【第27話】初めての依頼と戦闘訓練
薬草が生えている場所は、町の西門を抜けて街道を歩いて1時間くらいの森の入り口である。街道がこの先も、森の中まで続いているが、川沿いを走る道が、数か所で崖崩れにより通行止めになっているため、現在は、森の中に薬草を取りに来る者くらいしかこの街道を利用していない。
「本来ならばこの街道も、結構な人が利用しているんですよね?」
「ああ。この街道は、王都までつながっているからな。」
僕のつぶやきに、ナルシルさんが答えてくれる。
それはさておき、これから最低でも3か月間、僕たち2人はナルシスさんの下で冒険者としての修業?をすることになる。
今日は、薬草採取のついでに、僕たちが加わった事による新たな連携の確認をするつもりだ。そのため、現在この場には、天空の牙のメンバーが全員いる。
薬草採取は、全員で行ったため、1時間ほどで規定量の約3倍の量を収穫できた。以来の報酬は、パーティで均等割りするため、手伝ってもらったほうがみんなのためにもなる。ただ、依頼を受けたのが僕たちだっただけだ。
本来、このパーティで依頼を受ける人は、ナルシスさんかキョウカさんだ。
2人が、このパーティの行動方針も決めているため、それに合わせた依頼を受けてくる。僕たちは、ミーティングの際に同士対価の意見は言う事は可能だが、決定権は2人が握っている形になる。
「さてと。新たに、トモエちゃんのマイカちゃん。シャルリードにシャルルが加わったからな。戦闘メンバーが一気に4人増えたから連携の再確認と行こうか。
今日は軽く戦闘訓練をして午後のオークションを見学しないとな。
そういえばトモエちゃん。」
「なんですか?」
「昨日の晩、パリスの旦那から何か頼まれていたみたいだが、いったいなのを頼まれていたんだい?」
「パリスさんからは、生きたまま空飛ぶ魔物をテイムしてくれないかと頼まれました。なんか、今日のオークションで売りに出したいことを言っていましたよ。」
「それで?トモエちゃんの事だから、すでにテイムしてあるんだろう?
何をテイムしたんだい?」
僕は、今朝がたパリスさんに渡した目録の内容を話していく。
「そうそう。その時に、こんな面白い魔物を発見したんでテイムしたんですが。」
そう言いながら万能異空庫から取り出したのは、某有名映画に出てくる猫型のあのバスのような魔物だ。
見た目も、あのネ〇バスそのものの形をしている。
鑑定した結果、この魔物?の名前は『運搬猫』というらしい。幼獣段階では、軽ワゴン程度の人数しか乗せる事ができないが、成獣まで成長すると2階建て観光バス程度まで乗せる事ができる(内部?も2階建て構造になる)。そのため、成長するたびに、中に入れる人数が増えていく。トモエが従魔として使役しているのは、もちろん成獣した個体である。
さらにこの魔物は、主人となった者の考えた通りの内装?に変化してくれることだ。
「これはなんだ?」
「これは、『運搬猫』という魔物です。胴体の部分に人を乗せて、主人の指示した場所に移動してくれる便利な魔物です。これから先のパーティの移動手段にしようともってテイムしたんですが、どうですか?
