【第34話】トラブルは呼んでいないのにやってくる(その3)
「とりあえずはこれくらいですかね。」
僕の発言に、この部屋く時間が再び止まったのを感じた。
5分くらいしてからだろうか。ギルマスのバルドが再起動を果たし、僕に訪ねてくる。
「それじゃあ、トモエちゃん。魔物の詳細が分かると言っていたね。」
「はい。それがどうしましたか?」
解りきったことを聞いてくるとは予想しているが、ここはあえてとぼけてもる。
「この場でちょっと教えてくれるかな?何がどれだけいるのかを分かっているだけでも、作戦を立てるのに重宝するから。」
「そうですね~~~~。」
僕は、千里眼や鑑定を駆使して、魔物の群れを詳細に探っていく。
「まず初めに魔物の群れですが、北側を除いて3方向から押し寄せています。」
「それは予想していたことだな。それで?」
これについては、予想していた事だったらしい。全方向から押し寄せなかっただけでも万々歳だ。
「まずは東側から行きます。
前衛?となっているのが、鉄鋼蟻や岩石蟻といった蟻系の魔物が総数で約2万匹です。その後ろには、昆虫系の魔物が約1万匹。最後尾には、毒性の強い蛾の魔物ポイズンモスラーとその幼虫の群れ約1000匹です。
次は、中央ですね。
中央は空と陸上、あとは地下から来ています。
空からは鳥系の魔物が約1000匹、地上ではゴブリンが約600匹、オークが約500匹、オーガが約500匹、トロールが約100匹、地下からは、全長15mくらいの蚯蚓みたいな奴が10匹、モグラが130匹います。
最後に西側です。
西からは、獣系で占められていますね。ここは種類が多いので詳細は割愛しますが、戦闘は狼系の魔物で約1000匹、ついで虎や豹といった猫系が約1000匹、その後ろに足が遅い牛系や大型種のカバやサイ系の魔物が約500匹。
最後に、これらを纏めているリーダーでしょうか?
全長約150mの、9つの頭を持つヒュドラです。こいつには、護衛として眷属らしい蛇系の魔物が、20匹くらい従っています。」
自分で調べておいてなんだが、これだけの魔物に襲撃されては、詰みなんじゃないだろうか?まあ、こっちにも切り札がいくつかあるが。
ギルマスたちも、僕の報告に、開いた口が塞がっていない。僕かそれにかまわずに、次の報告をする。
「で、こちらの戦力ですが。
まずは、僕たちがこの町まで乗ってきたタマちゃん。これは、運搬猫というSランクの魔物です。そして、国王様に献上するため、今は僕の従魔であるドラゴン2匹と、僕が個人的に所有しているドラゴンが3匹。後は、即座に作り出せるゴーレムですかね。。
これが、最大戦力ですね。後は、僕の使う広域殲滅魔法ですかね。」
僕の最後の言葉に、再び何処かにお出かけしていく面々(天空の牙のメンバーは除く)。魔物の数の報告は、なんとは頑張って留まっていてくれていたのにね。
時間もないことだし、だっだと戻ってきてもらう。
「時間も差し迫っている事ですし、さっさと詳細を詰めていきましょう。」
「・・・・そうだな。・・・・いや、確かにそうだな。
ところで、君が所有しているドラゴンたちだが。今回は貸し出してくれるのかな?」
「はい。タマちゃんたちも、時には暴れさせてあげないと拗ねてしまいますから。今回は、渡りに船の状態です。
それに、この数を、この人数で守るのは、少々少なすぎます。魔物たちには、タマちゃんたちのストレス発散のための玩具になってもらいます。」
こうして、時間が差し迫る中、僕たちは防衛計画を練っていく。
目に前には、視界を埋め尽くすほどの魔物の群れが。さらに上空にも、空飛ぶ魔物が雲のように、夜明け前の茜色の空を覆っている。
この光景を見れば、『この町は滅んだ』と叙事詩か何かで語られるレベルです。
しかし、僕たちの上空には、ドラゴンが5匹がホバーリングしており、地上の最前列にはタマちゃんを一イに、僕がついさっき作り出した300体のゴーレムがいます。
「それじゃあ、ギルマス。予定通り、広域殲滅魔法で適当に間引きしますね。」
「ああ頼むよ。トモエちゃん。どれだけ間引くかによって、これからの疲労が変わる。その前に、例の補助魔法、頼めるか?」
「それもありましたね、では今からかけたいと思います。
『生命神の加護よ
我らに力を増幅する天の恵みを与えたまえ』
これで大丈夫です。
今から半日ほどは、ステータスの数値が約10倍に跳ね上がります。半日が経過すると、2時間ほどかけて元の数値に戻りますので気を付けてください。」
僕が唱えた短縮詠唱で、防衛にあたる全員に生命神の加護が与えられる。元の数値に戻るとは説明しているが、実際にはパワーレベリングみたいな感じになるため、ある程度のステータス増強が見込める。まあその辺りは、各自が気づく事なので、あえて話してはいないが。
「では、僕の担当箇所を殲滅します。」
「ああ、頼む。こっちは獣たちだったな。
・・・・予定通り、冒険者のヤローどもは、西側の獣どもを担当しろ!!
