【第32話】トラブルは呼んでいないのにやってくる(その1)
チューヘルムへ到着した僕たちは、この町で5日間を過ごすことになった。
パリスさんの商売が優先だからね。僕たちはともかく、ただ便病しているだけの乗客は、文句が言えるはずもなく(というか、依頼を受けてもらうときに、しっかりと説明を受けているはず)・・・・。
まあ、文句を言ってくる人はいませんでしたが。
パリスさんと同じ宿をとった僕たちは、自由行動となります。僕とマイカちゃんは、ナルシスさんたち天空の牙のメンバー全員で、適当な依頼を探しに、・・・・いや違ったね。Eランクとしての修業をしに冒険者ギルドへと足を運びなす。
ついでに、5日間の滞在報告もしておかないとね。
「滞在報告も済んだから、ここでバラバラに分かれて、それぞれ適当な依頼を受けて暇を潰そうか。」
「そうですね。私はそれで構いませんよ?」
ナルシスさんの提案に、キョウカさんが応える。ほかの面々も、それでいいのか首を縦に振っている。それじゃあ・・・・、と、全員で依頼が貼ってあるボードに向かおうとした時、
「おっ!ナルシスじゃないか!!久しぶりだな!!」
振り向いた先で、スキンヘッドの男の人から声がかかる。どうも、このパーティは、男4人と女2人のパーティみたいだ。
「ん?ドラゴンヘッドのヒュレイムじゃないか。こっちこそ久しぶりだな。まだくたばってなかったんか?」
「おっ!!いうね~~~、ナルシスよ?お互い悪運だけは強いみたいで、今談天からのお誘いはないな!!
それにしても、お前のパーティメンバー、見ないうちにやけに増えたな。」
「そっちこそな。ところで、今日は暇か?」
「ああ、今仕事が終わったところだ。という事は、お前たちの暇なのか?」
「ああ。今護衛依頼を受けているが、5日間ほど暇を持て余していてな。適当な依頼でも受けて暇を潰そうと思っていたところだ。」
「・・・・それならば、明日ちょっと俺たちに付き合ってくれないか?お互いの戦力を確認しておきたいんだ。」
「ん?別にいいが、何か厄介事でもあるのか?」
「ここではちょっと言えない事だ。今晩何処かで落ち合おうか?俺たちは、『森の息吹亭』という宿に泊まっている。ナルシスたちは、どこに泊まっているんだ?」
「俺たちか?俺たちも同じ宿に泊まることになっている。依頼人と一緒だが、晩飯はお前たちと摂ると話しておく。」
なんか、ヒュレイムさんという人とナルシスさんとで、今晩と明日の予定が決まってしまったみたいだ。
別に、その事については構わないと思っている。
「では、腐れ縁どもの再会を祝して?かんぱ~~~~い!!!」
「かんぱ~~~~い!!」
その日の夜。
僕たちは、森の息吹亭の食堂の一角を占拠して、宴会が始まった。
「じゃあ、まず初めに。
親睦を深める意味で、お互い自己紹介と行くか。
俺の名はヒュレイム=バスタンク。ドラゴンヘッドのリーダーをしている。パーティ内では、前衛職の剣術師だ。冒険者ランクは、Aー4だ。」
まず初めに自己紹介をしたのは、リーダーでスキンヘッドなヒュレイムさん。種族はなんと魔族だそうだ。この世界では、人間と魔族との諍いはなく共存しあっているみたいだ。
ついでなのでヒュレイムさんに聞いてみたところ、魔王様はこの世界にも存在しているが、人間たちで言う国王と同じで、ただ国のトップに君臨している者という意味合いが強い。もちろん、世界征服を企んでいる者も中に入るらしいが、住んでいる大陸すら統一できないんだから、世界征服は夢物語になっているみたいだ。
ちなみに、南半球にあるチャイコリアス大陸出身だそうだ。この大陸は、群雄割拠な状態であり、国が興っては滅ぶという歴史を、かれこれ2,000年以上続けているとか。現在は『ギトウ帝国』・『ショクシン王国』・『ゴカン王国』の3大国家と、その他数百にも及ぶ小国に分裂しているそうだ。
で、この中で『魔王様』が統治している国家が、『ギトウ帝国』であり、南大陸最大面積を誇っている国家でもある。
ちなみに、ヒュレイムさんの故郷でもあるらしい。
「俺は、カザード=パンクっていう。双剣使いで切り込み隊長をしている。よろしくな。冒険者ランクは、Aー1だ。」
カザードさんは、3本の尻尾を生やした神犬族で、僕の遠い昔に別れた親戚筋にあたる人だ。種族としての話なので、僕とは血の繋がりはない。
「俺の名はハイザック=リザードだ。本当はもっと長ったらしい名前だが、フルネームで呼ばれたことは、このパーティに入ってからは一度もないな!!あとで教えてやるが、フルネームを間違えずに言えたら、金貨10枚をやろう。パーティ内では、槍を使った遊撃を担当している。冒険者ランクは、Aー4だ。」
ハイザックさんは、ノスシアス大陸に住んでいる寒冷地に適応した蜥蜴人だ。話を聞くに、どうも、雪霙竜や、氷結竜の血が入っているため、寒冷地でも普通に生活が可能な感じで進化していったそうだ。
ちなみにフルネームは、『ハイザック=グレイブ=ペプシア=コカ=ファンタス=リアル=デ・マーチス=コカ=ウーロン=カルプス=デ・コーラル=コカ=スノードラ=オレジア=リザード』だ。なんか、色々な飲料の名前がもじって入っている感じだった。
意味は、『雪霙竜の血が入るリザード家の末裔である、元コーラルという国のウーロン家の末裔で、元マーチスという国の王家だったファンタス家の末裔で、ペプシアの息子のハイザック』となっている。
