【第47話】第1階層でレベリング(ドラゴンヘッド視点)
「トモエちゃんから貰った、この『迷宮検索機』っていう魔道具、すごい便利だな。ダンジョン内しか利用できないのが悔しいが。」
「まあ、それは仕方がないのでは?あれは、トモエちゃんが持っている『天恵技能』ですから。その天恵技能の能力の、ほんの一部分でも使えるようになったこの迷宮検索機も、チートな魔道具なんですからね。これ以上のモノを望んではいけないと思いますよ?
それと・・・・。
軍事上、詳細な地図表示が可能な魔道具なんか持っていたら、いろいろと面倒くさい問題が出てきますからね。」
ヒュレイムさんと僕事ユキヒデとで、トモエちゃんから貰った『迷宮検索機』についていろいろと話している。
そう、この『迷宮検索機』という魔道具は、チートすぎる魔道具なのだ。
1階層ごとしか表示されないとはいえ、階層内のあらゆる情報を”視る”ことができる。
トモエちゃん曰く、何匹モンスターが徘徊しているのかやモンスターのステータス情報。
宝箱や罠の位置。どんな罠なのか。また、罠の解除方法までもが解るらしい。もっとも、宝箱の中身までは解らないらしいが。
閑話休題。
「次の分岐ですが、左に行くとモンスターハウスがあってたら、宝箱のある部屋へと続きます。右側は、さらに分岐があってどん詰まりになりますね。
分岐のところで、左右にモンスターが待ち伏せしていますね。」
僕は、迷宮検索機を見ながらヒュレイムさんたちに解説をする。
「待ち伏せしている奴の種類と数は?」
ヒュレイムさんから指示が飛ぶ。
「通路に左側にゴブリンが20匹、右側にアシッドスライムが50匹。その奥にも50mくらい離れて、さらにモンスターがいますね。スライムの後ろには、コボルトが20匹います。ゴブリンの後ろには、上位種らしき種がワラワラと沸いているみたいです。」
僕の報告に、少し考えをまとめるヒュレイムさん。
「サララ。」
「はい!!」
いきなり呼ばれたサララちゃんが、素っ頓狂な返事を返す。
「トモエちゃんから、どれだけの魔法を習った?」
「魔法ですか?
え~~~っと。
攻撃魔法が各属性ごとに、『〇〇球』・『機関銃〇〇球』・『集束爆弾〇〇球』・『〇〇矢』・『〇〇槍』を教えてもらいました。
回復・治癒魔法は、怪我を治す『単体治癒』と、体力を回復させる『体力回復』。
・・・後は、状態異常系の解除魔法の『解毒回復』・『精神解呪』・『石化解呪』・『呪詛解呪』とかを習いました。
防御魔法と身体強化、・・・・あと仲間にかける付与魔法とかは、今練習中です。」
指を折りながら答えていくサララ。とってもかわゆいです。
「・・・・短期間で、結構頑張っているんだな。
まあ、いい。
トモエちゃんも言っていたが、この階層ではサララとティース、メディアのレベリングを行う。まずは肩慣らしとして、右側の通路を攻めてみよう。ある程度慣れてきたら、左側にあるモンスターハウスで特訓とする。
では、いこうか!!」
「おう!!」
ヒュレイムさんの号令とともに、僕たちはモンスターの群れに突入していく。
「右のスライムは、僕とサララで殲滅します。左のゴブリンはお願いします。」
「了解した。
メディアは・・・・」
ヒュレイムさんが前衛陣を引き連れてゴブリンと対峙するメディアに対しては、フレイムさんが講師役となっていろいろと指導しているみたいだ。
「さて、前衛陣の事はとりあえず放っておこう。僕たちは目の前のスライムの殲滅だけを考えようね。サララちゃん。」
「はい!!ユキヒデ君。」
こうして、僕とサララちゃんは、アシッドスライムと相対する。
「スライムの倒し方は、核を破壊すること。
ただそれだけだ。
スライムの体液は、いろいろと利用価値があるけど、今回は体液の収集は考えなくてもいいから。」