残りの箇所は、嬢ちゃんたちが何とかしてくれる。自分が与えられた場所を徹底的に守れ!!」
『オーーーーー!!!!!』
冒険者たちが一斉に、西側の獣型の魔物の群れに突入していく。
「ではナルシスさん。ヒュレイムさん。僕の魔法を放ったら、一斉に南側と東側に突撃かましてください。」
「わかった。雑魚は任せて大物を仕留めてくれ。」
「そうですね。では行きます。
『風刃斬撃波』
『雷刃斬撃波』
『水刃斬撃波』
『氷刃斬撃波』
『火炎刃斬撃波』」
僕は、右手の5本の指にそれぞれ風・雷・水・氷・火の属性の魔力を込めて、左から右に右腕を水平に振りぬく。わざと時間差をつけて発動させた5つの魔法は、右腕を振り抜いた範囲の延長線上に広がるように、極薄の斬撃波となって魔物たちに襲い掛かる。斬撃波の高さである地面から約120㎝以上の背丈のある魔物と、その高さを飛行していたあらゆるものが、斬撃波の餌食となって上下に斬り裂かれていった。
「中央は嬢ちゃんの魔法でほとんど倒したな。じゃあ俺たちは、蟻どもの殲滅だな。野郎ども、突撃だ!!」
ヒュレイムさんの合図で、一斉に駆け出していく前衛陣たち。程なくして、蟻たちとの乱戦が幕を開けた。
「タマちゃんたちも、ご飯の時間だよ。ドラゴンちゃんたちは、空を護ってね。」
「にゃお~~~~~ん!!!」
「GUGYA------!!!!」
ドラゴン5匹が一斉に飛び出していき、空を飛ぶ魔物たちに襲い掛かっていく。タマちゃんは、その俊敏性を生かして、後方に控えている魔物を蹴散らしていった。
僕は、戦場全体を千里眼で確認しながら、怪我をしている冒険者たちを遠隔で治療していく。
”ドカン!!”
”ドコン!!”
マイカちゃんが、手に持っている巨大なハンマーを振り下ろすたびに、着弾点付近の地面が大きく揺れて直径数メートルのクレーターが出来る。ハンマーの直撃を受けたアリたちはなすすべなく圧死していき、直撃を受けなくても、大きく揺れた地面によって上空に突き上げられる。上空に上がった蟻は、マイカちゃんの近くにいたシャルリードさんやシャルルさんによって、地面に着地する間に仕留められていく。
もとからなのか、たまたまなのかは知らないが、3人で連携しているのがすごい。
ナルシスさんたち剣術師は、縦横無尽に蟻たちを蹂躙していっている。オーパルは、今回に限れば、楯など無意味なので、始めたら装備はしてなく、剣のみで蹂躙劇に参加だ。
弓使いのナルミさんは、僕が教えた魔法との併用を実戦で訓練しているらしく、試行錯誤をしながら鏃に魔法を付与していた。
そうだった。
岩石はいらないけれど、鉱石系の蟻の素材は確保しておかないとね。
”ドカン!!”
”ドコン!!”
