【第36話】ギルドランクが上がりました
むくりとベッドから起き上がる僕。
いったい今は何時なんだろうと、万能地図作製に表示されている時計を確認する。
”〇月△日22:40”
え~~と、たしか1日30時間だったから、地球でいえば午後7時くらい?
半日以上も寝ていたみたいだ。隣では、マイカちゃんがまだすやすやと寝息を立てて眠りについている。
僕は、そっとベッドから抜け出ると、床に脱ぎ散らかしている修道服に身を包む。
「むみゅ~~~~~。」
いそいそと修道づくに着替えていると、マイカちゃんが寝ぼけ眼で起き上がる。
僕もそうだったが、お互い寝る時はいつも全裸だ。最初のうちは寝間着代わりとなる服を着ていたのだが、どうせ終身前に合体するのだからと、いつの間にか床に就く時は、お互い全裸になってしまっていた。
まあ、それはいいのだが。
「おはよう。マイカちゃん。・・・・おはようって時間じゃないけどね。」
「おはよう。トモエ君。今何時?」
「いま?現在時刻は、22:45だよ。そろそろ全員起きているだろうから、服を着て下に降りようか。」
「うん。わかった。
・・・・・。
この服はもう駄目ね。新しいのにしよう。」
床に散らばる服を広げたマイカちゃん。一瞬思考が止まり、考えた末新しい服にするみたいだ。僕は、遠くでつっ立ていただけだが、マイカちゃんはまともにヒュドラの地を浴びている。浄化の魔法で地の利はすべて取り除いてはいるが、激しく動いた影響で所々破れてしまっている。
新しく、万能異空庫から服を取り出して着替えると、僕渡マイカちゃんは、1階の食堂へと降りて行った。
「おはようございます。ナルシスさん。キョウカさん。」
「おはようさん。トモエちゃん、マイカちゃん。ぐっすりと眠れたか?
まあ、こっちへ来て座れ。
女将!!2人分の夕食を頼む。」
「はいよ!!今すぐ持っていくからね。」
僕たちは、ナルシスさんとキョウカさんの対面に座る。ナルシスさんたちも、夕食の途中みたいだ。
「ほかの人たちは?」
夕食が運ばれてくるまでの間、僕はほかのメンバーたちの動向を聞いた。
「相当な疲れがあるのか、全員まだ寝ているな。そろそろ起きだしても、いいころ合いなんだがな。」
「そうですね。あれから約半日経過していますからね。起きた時夜だったのには、ちょっと驚きました。」
「俺も今起きたところだ。昼くらいに一度起きて、ギルドに顔を出そうと思っていたんだがな。」
ナルシスさんは、そう言いながら夕食をつついている。隣に座るキョウカさんも、ニコニコしながら夕食を食べている。そんな会話をしていると、僕とマイカちゃんの夕食が運ばれてきた。
「「いただきます。」」
お腹がすいていた僕たちは、出された夕食を食べだした。
「食べながらでいいから聞いてくれ。」
「はい。」
夕食を食べながら聞いた、ナルシスさんの話はこうだ。
僕たちがぐっすりと眠っている頃に、一度ギルドから使者がやってきたらしい。使者は、僕たちを起こすことはせずに、宿屋に伝言を伝えに来ただけだった。
その伝言によると、ギルド内もいまだ混乱しているため、報告は明日の午前中で構わないということだ。
また、領主が不在のため、これから先ここがどうなっていくのかも予測不能だという話である。現在、領主代行として、冒険者ギルドのギルマスが就任しているらしい。
そして、ナルシスさんの予測では、当分の間この町に拘束されるだろうとのことだ。
「さて、トモエちゃん達も食べ終わったな。これからどうする?俺とキョウカは、これからギルドに顔を出してくる。一緒に来るか?」
「ん~~~~。どうせ暇ですし、ギルドに僕も行きます。今朝がた、口頭では伝えていますが、ヒュドラの死体を一回見せてあげたほうが皆も喜ぶでしょうから。」
