【第43話】D-1ランク昇格試験(その2)
その後、順調に第2階層・第3階層と攻略を進めていった僕たち一行。第4階層のボスを倒したところで、時間的に外では夜になる時間になる。
ダンジョン内では、外の光など入る事はないので、時間の感覚が狂ってはいるが、感覚的には夜・・・、それも結構な時間が経過している気がする。
「そろそろ今日の攻略を終えませんか?時間的に言えば、すでに真夜中な感じがします。空気の有無と時間を計るために灯している線香も、すでに5本目であと少しでなくなります。」
僕の一言で、ダンジョン内で夜を明かす事になった。
ダンジョン内では、時間の経過が狂いやすい。そのため、時計がない僕たちがとった作戦は、線香を使うことだった。線香が燃え尽きる時間は約3時間であり、さらに空気(僕にとっては酸素だが)の有無も解るため、ダンジョンを潜る冒険者たちにとっては、必須のアイテムとなっている。
で、現在その線香は6本目。つまり、ダンジョンに入ってから約18時間、つまり約半日経っていることになる。ダンジョンに入った時間を考えると、すでに外は夜になっているはずだ。
さらに言えば、回復の要であるアイナさんが、魔力欠乏で相当ふらついていることも原因だ。
いくらアイナさんが回復してくれているとはいえ、戦闘の連続で相当な疲れがたまっている。回復職のアイナさんに、ここらへんでしっかりと回復させてあげたいということもある。
「では、野営の順番だが。
ケントと私、カイトとサティ、ユキヒデとアイナの順だ。交代時間は、線香が燃え尽きた時とする。」
翌日。
第4階層目の探索をしていく。この階層からは、今まで出てきたモンスターが纏まって沸いてくるから、戦闘時間が増えて結構大変だった。そのため、ボスを倒したときには、線香を5本消費してしまっていた。
さらに翌日。
今回の試験での最終階層である第5階層に突入する僕たち。
第5階層に出てくるモンスターは、アシッドスライム・ゴブリン・コボルトといったこれまで出てきたモンスターたちに加え、新たに『ビッグセンティピード』という体調5~10mの巨大ムカデが出てくる。ボスはこのムカデの亜種の『スチールセンティピード』で、体長約20m、全身が鉄の甲殻に覆われた巨大ムカデだ。
どちらも、噛まれれば一瞬で終わりという初心者殺しの化け物でもある。
この階層でも、僕たちがする事は変わらない。
アシッドスライムが出た時は、僕1人が無双氏て体液を回収していく。すでに、アシッドスライムの体液の回収量は、1,000㎏を軽く超えている。スライム以外の時は、前衛陣が頑張って倒していく。僕はただ、サポートに徹していくだけだ。スライム以外は、5匹前後纏まって沸くが、10匹以上纏まって沸くことはない。そのため、前衛が多い僕たちにとっては、後衛のサポートがなくても何とか相手にできる量でもある。
話は変わるが、ポイズンスライムの毒液は、ガラスも溶かしてしまうため、ビンに小分けするのが大変だった。
そこで考えたのが、ビンの内側に薄く時空間魔法で時間停止の結界を張り、その中に閉じ込めるという方法だ。
この結界は、何かの衝撃を与えると霧散して消えるように設定してある。つまり、毒液が詰まったこのピンを床なりモンスターなりに投げつければ、その衝撃でビンが割れて中身が出てくる仕掛けとなっている。
結界の中の時間が停止しているのは、毒液が時間経過とともに中和されていき、1日放置しすれば万能の解毒ポーションへと変化する。ポーションになれば、1か月くらいは普通の瓶に入れておいても日持ちするらしい。
この事実は、過去の誰かが実験した結果であり、ギルドの図書館にある本にも書かれている。ただし、持ち帰ることが困難な代物なため、その解毒ポーションはとても高く、めったにお目にかかれない代物である。
僕は、この時空間魔法を施したビンに、毒液状態の体液と、解毒ポーションに変化させた体液とに分けてビン詰め(それぞれ200本近く採れた)し、アシッドスライムの体液を詰めた小瓶とともに、各自に数本ずつ渡してある。使って無くなった際は、申告してくれれば渡すようになっている。
普通の試験の時は、この毒対策をどうするかで、大きくもめているそうだ。この方法は、僕みたいに時空間魔法が使えないとできない方法だしね。
そのため神殿では、修道女から巫女へとなった者、もしくは、修道士から牧師になった者に対し、冒険者登録をするように対策を立てている。神殿から登録する人数は、試験を受ける人数によって上下するみたいだ。
これでアイナさんの負担も、少しは減るだろうと思う。何よりも、アイナさんが解毒魔法をかけれない(まだ解毒魔法は接触してでしかかけれないと本人が申告している)戦闘時の生存確率が増えたということだ。
第5階層は、毒持ちが多く沸くしね。
閑話休題。
第5階層をサクサクと探索していく僕たち。
アシッドスライムは僕の小遣い稼ぎのため出会った瞬間に瞬殺していく。ただし、第1階層で出会った個体よりも少しばかり強くなっている気がする。それは、ゴブリンやコボルトたちにも言えることで、倒す時間が少しずつ長くなっていく。
探索を開始してから20分
このダンジョンで出会う初めてのモンスター『ビッグセンティピード』と邂逅した。
「虫系のモンスターって、本当に気色悪いね。」
見た瞬間、サティさんがとてもいやそうな顔をしながら呟く。
「まだ、4階層にいたゴキブリよりはましでしょ?」
4階層で、一番巨大ゴキブリとの戦闘をしていたティリカが相槌をうつ。
確かに、あのゴキブリは参った。大群で押し寄せてきたときには、この世の終わりを確信したね!!
