【第30話】逆指名依頼
いよいよパリダカを出立する予定日がやってきた。
結局、街道の修復の指名依頼を受けることはなかった。飛竜10匹を、領主様であるワトソン=ヴェルドス=アパランチア様という貴族に、友好の証として進呈したためなのだが。現在、その10匹を軸とした空挺部隊が組織され、その練習がてら被災した村や町に支援物資を届けているからだ。ついでに、街道の被害状況も空から偵察している。
さて、これからの旅路なのだが・・・・。
パリダカから西に向かって山越えをして、王都トラディマウントまでの最短ルートは、崖崩れの影響で通行不能になっている。
川沿いを下り、シェングウへと抜けるルートは、途中で河川が氾濫しており街道が水没。現在は、水が引いるため通行は辛うじて可能だが、馬車での通行は困難となっている。そのため、アパランチア辺境伯領一帯の流通がストップしており、経済が停滞していたりする。
現在は、周辺領主の共同作業で、街道の復旧を最優先に行っているが、復旧には数か月がかかる見込み。
なお、川沿いの街道を遡って国境となっている山脈を超えて『ヤマト神尊皇国』と呼ばれる国へは通行可能となっているため、物資の一部はヤマト神尊皇国からの輸入に頼っているところが多い。
「さて、今後の予定ですが。
このままパリダカで、街道が復旧するまでいるのもなんです。さっさと移動したいんですが・・・・。」
この10日間で集めた情報をもとに、パリスさんと僕たち天空の牙で会議が開かれています。
「僕たちだけならば、タマちゃんに乗っていけば、どうにでもなりますが・・・・。」
僕が、言葉を濁しながら答えます。
「そうなんですよね。我々だけならば、いつでも出発ができます。しかし、ほかの商人たちのことも考えますと・・・・。
そうだ、トモエちゃん?
タマちゃんの乗車定員は何人ですか?」
パリスさんが、何かを思案しながら僕に問いかけてきます。
「そうですね。タマちゃんは成獣ですが、突然変異体ではないので、頑張っても50人程度ではないでしょうか?」
「ということは・・・・。
私の商会で5人、天空の牙で17人で22人は確定ですので、残りは25人程度ならば同行可能という事になりますね。」
「そういう事になりますね。で、一緒に連れて行くのですか?」
「そうですね・・・・。」
少し考え込むパリスさん。
僕としてはどっちでもいいのだが、パーティメンバーはどうなんだろうか?
「ナルシスさんは、どう考えてますか?」
「そうだな。俺としてはどっちでも構わないが・・・・。」
そう言いながら、奴隷であるナンシーちゃんたちを視るナルシスさん。
「そうですよね。中には『奴隷と同じ席には着きたくない!!』という人もいますもんね。」
「そこが問題になるな。やっぱり・・・・。」
そんな会話をナルシスさんとしていると、パリスさんが僕を呼んできた。
「トモエちゃん。」
「なんですか?」
「これから私と商業ギルドに行きましょう。」
「はい?」
意味が分からずに、パリスさんとともに商業ギルドへと向かう僕。
「よくこそ、商業ギルドへ。
パリスさん、トモエちゃん。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
受付の女の子が、定型文のような言葉で訪ねてくる。
「実は、我々は今日明日中には、王都へ向けて旅立つ予定なのですが。」
「しかし、王都方面の街道は、何処も通行止めでは?」
「私の護衛パーティには、『運搬猫』がいますので。街道が塞がっていても大丈夫です。」
「ああ、運搬猫ですか。一度見させてもらいましたが、あの魔物はいい魔物ですね。1匹2匹、商業ギルドで買おうかと話していることろです。
それで、この話と王都に向かう話が、どう絡んでくるんですか?」
「実は、トモエちゃんがテイムしている運搬猫の定員が50人ほどでして。我々のメンバーが全員乗っても、まだ25人ほどの空きがあります。この空きを利用して、こちらが提示した条件さえ納得していただければ、王都まで乗せていっても構わないという結論に達しました。」
「つまり、『逆指名依頼』をするということですか?」
「はい。依頼を出すのはトモエちゃんですがね。」
「では、別室でお話を詰めていきましょう。私の後についてきてください。」
受付のお姉さんは、そう言って席を立った。僕とパリスさんは、その音について、2階にある会議室の1つに案内される。
【逆指名依頼】
通常の依頼方法は、『〇〇ができる人材を△△の条件で雇います』だが、逆指名依頼は、『〇〇ができるので△△の条件で雇ってください』となる。
つまり、自分ができる技量を、自身で設定した条件下で売り込む以来のことを言う。
逆指名依頼の内容について、詳しく話を聞き依頼書を埋めていく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【逆依頼内容】
王都トラディマウントまでの人員及び物資の移送(定員25名+αで打ち切り・物資については下記参照)
【依頼主】