「・・・・そうだな。ヒュドラの死体を見せておいたほうが安心するか。
女将さん。
俺たちはギルドに向かったと、皆に伝えておいてくれ。」
「あいよ。」
厨房の奥から声が聞こえた。
僕たちは、席を立つとギルドへと足を向けた。
「街中は、あまり混乱していませんね。」
「そうだな。襲撃直後とは思えんほど平和だな。」
冒険者ギルドへと向かう道すがら、僕たちは街中を観察しているが、大きな混乱もなくいつも通りの夕暮れを迎えている。1つ違うことといえば、そこかしこから炊き出しのいい匂いがしており、町を守った冒険者たちに無料でいろいろなものが振る舞われている。
しかし。
ギルドの中に足を踏み入れた途端、そこは何処かの前線基地化というがごとく喧騒に包まれている。ごった返している中をかき分けながら、近くにいた職員にギルド長との面会を頼むナルシスさん。
面会はすぐに叶い、職員に連れられて2階にある会議室へと向かう。
”コンコン”
「誰だ?」
「天空の牙のナルシス・キョウカ・トモエ・マイコをお連れしました。」
「入れ。」
「どうぞ。」
部屋の中に入ると、ギルマスのほかに数人が机を囲んでいた。
「ナルシスか。報告は明日でもよかったんだがな。今報告をされても、少し混乱しているから対応ができんぞ。」
「その事は、伝言で聞いております。顔を出させてもらったのは、ボスを見せてあげようかと思いまして。今朝がた口頭では伝えましたが、ヒュドラの死体は見せてませんでしょ?」
「・・・確かに見ていないな。て事は、今すぐに見れるんか?」
「そのために、トモエちゃんにも来てもらっています。」
ギルマスは、一緒にいた人たちに目配せした後に、僕たちのほうを向いた。
「では、ヒュドラの死体を見せてもらおうかのう。・・・そうだな。裏の訓練場でいいか。」
僕たちは、ギルドの裏手にある訓練場へと向かう。
その途中。
「今回の襲撃のボスが見たい奴は、一緒について来い!!」
1階を通る際に、ギルマスが1階にいるものに声をかけた。どうせ、見るなといっても見に来るのだ。それならば初めから誘ったほうがいい。
「トモエちゃん。中央付近に出してくれ。野郎どもは、壁際まで下がれ。」
準備ができたことを確認してから、ヒュドラの死体を訓練場の中央付近に出した。
「首の数が、聞いていたのよりも多いが、なぜだ?」
「最初は9本だったんがけどな。途中で首が生えてきたんだ。それも、斬り落とした数の倍。」
「それは大変だったのう。
・・・・ところで、これのほかにも、取り巻きの死体も当然あるのだろう?どうする?いらなければ、今回倒した魔物の死体をすべて買い取るが。」
「トモエちゃん、どうする?」
なにゆえに、僕に振ってきますか?ナルシスさん?
・・・・別にいいですけど。
「鉱石系の蟻は、使用予定があるので売りには出しません。ほかの素材は、今のところいらないので全部買い取ってください。」
「ちなみに、どんな鉱石なんだい?」
「そうですね・・・・鉄と銅、金と銀に、上位種から採れた各種属性魔鉄、ミスリル、オリハルコンですかね。蟻の大きさが、小さい奴でも1mを超えていましたからね。とてもおいしい獲物でしたね。」
「蟻から採れた素材については、後ほど交渉するかもしれん。その時は頼むな。」
「ええ。いいですよ?条件が折り合えば、別に売ってもかまいません。」
「そうそう。トモエちゃんたちの素材買取は、後回しでもいいか?」
「別にいいですよ?万能異空庫に入れておけば、腐ることはありませんし。」
「俺もそれでいいぞ。どうせしばらくはこの町から出れないんだろ?