昔は、2つの国の王家の血が流れているが、現在の王家とは、何の繋がりもないらしい。
ちなみに、僕とマイカちゃんは、すらすらと名前が言えたので金貨10枚貰った。
「俺は、マイラック=ハザードという。パーティ内では、後衛を守る楯職をしている。冒険者ランクは、Aー4だ。」
マイラックさんは、ヒュレイムさんと同じ魔族で、出身地も同じ腐れ縁らしい。このパーティも、はじめは2人だけだったらしいが、増えたり減ったりを繰り返して、半年ほど前からは、今の人数で行動しているみたいだ。
「僕は、ユキヒデ=タカハシといいます。現在18歳です。みんな信じませんが、異世界から来た日本人です。この世界に来てから約1年くらい経ちます。ヒュレイムさんとは、冒険者になった半年ほど前からお世話になっています。
冒険者ランクは、Dー1です。パーティ内では、荷物持ちと、後衛の魔法職です。持っている属性魔法は火と風と時空間です。時空間魔法は、『万能虚空庫』と『転移』しか使う事ができません。今は、『転移』の上位版である『転移門』という魔法の習得をするため頑張っています。」
そして、17歳のユキヒデ君だが、何やら懐かしい単語が、自己紹介の中に入っていた。ユキヒデ=タカハシという名前も、何処かで聞いたことがある名前だ。
どこからどう見ても日本人的な容姿をしていることから、僕やマイカちゃんのような転生者ではなく、転移してきたのだろう。
・・・・だんだんと思い出してきた。
そういえば、僕のクラスメイトだった人に、『高梁喜秀』という子がいた。核爆弾テロのあったあの日は、この子は確か風邪だか何だかで学校を休んでいたはずだ。という事は、何かの拍子で次元の穴が開いて、この子だけこの世界に転移してきたのかな?
後で、ヒミコさんに、少し聞いておこう。
「私は、ヒュレイムさんの奴隷をしているサララといいます。ヒュレイムさんの夜伽の相手と、パーティ内の家事全般を取り仕切っています。戦闘はできないので、ヒュレイムさん守ってもらっています。
後、奴隷から解放されたときは、ヒュレイムさんと結婚することになっています。」
「わたしは、ティースっていいます。奴隷です。ヒュレイムさん以外の男の人の夜伽相手として飼われています。戦闘はあまり得意じゃないですが、耳と勘が鋭いので、斥候として働いています。」
奴隷であるサララさんとティースさんは、夜伽相手として買われたことをはっきりと告白した。現在では、なくてはならない人材となっているみたいだ。
「次は俺たちだな。」
自己紹介を引き継いでナルシスさんから、僕たち天空の牙の自己紹介が始まっていく。ナルシスさんとヒュレイムさんの2人は、どうも旧知の仲らしいが、双方のメンバーが抜けたら、新たに加わったりしているため、改めて全員の自己紹介をしている。
ちなみに、戦闘がメインではないアマルさんたち奴隷は、パリスさんたちのテーブルで食事を摂っているためこちら側にはいない。食事が終了したら、僕たちにかまわずに部屋に戻ってもいいと、ナルシスさんが指示を出していた。
「シャルリード=ハイクークルといいます。
先日、恩赦を受けて奴隷身分から解放されて、今はオーパルさんのお嫁さんになりました。種族特性を利用して、上空から攻撃をする遊撃タイプの剣術師(長剣使い)です。」
ナルシスさんから始まった自己紹介は、シャルリードさんまで来たようだ。結婚の報告までしているのだから、ちゃっかりとしている。そして、ヒュレイムさんたちから祝福を受けていた。
「私は、シャルル=ハイクークルといいます。
元生涯奴隷(性奴隷)だったんですが、ここにいるトモエちゃんの力を借りて、奴隷身分から解放されました。今は、ナルシスさんとキョウカさんの義娘となっています。」
「次は僕ですね。
僕の名前は、トモエ=アスカです。
見ての通り、修道服を着ているので巫女さんをしています。このパーティでは回復担当と、広域殲滅担当?あとは、荷物持ち?をしています。先日冒険者になったばかりなので、まだEランクの新米です。」
「私の名前はマイコ・・・=アスカといいます。
トモエちゃんと同じで、先日冒険者になったばかりなので、まだEランクの新米です。
パーティでは、楯職をしています。よろしくお願いします。」
それぞれの自己紹介が終わった後は、再会を祝した宴会が始まりました。どうも、どんちゃん騒ぎをしているだけではなく、人が少なくなるのを待っているような感じです。
だって、こういう席なのに、あまりお酒が出てこないんです。
お酒を酌み交わしたのは、最初の乾杯時の1杯のみ。後は、ただの果実水のみです。
たぶん、ギルド内で言い澱んでいたお話があるんでしょうね。
「それで、ヒュレイムたちは、俺たちに何か話があるんだよな?」
ある程度人がいなくなり、食堂内が閑散としてきたところで、ナルシスさんがこう切り出しました。
「あるにはあるが、お前たち以外には聞かせたくないんだ。」
「・・・・わかった。トモエちゃん、何とかできるか?」
「そうですね。では、こうしましょう。
『我らの言葉を遮る壁よ 展開せよ』
結界を展開しました。これで大丈夫です。」
僕は、ナルシスさんに頼まれて、隔離結界を構築します。別に無詠唱でも展開できる結界なんですが、あえて短縮詠唱で結界を構築してみました。
「ありがとうな、トモエちゃん。
それで、話とはなんだ?」
「実はな、この町一帯の魔物の分布がおかしんだ。」
なにやら、大きなフラグが立っていたようです。