トモエ=アスカ(【冒険者ランク】E【商業ランク】E【生産者ランク】E)
【代行受注者】
商業ギルドパリダカ支部
【受注場所】
商業ギルドパリダカ支部
【依頼金額】
依頼金は、前払いとなっています。商業ギルドで、規定金額を支払いの上、乗車票を受け取ってください。
乗客:1人につき金貨5枚(王都まで乗車の場合)
荷物:馬車1台(小型馬車の場合))につき金貨10枚(途中下車した場合でも同額)
動物(馬など):1頭につき餌代込みで金貨15枚(途中下車した場合でも同額)
【依頼内容】
受注終了後、3日後の日の出とともに王都へ向けて旅立ちます。
依頼者がテイムしている運搬猫の定員にまだ余裕があるため、以下に示す条件に同意してもらえる人のみ定員となる人数まで募集します。
条件(1):運搬猫という魔物の中に乗車するので、魔物に乗る事に忌避感のない者のみ。
条件(2):途中、休息を兼ねて、パーティが護衛する商会の商売優先で、行程を組ませてもらいます。
条件(3):僕が所属しているパーティには、奴隷が8名います。そのため、奴隷が隣に座っていても別に構わないという者。
条件(4):ここに示している料金は、王都までの運賃のみです。食料や宿泊料金等は、各自負担してください。立ち寄る予定の町(2~3日逗留予定)では、各自で宿などを手配してください。
条件(5):途中逗留する町でのみ、途中下車を含め乗降が可能になります。それ以外の道中に存在する町や村へは、最短距離を進む関係上途中下車できません。
立ち寄る予定をしている町は、次の町となります。
チューヘルム(運賃金貨1枚)・シロイハーム(運賃金貨2枚)・オボウチャマ(運賃金貨3枚)・アリタシマン(運賃金貨4枚)・トラディマウント(運賃金貨5枚)
条件(6):物資のみの移送の場合は、出発日前日の正午に商業ギルドに来てください。現地での受け取り場所は、それぞれの町の商業ギルドとなります。
追加料金(金貨10枚:逗留する町の中に限る)の支払いで、指定住所への配達あり。
【集合場所】
明日の早朝、門が開く1時間前までに西門前広場に来てください。
その際、ギルドで受け取った乗車票を持参してください。
【注意事項】
(1)逗留する町までの道中は、休憩を取らずに進みます。そのため、トイレは出発前に済ませておいてください(運搬猫の中には、トイレ設備はありません)。
(2)運搬猫内での飲食は禁止します。飲食が発覚した場合は、発覚した場所で下車をしてもらいます(最短距離を進む関係上、街道から離れている場合があります)。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「こんなものかな?」
「そうですね。これくらいでいいでしょう。ではこの内容に沿って依頼板に張り出しておきます。」
「僕の依頼を受ける人はいますかね?」
「そうですね。今回の豪雨で、この町に足止めを食らっている人は多いと思いますので、すぐに定員が埋まると思いますよ。
話は変わりますが、『流れの魔導具職人』に指名依頼があります。」
「僕に指名依頼ですか?」
「はい。依頼者は、このギルドのギルマスですね。
依頼内容は、今回も逆指名依頼でも使われる運搬猫のテイムです。
この依頼は、別に受けても受けなくてもいいそうです。」
僕は、その依頼内容に少し考える。
実は、今回の魔物の譲渡で解った事だが、魔物の強さに応じて、譲渡先の者の保有魔力が変わってくる事だ。これは、テイムする際にも言える事だが、魔物を飼いならすには、所有者の強さを示さないといけない。
譲渡する際も、保有魔力自体はテイムした魔力量の2割くらいでいいが、それでも多いのは変わりない。
「別に、運搬猫を捕獲・テイムした後に譲渡してもいいのですが、この運搬猫は、たぶんギルドのランクでSランクに相当すると思います。
魔物をテイムするには保有している魔力量がモノを言います。
譲渡で所有者を変更する際も、テイムした魔力量の2割くらいいります。
この町に、これだけ多くの魔力を持っている人材がどれだけいますか?
それからもう1つ。
この運搬猫ですが、どうも個体数自体が非常に少ない魔物みたいなんです。世界中探せば、けっこうな数がいるとは思いますが、この周辺では僕の探査でも見かけません。
探してもいいですが、相当な時間がかかるものと覚悟をしておいてください。
このような理由で、この指名依頼はお断りします。」
別に受けなくてもいいと言っていたので、僕はこの依頼を受ける事はなかった。実際、捜索に時間がかかるので、たとえ受けたとしても、いつ納品?できるのかも解らない。
「ギルマスには、トモエちゃんが依頼を受けなかったことを伝えておきます。トモエちゃんが話してくれた依頼拒否の理由も含めてね。
では、2日後の昼に、またギルドに来てください。今回の逆指名依頼の担当は、私マリアとなります。」
「では、2日後にまた来ますね。マリアさん。」
「お待ちしております。」
こうして僕が依頼主となる、初めての逆指名依頼が始まった。




