【第39話】治癒魔法の習得と原因の廃村(その2)
「サララさんお魔法講座を再開しましょう。」
「えっ!!今からですか?」
僕の提案に、心底驚くサララさん。
「ちょうどいいアンデッドが自らやってきてくれましたしね。サラらさんの属性とは、とっても相性がいいんですよ。あれ。
なので、覚えるのに難しい回復魔法を覚える前に、簡単な攻撃魔法を覚えてしまいましょう。」
「そうだな。アンデッドには、光属性か火属性が相性がいいからな。両方ともサララが持っている属性だ。確かに、攻撃魔法を覚えておいても損はないな。サララ、今回はお前が頼りだ。俺たち前衛陣には、あいつらを倒す手段が乏しい。
今後も同じような状況になった際、俺たちのパーティでは太刀打ちできなくなってしまう。
それに、こんなにも安全な練習舞台は、二度とないだろうからな。」
「・・・・そうですね。
私ににも、お役に立てれる事ですよね。今まで戦闘に参加できなかった分、頑張って習得したいと思います。」
ヒュレイムさんからも、ダメ押しの一言があり、サララさんの魔法実習が始まった。
「じゃあ、まずはサララさんの魔法を撃つ際のスタイルからおさらいです。」
「はい。」
「サララさんは、僕やユキヒデ君のように、補助発動具なしでは魔法を放つことはできません。これはいいですね。」
「はい。私は、杖なしでは発動できないことを知りました。少し残念ですが・・・・。」
「この話は『今はできない』と付け加えておきます。頑張れば、補助発動具がなくても魔法を放てれるようになります。これについては、おいおい頑張っていきましょう。
では、魔法についておさらいです。
魔法は、『イメージ』・『属性魔力』・『使用魔力量』・『言霊』の4つの要素で成り立っている。
体内もしくは、自然界にある魔素を使用して、自然現象を人為的に創り出す行為を言う。そのため、その現象がどのようにしておこっているのかを、より正確に理解していればしているほど、同じ大きさの魔力を練り込んだ魔法でもその威力が違ってくる。
ここまでは教えましたね。」
「はい。その中で、特に重要な『イメージ力』を高めるため、ついさっきまで頭が痛かったです。」
こうして、復習を兼ねて少し魔法のおさらいをする僕とサララさん。この間にも、アンデッドたちは次々に押し寄せてきてはいるが、濠に張られた聖水によってその行動を阻まれている。
「では、実際に魔法を放ってみましょう。まずは投擲系の基本である『|〇〇球(〇〇ボール)』と呼ばれているものからです。サララサンが放てるモノは、『光球』・『水球』・『火炎球』の3つですね。
で、これがその3つです。」
僕は、頭上に『光球』・『水球』・『火炎球』を作る。
「僕は、無詠唱でも作ることができますが、サララさんは、たぶん詠唱しないと作ることはできないと思います。これは、たんに熟練度の問題なので、今は詠唱して発動させてみましょう。」
詠唱について簡単にレクチャーしながら、サララさん専用の詠唱文を作り上げていく。
「・・・・・『火炎球』」
サララさんが、生まれて初めて魔法を放ち、放たれた火炎球はアンデッドの群れに着弾。10匹前後のアンデッドが炎に包まれ灰に変わっていく。
「・・・・・『聖光球』」
今度は、『光球』の派生で、聖属性を付与した『聖光球』を放つ。別の場所に着弾した聖光球は、広範囲にアンデッドを包み込み、存在自体を浄化して塵に変えていった。
「おめでとう。これで、サララさんにも、戦闘時に参加できるようになったね。」
「俺たちの戦闘の幅が広がったな。」
「・・・・ありがとう。みんな!!今まで戦闘で参加できなかった分、これからは頑張るよ!!」
ドラゴンヘッドの面々に祝福されるサララさん。とてもうれしそうに、樹上に伸びるウサギ耳がピコピコと揺れている。
「じゃ、、ここに集まるアンデッドを、どんどん倒していこうか。」
「はい!!ヒュレイムさん!!」
結局、サララさんの魔法の訓練と称して、すべてのアンデッドを倒してもらった。
戦闘後、魔力切れを起こしたサララさん。本日の訓練はここまでにしておき手、不寝番に就く人以外は、皆就寝となった。
不寝番の順番は、まず初めにナルシスさんとキョウカさん、シャルルさん、オーパルさん、シャルリードさんの5人でスタート。
約4時間交代で。次にナルミさん、マイラックさん、ハイザックさん、カザードさん、ユキヒデ君、ティースさんの6人が、一番大変な真ん中を担当。
最後に、僕、マイカちゃん、アイナさん、ヒュレイムさん、サララさんの5人が朝日を拝むことになる。
別に不寝番は立てなくても、結界ですべて対処できるのだが、僕やマイカちゃんといったつい昨日までEランクだったメンバーは、野営の経験がないため訓練もかねて不寝番をする事になった。僕は最後なのは、朝食を作る作業があるため、皆よりも早く起きる必要があるためだ。