「どうしてですか?」
「僕が殲滅すれば、簡単に回収まで持ってこれるけど、アシッドスライムの体液は、ガラス以外は何でも溶かしてしまうからね。
今のサララちゃんが近づくと危険なんだよ。
それに、スライムの乱獲は、どうせトモエちゃんがやっていると思うから、僕たちは、・・・ただ殲滅することだけにしておこう。
これは、サララちゃんの訓練でもあるからね。」
「・・・そうでしたね。私の訓練でもあるんですね。」
少し間をおいて、サララちゃんは返事を返してきた。
「今のサララちゃんが使える攻撃魔法では、槍系統か弓矢系統が有効だけど、どちらも点攻撃だからね。ここは面攻撃の魔法を覚えようか。
面攻撃の魔法は、こんな魔法だよ
『我願うは、薄刃なる鎌鼬
我に仇名すモノたちを斬り裂け
風刃裂斬』」
僕がそう唱えると、不可視の風の刃が数枚生み出され、後方に待機していたコボルトを数匹斬り裂いて命を刈り取っていく。
「面攻撃ですか?その系統の魔法は覚えていません。」
サララちゃんは、その光景を見ながら、自分ではできないと申告する。その申告に対して僕は、サララちゃんなら大丈夫な理由を告げる。
「面攻撃だろうが、点攻撃だろうが、基本的にやっていることは同じだよ。」
「基本?」
サララちゃんは、その言葉に首をかしげる。
「そう、基本。
攻撃魔法の基本はね。一番最初に覚える初級魔法の『〇〇球』が派生していったものなんだ。トモエちゃんからは聞いていない?」
「・・・いえ、その事は教えてもらってませんね。」
「・・・そうだったんだ。
トモエちゃんの事だから、自分で気づかせたかったんだと思うけど・・・・・。
まあ、いいかな?
とにかくすべての攻撃魔法は、基本であるボール系が派生したものだと思ってもらっても構わない。
『基本を極めろ』という言葉がある通り、基本をおろそかにすると、その先にも行けなくなる。これは、すべての技術にいえる事なんだよ。
で、攻撃魔法で言えば、この基本であるボール系の”形状”がただ変化しただけなんだ。」
そう言いながら僕は、ファイアーボールを生み出していろいろと形を変化させる。僕の属性は火・風・時空間・無。この中で、形状を変化させやすく視認できるのは火属性となるため、ファイアーボールで実演してみせる。僕に倣ってサララちゃんも、形状を変化させようと頑張っているが、なかなかうまくいかないみたいだ。
「今のサララちゃんでは、すこし無理があったみたいだね。こういう事は、無詠唱か短縮詠唱ができると簡単にできるようになると思うよ。とりあえずは詠唱して、『水刃裂斬』か『氷刃裂斬』を出してみようか。」
「うん、わかった。詠唱は、
『我願うは、薄刃なる鎌鼬
我に仇名すモノたちを斬り裂け
風刃裂斬』
を参考にすればいいの?」
「とりあえずはそれでいいと思うよ。できなかったら、オリジナルの詠唱文にしないといけないけどね。」
「我願うは、薄刃なる凍える鎌鼬
我に仇名すモノたちを斬り裂け
氷刃裂斬」
僕の詠唱を少しアレンジして唱えたサララちゃん。しっかりと氷の刃が数枚現れ、目の前のスライム10数匹を斬り裂き、核を真っ二つにして体液を氷漬けにする。その後時間はかかったが、スライムとコボルトをサララちゃん1人で殲滅していった。
モンスターハウスへとやってきたぼくたちを待っていたのは、ゴブリンシリーズの群れだった。
身の丈が、普通のゴブリンの3倍くらいある『ビッグゴブリン』が20体以上いる。
入り口を睨むように横一列に並んでいるのは、横幅が普通のゴブリンの5倍はある『タンカーゴブリン』が30体ほど、100m四方ほどの部屋を仕切るように並んでいる。