ちなみに、この魔物は、今日のオークションの目玉にする予定でいます。一度、試乗してみましょう。」
僕は有無も言わさず、全員を運搬猫の中に押し込んで、このあたりを一周させる。
乗り心地は最高です。
まったく揺れませんし、座席となっている部分も、ふわふわで気持ちがいいです。結構なスピードが出ているのにも拘らず、他の人には見えていないのか、通り過ぎた時に突風が吹いている感じになっているみたいです。
「どうですか?これからの足として使えますかね?」
元の場所に戻った僕は、真っ先にこう質問をします。
全員の意見が一致した瞬間、今日から我が天空の牙の足は、この運搬猫に決定しました。普段は、僕の万能異空庫に入っていてもらい、中で自由にしてもらいます。
護衛依頼の時は、流石に使えませんがね。
本らの目的に戻り、連携訓練を再開します。
まずは、それぞれの基本的な配置の見直しから行っていく。
「まずは、前衛陣から行くか。
楯役は、オーパルとマイカちゃんでいいか?」
「そうですね。昨日購入した武器だと、そうななりますね。マイカちゃんの防具は、・・・・。今造っちゃいましょう。」
そう言って僕は、昨日マイカちゃんが購入した武器の素材を参考に、マイカちゃんの防具をこの場で製作する。少々重くても、今のマイカちゃんならば大丈夫だろう。
そうして完成したのが、神魔鋼鉄で造られ、表面を神魔鋼銀でコーティングされた、鈍く銀色に光る全身鎧だ。兜のほうは、視界を遮るので造っていない。
マイカちゃんは、目をリンリンと輝かせて防具を眺めているが、どうあがいても、1人で装着する事は不可能である。地球でも、数人の手を借りて装着・脱着いたモノだしね。でも、僕たちには、万能異空庫があるから1人でも装着・脱着する事はわけなくできる。
「でも、どうやってこれを装着するの?1人じゃ無理だよ!!」
マイカちゃんの、そこの部分で躓いているようだ。なので、ヒントを伝えてみる。
「マイカちゃん。一度これを万能異空庫の中に入れてみて。」
不思議に思いながらも、僕の指示に従うマイカちゃん。
「次に、今仕舞った全身鎧を、装着しているイメージを思い浮かべる。昨日購入した楯と剣も持ってみようか。その時の下着は、Tシャツにスパッツ姿でいいかな?靴下はいいけど、靴はなしでね。」
「うん。イメージできたよ。」
「それじゃ、そのイメージを思い浮かべたまま、万能異空庫から取り出してみて。」
「うん。やってみる。」
マイカちゃんの全身が一瞬光り輝くと、そこには、先ほど僕が造った全身鎧を装着し、右手にあの巨大な大剣を、左手には巨大楯を持ったマイカちゃんがいた。
マイカちゃんは、少し感動した声を上げると、早速着心地?を確かめるかのように、その場で色々な動きをする。その場で軽くジャンプをして、・・・着地。
”ドスン!!”
地面が大きく揺れて小さなクレーターを作った。
マイカちゃん。
あなた、今その体に1t近くの重りをつけてジャンプしましたね。それも5m近く飛んでいましたよ?
それに何で、その重装備でそんなに素早く動けるんですかね?
「おれも・・・・」
「オーパルさんには無理でしょうね。」
「やっぱりそう思うか?トモエちゃんも。」
「はい。普通の人では、あれほど激しく動くのは無理でしょうね。オーパルさんの分も造りましょうか?」
「そうだな。お願いしようかな。」
という事で早速製作開始です。
神魔鋼鉄と鋼鉄の合金製の全身鎧と巨大楯とバスターソード。
「マイカちゃんのもそうですが、全身鎧には、『サイズ自動調整』・『環境調整』・『稼働音軽減』・『自動修繕』の4つを付与してあります。重量軽減は付与していませんが、砂漠のど真ん中で装着していても、火傷などの心配はありません。
装着と脱着の方法は、マイカちゃんに示した方法で行ってください。」
「ああ、ありがとうな。トモエちゃん。」
僕は、この後、全員分の武器と防具を作成した。どれも、自重をしていないので、一級品に仕上がってしまった。
まあ、どうでもいいか。
これから僕の仲間なんだからね。いいモノを使ってほしい。
僕?