「確かにそうだけどさあ。ゴキにしても、ムカデにしても、素材として考えると、いい小遣い稼ぎになるんだよな・・・・。」
そんなことをカイトが呟きている。
そうなのだ。
このダンジョンい出てくるモンスターは、すべからず何らかの素材として取引されている。そして、その採集難易度に応じて、それぞれの素材の値段が決められている。
「そうなんだよね。ゴキちゃんは、甲殻がガラスの代用品の素材となるし、内臓は殺虫剤、というか、今も使っているこの線香の材料だったっけ?そのため、焼き払うことができなくて討伐するにが大変だったんだよね。」
僕がそんなことを言って相槌をうつ。
僕が火あぶりにして僕の魔法で火炙りにして殲滅すれば簡単だったんだが、このような理由でできなかった。今は、万能虚空庫の中でお金に代わるのを待っている状態だ。
そんな会話を繰り出しながら、僕たちは目の前にいるムカデと戦闘をしている。会話ができるほどに余裕なのは、出会った瞬間に僕が、風魔法ですべての足を切り落としてムカデの動きを封じたからだ。後はウネウネを体をくねらせているだけの蛇みたいな何かになっているためだ。
「やはりムカデは、足がなければただの動く紐だな。」
ほどなくしてムカデとの戦闘は終了した。
その後は、同じことを繰り返しながらサクサクと第5階層の探索は進んでいく。そして、線香が3本目が終わりかけたころ、ボス部屋の前に到着した。
ボス部屋の前には、5組ほどの冒険者のパーティが並んでいる。僕たちは、その列の最後尾に並んで順番を待つ。前に並んでいる冒険者たちを観察すると、皆大量の荷物を抱えており、ここまで運んでくるだけでも一苦労しているみたいだ。それが証拠に、このあたりの階層をうろついているのは、たいていがDランクで、あまりお金を持っていないというのに、荷物持ちのために、奴隷が各パーティに数人ずつ
必ず存在している。
つまり、通常の迷宮探索というのは、肉壁代わりに使用するのではなく、荷物持ちとして奴隷を使うことのほうが多い。
それは、この世界には魔導具は存在しているが、僕が持っている万能虚空庫の魔法を付与されている魔道具が、皆無ではないがほとんど存在していない。
それは、魔導具職人に時空間属性を持っているモノがいないためだ。
これは、魔導具に付与できる魔法は、職人が使用できる魔法しか付与できないのが大きな原因でもある。
そして、その数少ない万能虚空庫が付与された魔道具は、そのほとんどが、上位ランクの冒険者パーティのごく一部か、数か国に1つあればいいといったありさまである。
そのため、時空間属性を持っているモノたちが、好待遇を受けている現状になってしまうのだ。
また、現在確認されている万能虚空庫が付与された魔道具にしても、過去時空間属性を持っていたものがお遊びで作った魔道具のため、迷宮内ではあまり利用価値がないモノに付与されているのが現状である。
例えば、奴隷隷属の首輪とか、箱馬車に設置されている荷物入れとか、町中に植樹されている街路樹とか・・・・。もっと実用的で、持ち運びが容易なモノに付与しておいてくれと声高に叫ばれている。
まだ、奴隷隷属の首輪はいい。
その首輪をはめた奴隷がいれば事足りるからだ。もっとも、その首輪自体がプレミアが付いており、1つあたり王金貨100枚ほどで取引されていたりする。奴隷1人の金額が、金貨10枚~金貨500枚ほど。
現在確認されている万能虚空庫が付与された奴隷隷属の首輪の数は、全世界で100個ほどらしい。
それに対し僕たちは、それぞれが武装をしているだけで、大きな荷物を持ち運んでいることはない。キャンプ道具にしても魔物の素材にしても、すべて僕の持っている万能虚空庫の中に入っているからだ。もちろん、ヒュレイムさんの分も含めて、パーティメンバー全員の分がである。そのため、全員が大量の着替えも持ち運んでいるため、目の前の冒険者のように血糊のついた煤汚れた服装をしていないのだ。身なりも、僕が考えてアイナさんと2人でかけている清潔魔法(水属性を持っているアイナさんと、風属性と火属性を持っている僕の共同作業)清潔を保っている。
まあ、身に着けている防具は、ここまでの戦闘で結構ガタがきているが。
ボスの討伐の列に並ぶこと約1時間。
その間僕たちは、食事をして英気を養い、装備の確認作業やブリーフィングをしている。
前のパーティの面々も、僕たちと同様、この時間を利用して食事やら装備の確認などを行っている。
こういう作業は、できる時間があったらやっておくのが冒険者としてのセオリーであり、生き残るための最低限の義務でもある。
そんなことをしながら時間をつぶし、いよいよ僕たちの番となった。