中央の戦場では、ドラゴンたちの無双劇で、魔物たちが殲滅されていく。ドラゴンたちは、中央に限らず、空を飛んでいる魔物たちの殲滅をお願いしている。そのため、西側の冒険者たちの担当区域にいる魔物も殲滅対象だ。
「サンキューーー!!」
今、上空から冒険者たちに襲い掛かろうとしていた全長が6m近くある鷹みたいな魔物が、ドラゴンブレスによって灰になっていた。地上に被害がないようにお願いしているため、冒険者たちは、獣のどもの殲滅に専念できている。
戦場中央に目を向けると、僕が作り出したゴーレムが、オーガやトロールといった巨体と戦っている。もちろん、冒険者たちの区画にも派遣して、大型種の殲滅を命令している。
ゴブリンやオークはともかく、オーガやトロールは巨体だし、力持ちだからね。僕たち人間にとっては、相手にしたくない魔物だ。遠くの戦場では、タマちゃんが暴れまわっており、魔物たちは轢き殺され、踏みつぶされ、噛み千切られて無残な姿態へと変わっていっている。
「広域転移門設置」
僕は、外壁設置した結界に沿うように、細長い転移門を設置する。出口は、戦場となっている平原の後方、ボスがいる場所と戦場との間に設定しておく。最前線を突っ切って襲ってきた魔物たちが、転移門に触れた瞬間、その場から消えていく。
今のところ、転移門を通過できるのは魔物たちだけで、冒険者たちは通過する事ができないように設定している。
「トモエちゃん、何をしたんだい?」
そんな光景を見ていたギルマスが、僕に訪ねてくる。
「結界沿いに転移門を広域に設定しておきました。通過できるのは、今のところ魔物たちだけです。魔物たちは、戦場の後方に開かれた出口に出ます。もちろん、一方通行でしので、ここまで来た魔物は、戦場の後方へとお帰り願っています。
改めて突撃してくるので、魔物たちにしてみれば、無限ループなんですがね。」
「また、えげつないことをしておるの。」
「そうですね。あっ。今さっきゲートを潜っていた巨大な虎が、タマちゃんに轢き殺されましたね。」
ついさっき転移門に到達して、そのまま後方へと転移していった巨大な虎型の魔物が、転移直後にタマちゃんに曳きことされて上空に10メートルくらい跳ね上がったいる。そこにドラゴンの1匹が近づき、空中で噛み殺されている。
「しかし、対峙すると死を覚悟しないといけないドラゴンだが、味方にすると、これほど心強い友軍はいないのお。」
「そうですね。」
僕はギルマスと話をしながら、指をパチンと鳴らす。
「なにをしたんだい?」
「蛾の羽根にある鱗粉は、猛毒で少しでも吸えば即死ですから。素材として子の羽根と毒は利用できるので、すべて毟っておきました。羽根さえなければ、ただの芋虫ですからね、ナルシスさんたちの敵ではありません。」
「その羽根。後で買い取らせてくれな。」
「はい、わかっていますよ。」
そうこうしているうちに、中央の戦場は、粗方殲滅が完了したみたいだ。
東側を担当している天空の牙とドラゴンヘッド、その他のAランクパーティのほうも殲滅が完了している。一番数の多い蟻たちにてこずっていたみたいだが、蟻の殲滅後は、それぞれ個人の独壇場と化していた。今は、中央部と別れて、取りこぼしをかたずけている。
西側も、ドラゴンの手助けを借りて殲滅が完了。今は解体作業へと移行している。
「さて、あとはボス狩り・・・の前にモグラと蚯蚓がまだいたね。」
「そうじゃの。すっかり忘れておったわ。どうするんじゃ?トモエちゃん。
相手は地面の下じゃぞ?」
「そんなもの簡単ですよ。手が出せない場所にいるのなら、手が出せる場所まで起こし願うだけです。
こうやって・・・・」
僕は、そういうと、地下から、蚯蚓とモグラを空中に転移させる。
「ギルマス。あの蚯蚓とモグラ。何かの素材にできますか?」
空中でウネウネと動く蚯蚓と、拘束から何とか抜け出そうともがいているモグラについて、僕はギルマスに確認をする。
「そうじゃのう・・・。蚯蚓のほうは、ロックワームというA5ランクの魔物じゃ。前衛陣に嫌われておるし、別名『城壁崩し』とも言われて折る魔物でのう。あの前週に生えている歯で城壁をかみ砕くんじゃ。その反面。あの歯は武器の素材として重宝されとる。体の部分は、城壁の素材として最高品質なモノになっておるし、粘膜をコーティングすれば物理攻撃耐性を上昇させる。
そんな理由から、全身無傷で討伐すれば、結構な値段で引き取ってもらえるぞ。
こいつの弱点は、口の中にある喉チンコみたいな部分だ。
しかし、口の中は酸の海だからな。喉チンコを潰せば動かなくなるんだが、喉チンコたどり着くまでが大変なんだよな。ちなみに、その喉チンコは、何かの難病の特効薬だったはずじゃ。
モグラのほうは、いい素材にならないから好きにするがよいぞ。」
「じゃあ、モグラはドラゴンちゃんの食事ですね。」
そう言いって空中にいるモグラを等間隔に5列に並ばせる。蚯蚓のほうは、魔法で喉チンコを切り取った後、そのまま万能異空庫に格納しておく。
5列に並んだモグラは、口を開けて突撃してきたドラゴンの胃袋にそのまま収まっていった。