天井付近には、普通のゴブリンの3割くらいの背丈で、蝙蝠のような黒い羽根を持った『フライゴブリン』が、50匹くらい何やら黒い鱗粉を撒き散らしながら、結構な速度を出して旋回している。
この3種は、ヒュレイムさん曰く変異種らしく、時折地上でも発見する事ができるんだそうだ。
特にフライゴブリンが撒き散らかしているあの黒い鱗粉を体内に入れてしまうと、『腐肉病』という伝染病を患うため、発見次第討伐するのが規則になっている。
もちろん討伐報酬は、空を飛んでいるという難易度のため高く設定させている。
この病気は、解毒魔法か解毒ポーションで対処できる。そのため、早期に発見できればパンデミックは起こらないのだが、治療費が払えないスラム街などで発病した場合は、その限りではなくなる。スラム街の人間や、入城税を払えない者が街の中に入れないのは、伝染病予防の目的もあったりする。また、城門の隣に銭湯が必ずあるのも、少しでも伝染病の元を街中に入れないための処置である。
閑話休題。
「フライゴブリンを先に何とかしないと、まともな戦闘ができんな。ユキヒデ、何とかできそうか?」
ヒュレイムさんが僕にこう尋ねてきた。確かに、フライゴブリン、特に撒き散らかしているあの鱗粉を何とかしないと、まともな戦闘はできそうにない。
「地上にいる連中も巻き込んでいいのならどうとでもできますが、その際は素材の確保はあきらめてください。」
「・・・・しかたない。素材はあきらめよう。ユキヒデ、お願いできるか?」
少し逡巡した後、ヒュレイムさんはそう僕に丸投げしてきた。
「わかりました。では、殲滅後、念のためにサララちゃんは、全員に解毒魔法をかけてね。
それから、全員念のため最初の曲がり角まで退避しておきましょう。そして、魔法が発動したら、全員部屋の方を直視しないでください。」
「わかった。用意しておく。」
「俺たちもわかった。」
僕を含めて全員が、最初の曲がり角まで退避した後、僕は、トモエちゃんから教えてもらった空間魔法『遠距離偵察』を使って、モンスターハウスの中を偵察しながら魔法を唱えた。
トモエちゃんは簡単に行っていたが、これは結構大変な作業になる。目の前に魔法を放つのならともかく、偵察している場所に魔法を遠隔操作で放つのだ。『遠隔指定』と『遠隔操作』という固有技能を習得するまでは、なかなか成功しなかった。
「我願うは煉獄なる灼熱の炎
遍く大地を照らす太陽神の息吹なり
我の願い受け入れたなら
我の視認する眼前の敵の前にその姿を現せ
『コロナバースト』」
僕の魔力の9割近くを持っていったこの魔法は、カテゴリー的には『特級魔法』の上位に分類される。
一応発動地点は、モンスターハウスの中心付近にしていたが、その余波は今僕たちのいる曲がり角まで及んでおり、荒れ狂う炎が目の前を通り過ぎていった。魔法を放つ前に張っておいた結界に、蜘蛛の巣状の罅が入るほどだ。
数分後、炎が収まった後、蜘蛛の巣状に罅が入った結界を解き中へと侵入する。
荒れ狂うう炎に焼かれたはずの迷宮の壁は、何事もなかったかのごとくそこに存在している。そして、辿りついたモンスターハウスは、その先にある宝箱を除いて、灰すら残っていなかった。
「これで、分類上は『特級魔法』なんだよな。この上にあるという『神話級魔法』ってのは、いったいどれほどの威力があるんだか。」
一瞬ですべてのモノを焼き尽くした魔法の痕跡を見ながら、ハイザックさんがそんな事を呟く。この魔法を放たれたら、都市など一瞬のうちに更地へと姿を変えるだろう。
僕は、トモエちゃんから教えてもらったことを、顔を引きつらせながら話していく。
「特級魔法は、街1つを一瞬で更地に変える魔法。
神話級魔法は、小さな国ならば、国土事一瞬で更地に変える魔法。
そんな事を、トモエちゃんから聞いています。」