詳しいことは明日の報告会で。
ところで、こいつはどうする?」
結局ヒュドラは、僕が時空間魔法でヒュドラの周囲5㎝程の空間を時間固定してから、明日の夕方までその場で放置する事になる。
「せっかくギルドに来たんだから、明日の予定を伝えておくぞ。」
そう言いながら、ギルマスは、ヒュドラを突いている冒険者(一部街の住民も混じっているが)に、明日の予定を伝えた。
翌日。
僕たち天空の牙と、ドラゴンヘッド御一行様は、ギルドの会議室に集まりボス戦の報告をギルマスにしていく。ボス戦なのに、戦闘訓練をしていた僕たちに少し呆れられたが、最終的には討伐をしたのでよしとする。
実は、報告会をする前に、サララさんとティースさんの奴隷解放を行い、冒険者として登録済みとなっている。
「そうそう。君たち全員のギルドランクじゃが、無条件で5つほど上げる事で落ち着くじゃろう。
今回参加した冒険者たちが、無条件で2つ、貢献度に応じて最大で4つ上がっているからな。それ以上の活躍をしている君たちは、5つ以上が最低条件となる。」
ギルマスが、何かを思い出したかのように、そう僕たちに報告をしてくる。
「でもいいんですか?僕やマイカちゃん辺りは、まだEランクですよ?」
「今回の襲撃でな。この町に元からいたEランクどもも、もれなく無条件でD-1~D-2へと上がっておる。活躍したものはそれ以上のランクにもな。君たちは、最前線・・・、それも右翼をこの人数で抑えきったんじゃ。トモエちゃんは、さらに中央と街の防御と、左翼も少しじゃな。
今回は特例処置でもあるが、そんな者たちのランクが低いと、ギルドとしても仕事がしずらくなる。強者は強者らしくではないが、力があるのもが下のランクをうろつかれていると、ほかの者にも迷惑がかかる。
というのが本音じゃな。」
そう言いながら、僕たちが何処のランクへと上がるのかを順に話していくギルマス。
まずは、Eランクの僕とマイカちゃん、シャルリードさんとシャルルさん、サララさんとティースさんについてだが。
襲撃時がただの奴隷だったサララさんとティースさん。
サララさんは、戦闘こそ参加しなかったが、後方支援として、左翼で前線に回復薬をばら撒いていた。それも、1つも怪我をしずにだ。
その回避能力は、すでにBランク程度の腕前である。
そんな理由で、全くの新人でありながらも『D-2』に昇格した。
マイカちゃん、シャルリードさん、シャルルさん、ティースさんは、右翼でナルシスさんとともに暴れており、結構な数の魔物と戦闘をし、大きな怪我もなく終わらせている。また、ヒュドラ戦でも首を2つほど斬り落としている。
そのため、全くの新人でありながらもそれぞれ『C-1』に昇格した。
そして僕だが。
実のところ今回の襲撃で、街が無傷で防衛できた最大の功労者が僕となるわけなので、その功績でSランク、少なくてもAランクに上げないと、ほかの者たちとの釣り合いが取れない。
しかし、EランクがいきなりAランクに上がるのは、少し問題があるとのことだ。今回の防衛線に参加した者たちは、Sランクに挙げても文句は出ないとの事だが、ほかの町ではそうはいかない。
また、僕が持っている『裏のランク』との兼ね合いもある。
そんなことを勘案し、僕のギルドランクは、『B-5』となった。
その他の人のランクも、それぞれ大きく上がっている。
まずは、A-5ランクのナルシスさんとキョウカさん、ナルミさん。A-4ランクのヒュレイムさんとハイザックさん、マイラックさんは、特例としてSランクに昇格した。特例なのは、『このランクに上がるには、世界的な偉業を達成し、少なくとも3国以上の国王からの推薦がないといけない』とされているためだ。
A-1ランクのオーパルさんとカザードさんは、A-5ランクに昇進。C-5のアイナさんは、B-5ランクへと昇進。最後に、Dー1のユキヒデ君は、C-5ランクへと昇進した。
そして夕方になり・・・・。
町中で大宴会が開始された。