時間は進み、僕たちの晩になって、少し肌寒いコテージの外で交代する。コテージの外では、暖を取るための焚き木が焚かれており、その周囲だけはとても暖かい。焚き木が焚かれている場所は、ちょうどLDKから伸びているウッドデッキから出た場所だ。緊急時のため、LDKの掃き出し窓は開きっぱなしになっている。
「警戒任務を続けながら、サララさんには本命の治癒魔法の習得を頑張ってもらいましょうかね。」
暇つぶしではないが、時間を有効に使うため、この時間を利用してサララさんの訓練を行う。
まず話すのは、『治癒魔法とは何か』という根本からだ。
「治癒魔法を行使するには、大きく分けて2つの方法がある。
1つ目は、神に願い、神の力を借り受けて行う方法。
この方法は、神殿で生活する修道女に教えている方法だね。信仰心でもって、治癒魔法を行使する方法とも見て取れる。
神との繋がりが濃くなるほど、魔法の威力も上がっていくから、別名『神殿治癒魔法』とも呼ばれている。
2つ目は、人体組織の知識を使った医学系の治癒魔法。
つまり、僕が行使している方法なんだけど、サララさんには、この方法で習得してもらおうと思っている。また、この世界にも存在している治療師や薬剤師のほとんどは、治癒魔法は使えないけど、医学知識を使って治療しているね。
さららさんに焼き付けた膨大な知識の中にも、医学に関するものがあったはずだけど、どう?」
「・・・・はい。確かに、人体組織の組成とか、血管?神経?なんかの説明もあります。トモエちゃん、治癒魔法を使用するには、これらの知識を利用するのですか?」
「それで合っているよ。より詳細なイメージさえあれば、部位欠損した場所も再生させることが可能なんだ。もちろん、病気の知識も焼き付けてあるから、神殿治癒魔法では直すことができない病気も治すことが可能だ。
そのあたりは高度な梅雨魔法にあたるから、まずは、解毒と怪我の回復を覚えていこうか。」
説明を加えながら実践していく僕とサララさん。実験台は、愛しの旦那様であるヒュレイムさんだ。こうして、日の出前までには、治癒魔法の初級である『外傷治癒』・『解毒治癒』と、水属性魔法の『血液精製』を習得したサララさんだった。
光属性にすこぶる相性がいいみたいだ。
そして、朝食後。
サララさんに、僕は紺色の修道服をプレゼントする。もちろん、今僕が着ている修道服と同じ、そこらの鉄の防具よりも丈夫な奴だ。つまり、修道女を卒業して巫女となったためだ。
そして、キョウカさんからは、魔法使いとなったお祝いに、今まで使用していた『トレントメイジの幹を削った長杖』が贈られた。ちなみに、キョウカさんの今のメイン武器は、僕が作った『世界樹の枝を使用した長杖』である。
全員が武装を終えて、予定通り、野営地としていた岩山を、そっくりそのまま万能異空庫にしまう僕。野営時鹿使用しないため、それ以外は万能異空庫の肥やしと化してしまうのは仕方がないなと諦める。
そして、戦闘隊形を維持しながら禍々しい気配が漂う方向へと向かっていくと・・・・・。
「予想通りだな。今回の原因はこれで確定だな。」
「ああ。このダンジョンで確定だ。それにしても、このダンジョンの事は知られていないよな。」
「ああ、少なくとも俺は聞いたことはないな。たぶん、ギルマスも知らないと思うぞ。」
そこには、岩山に大きく開いたダンジョンの入り口があった。それも、ヒュレイムさんとナルシスさんの話を聞く限り、誰にも知られていないダンジョンのようだ。ということは、このダンジョンの事を知っていたのは、今は亡き廃村に住んでいた村人たちだけだと言うことだ。
ダンジョンとは、魔素溜りに集まった陰魔力が、結晶化してできる『ダンジョンコア』の影響で地下もしくは空間上に出来上がる大迷宮だ。
基本、発見したらすぐさま領主に報告する義務がある。
「そういやあここ数年間、この村の羽振りがいいと目下らの噂だったな。
これが原因だったんか。
ダンジョンを報告もせずに独占していた結果、村が滅びたんじゃなあ。」
「さっさと原因をギルドに報告して、このダンジョンを公開してしまおう。」
「そうだな。」
ナルシスさんとヒュレイムさんとで、今後の事が話し合われ、さっさとチューヘルムに戻った僕たち。
「・・・・そうか。やはり未報告のダンジョンがあったか。それでこんな騒ぎを起こしたんだから、村が滅びたのは自業自得か。」
ナルシスさんの報告を聞いて納得するギルマス。
「で、ダンジョンのほうはどうします?
我々が攻略しますか?
それとも、今回の襲撃で食い扶持を取られた、冒険者たちの稼ぎの1つとしますか?」
ナルシスさんが、そんなことを聞いてきた。
「・・・・そうじゃのう。
チューヘルムからちょっと遠いからな。ダンジョンの攻略を頼めるか?別途、指名依頼扱いにするから。」
「わかりました。指名依頼は、2つのパーティに対してですよね?」
「ああ。そうしてもらって構わんぞい。さっさとつぶしてしまわんと、また襲撃が起こる可能性があるからな。」
なし崩し的に、ダンジョン攻略をする事になったみたいです。
まあ、楽しみでもありますが。




