの空襲により主要な軍事施設や市庁舎などは使い物にならない廃墟と化してしまっている。民間所有の建物は無事なんだが、それらを接収してしまうと、この島からも出ていかなくてはいけなくなるほど困窮してしまう。
そのため、苦肉の策として、現在は使われていない、少し昔にドラマ撮影のために造られた、王宮の野外セットを接収して臨時庁舎としたのだ。
閑話休題。
ここは島内にある某国臨時政府庁舎内、大本営会議室。
「それで、外務大臣。我々の要求は、各国に伝えたのか?」
この国の現大統領から、外務大臣に質問が飛ぶ。
「はい。
『わが国で英雄として扱っていたかの軍人は、現在は国家反逆者として処刑し、その名誉はすべての記録から抹消した。
国家存続のために、あらゆる融資をしてほしい。
わが祖国を取り戻すための多国籍軍の受け入れを、無条件で受け入れる。』
と、大統領の親書と共に各国に手渡してまいりました。
しかし・・・・。」
「それ以上は言わなくてもよい。色よい返事がなかったのだろう?」
「はい。
すでに我が国の信用は地に墜ちており、どんなに言葉を重ねても、我が国にとって、あらゆる不平等となる取り決めでも構わないと提案しても、全く受け入れてもらう余地すらありませんでした。」
そんなくらい会議が続いたその時。
昼間だというのに、いきなり空が真っ暗になる。それは、夜よりも深い漆黒の闇に染まっていた。
「な!!なんだ!!あの生き物は!!」
そこに現れたのは、真っ黒な鱗に包まれた全長100m以上はあるの巨大な生き物。
姿かたちは蜥蜴に似ており、背中には1対の巨大な羽根がある。
そう。
『ドラゴン』と呼称される、空想上の動物によく似ている。
そんな生き物が、臨時政府の頭上にいるのだ。
金色に輝く2つの大きな瞳に睨まれた瞬間、その場にいたすべての動物は、恐怖のあまりその場から動く事ができなかった。
大きく開かれた口腔内から発せられる、この世のモノとは思えないほどの高密度で超高温な何かが発射された瞬間、その場にいたあらゆる生き物が灰すら残らずにその姿を消した。
巨大な生き物から発せられた何かは、その先に聳える山々を吹き飛ばし、射線上のあらゆるものを更地に変えながら数百キロほど進んだ後に霧散していく。
その現象を引き起こした巨大な生物は、その後、体組織を構成する何かがなくなったのか、その姿を保てずに霧散していった。
この日をもって、今世紀最悪のテロ国家と断定されていたかの半島国家は、その歴史に幕を下ろしたのであった。
そして。
国家を滅亡へと追いやった、かの生物が滞空していた足元の地面には、全長50㎝ほどの、金色に輝く構成成分不明の金属でできた彫像が鎮座していた。
この事実は、解明不可能な世界7不思議として、新たに語られていくことになる。