僕は修道服だけだよ?ついでにキョウカさんは、普段着のままで戦闘するんだけどね。もっとも、市販品の鉄の防具よりも、よっぽど丈夫なんだけど。
新しい防具を身に付けて、当初の目的通り連携の確認を行います。
まずは前衛陣。
楯役として、オーパルさんとマイカちゃん。
オーパルさんは、最前線で敵の攻撃を食い止めます。マイカちゃんは、高機動型の楯として、オーパルさんを抜けてきた敵を食い止める役につく事になった。
その後ろでは、俊敏性を生かしたシャルルさんとアイナさんが敵を翻弄させながら斬りつけ、ナルシスさんが止めを指すといった感じになっています。
シャルリードさんは、上空から襲ってくる敵の対応と、上空からの攻撃を行う遊撃型の前衛となる。種族的にも、保有魔力が高いため、色々な魔法も覚えてもらう事になった。ちなみに属性魔力は、闇・風・火・無の4属性だ。
ここからが後衛陣となる。
まずは、馬車の屋根の上もしくは、運搬猫のタマちゃん(見た瞬間にマイカちゃんがそう呼んだが、名前として盗賊されてしまった)の上に乗っかって、飛び道具である弓で攻撃をするナルミさん。僕が造った魔道具化した矢筒で、矢が無くなる事がなくなったため、無限に攻撃をする事が可能になる。
そのとなりでは、僕とキョウカさんが陣取り、支援魔法や回復魔法(僕が担当)、広範囲殲滅魔法(キョウカさんと僕が担当)を放つ。今までは、ポーションによる回復しかできなかったチームだが、僕の加入によってポーション代が浮くと、経理担当のキョウカさんが喜んでいた。ポーション代が家計?を圧迫していたそうだ。
そして、僕には、非戦闘員たちの護衛と探敵任務がある。と言っても、非戦闘員の奴隷たちには、クロスボウで死角を護ってもらっているのだが。
広範囲探敵魔法で、敵の位置を正確に割り出し、念話で全員に伝えるのだ。神魔鋼銀製の指輪に、万能異空庫への出入り口とともに、何となしに付けくわえた|パーティ間の念話機能だったが、今回の戦闘訓練で行った実戦訓練で、その能力を発揮するに至った。なんせ、敵にこちら側の作戦や配置などを知られることなく殲滅ができたからだ。
それは、僕からの探敵情報から始まり、前衛陣のみで念話を使った戦闘配置の即時変更等、幅広く使用されている。
その他の奴隷の皆さんは、僕が造ったクロスボウで、馬車の中から僕たちの死角となっている場所の防衛に徹してもらっている。
それは、戦闘訓練を行うために協力してくれた盗賊団で確認できた。
この盗賊団、『毒蜘蛛の山嵐』という名前の悪名高き大盗賊団で、パリダカから川を超えて東へ向かう街道に出没している盗賊団だ。この盗賊団のせいで、隣の領へ行く街道が、半ば通行止め状態になっており、騎士団による討伐も雲隠れがうまく、あまり効果がなく終わっている。そのため、『毒蜘蛛の山嵐』には、多額の報奨金がかけられており、討伐すればアパランチア辺境伯領内では、英雄扱いされるみたいだ。
僕の探敵魔法と千里眼のコンボの前では、どんなに雲隠れが上手でも、地上に拠点を構えている限りは無駄なあがきだった。
そして、戦闘訓練の名のもとに、僕たち天空の牙によって、見事に討伐され、パリダカ郊外の断頭台に、その首が並ぶことになった。
それにしても。
このパリダカの周辺位は、やけに盗賊さんが多い気がする。
そんな疑問をナルシスさんに投げかけてみると、こんな答えが返ってきた。
「何処の国も同じ傾向があるんだが、国の辺境部には盗賊が多数巣食っているんだ。そのため、辺境へ行くほど盗賊の討伐が多くなる。
しかし、トモエちゃんが壊滅させた数からすると、少し多いような気がするな。
このあたりは領主が考える事だから、俺たちにはあまり関係のない話だ。」
千里眼での観察で、盗賊さんを見つけたら、これから先は真っ先に潰す事にしよう。
今回のように、戦闘訓練に使う事もあれば、前回のように適当な街に転移させて潰す事もあるのかな?盗賊さんは、ただの実験道具扱いなので、これからもモルモットとして活躍の場はたくさんある気がする。
そんな事を考えながら、パリダカへと帰還していった。